『碧の章』第25話:訓練場の動く的
《ロガンの心臓》は、クーネアの手によって利緒専用に生まれ変わった。
アグロギアは、使用者の状況を見極め適切に魔力を吸収する役割を果たしていた。
それが制御を行わないただの宝石に変わったことで、魔法を使えない人間に、という思想が消え去り、あるだけ奪う悪魔の首飾りと化した。
最大蓄積量が変わったわけではないが、内容量が1でも減ると即座に利緒の魔力を奪いにかかる。
幸いコスト0の魔法が使えない状態で、無理に吸収するようなことはなく、30分程度、貧血状態に似た感覚さえ堪えれば良かった。
手放すにあたり、クーネアは納得がいかないようであったが、制御コアは想定通りの効力を発揮したため、ひとまずの成果は出ていると不満は飲み込んだようだ。
ところで、この《ロガンの心臓》だが、なぜか購入金額は全額利緒名義になっている。
自分のものは、自分で買えというグウェイの言い分はもっともだが、啖呵切ってそれか、と利緒は言いたかった。
正確には、グウェイが全額貸し出している扱いになっているため、クーネアに迷惑はかかっていない。しかし、グウェイに借りていることこそ面倒になりかねないと、この10日で利緒は十分に思い知っていた。
早急に、お金を稼ぐ手段を見つけなければならない。
もともとセラヴィとも、学園で働くよう話をしており、これはいい機会ではあった。
学園生として過ごすことも提案されたが、この世界に来る前に十分に学校生活は送っている。あえて学び舎に籍を置こうとは思わなかった。
「クーネア、なにかオススメの仕事あるかな。僕に出来るやつ。」
資格のいらない、自分に出来る仕事を探そうと、利緒はクーネアに相談する。
「そういうのは、アーシェが詳しいかな。」
学生会は学園生のための組織ではあるが、学園生達に仕事を紹介することもあり、能力に合わせた斡旋をするにはうってつけらしい。
研究成果の報告もありちょうどアーシェに会いに行く、ということで利緒も同伴させてもらうことにした。
アルバイトの経験でしかないのだが、それなりのサービスを求められる日本で鍛えられた接客力はそれなりにある。そういった仕事が見つかればいいけれど、と利緒は考えていた。
◇
利緒は、この世界は異常であると悟った。
「ばかやろおぉぉぉぉっ!」
利緒は数々の魔法の脅威に晒されながら、叫ぶ。グウェイの手から逃れても、利緒に魔法の雨が降る。
「逃げる相手への命中精度が低いな。行動予測、いや、式が複雑になるしな。」
「威力よりも、数や範囲の設定もありかもしれないですね。」
「単体だからこその問題であって、多数を相手にするにはこれで良いのでは?」
魔法を使う面々は、いたって真面目であった。地面にぶつかった轟音にかき消され、利緒の叫びは誰にも届くことがなかった。
利緒は了承していない「ディスティマンの弟子」という看板が、悪い方に作用していた。
誰も、利緒の心配などしない。
魔法という超常的力は、個々の差異をより顕著にする。同じ人でありながら、人のカテゴリから外れてしまうのだ。
その上、あのディスティマンの弟子である。常人を卓越した能力があって然るべきである。
《ロガンの心臓》が無ければ、死んでいた。
しかし、利緒は生きていた。
誤解は広まり、利緒は今日も走り続ける。
◇
利緒が紹介された仕事の中で、一番高かったのが訓練場の常駐監督者だった。施設を利用する人たちへの案内などを主な業務とする。
これだけなら、利緒が叫ぶことはなかっただろう。
だが、元々怪しかったのだ。
確かにはじめに紹介された時、1つだけ金額がやけに高かったことを利緒は覚えている。だからといって、なんの資格も実績もなくつける、高級取りな仕事が普通であるはずがなかった。
実は、仕事を紹介してくれたアーシェの先輩が、利緒を哀れむような目で見ていたのだと、後から聞いた。
噂の「キ・ディスティマン」の弟子が訓練場にいる。
そんな噂がある事を聞いたのは、初めて訓練場で働くことになり、その説明を受けた直後のことだった。
「すみませーん。ここで魔法の威力実験出来るって聞いたんですけどー。」
初めのお客は、利緒と同じか少し上くらいの女の人だった。先輩の職員の方が、対応をする。
「ふーん。あの子が?」
「そうらしいですね、実際直筆の紹介状もいただいてますし。」
2人が利緒のことをチラチラと見ながら話をしていた。少し距離があったため、会話はよく聞き取れなかったが、新人の紹介でもしているのかと利緒は思っていた。
「カンナリオ君、ちょっと来てくれるかな。」
「はい、なんですか。」
「これ付けて、訓練場にいってもらえるかな。」
先輩から渡されたのは、魔力測定を行った時に使用したものと似た腕輪。利緒は渡されるまま装着し、訓練場の中に入っていった。
「じゃあ、始めるよ。」
中ほどまで進んだところで、訓練場に声が響く。利緒が入口の方に振り返ると、先ほどの女性が杖を構える。
【碧の魔法「暮泥む飢餓の帷」】
何が起こったわからなかったが、何をしなければいけないのかはわかった。
利緒は首飾りを握りしめ、その魔力を解放した。
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