『碧の章』第23話:10分に1度って不便です
「あの話、どう思う?」
利緒がマギニアに来て10日、正確にはグウェイの我儘から始まった特訓を受け始めて10日、学園では、利緒に関してのことが話題となっていた。
クーネア・ル・ルナフィアが連れて来た少年で、特殊な魔法の才があり、《殲滅の大魔道》に弟子入りして指導を受けている、という噂が広まっていた。
「あーディスティマン先生の愛弟子?なんかディスティマン先生も乗り気みたいで、沢山の魔法を教えてるってやつ。」
「第4訓練場が封鎖されているのも、特殊な訓練のためだってね。」
「ルナフィアさんもいるんでしょ?あの娘、魔法の効力をあげる研究でディスティマン先生に認められて一緒に参加してるって。」
「そういや、クーネアってブレガに退園突きつけられたの、自分でアグロギア見つけてきて、立証してで、おかげでブレガ今大変らしいね」
「あー、ディスティマン先生、威力向上の可能性があると、どこからか聞きつけてやってくるらしいね。そこからかぁ。」
ある女子グループでは、クーネアも話題に上がっていた。
ヴィズィーやアーシャ、ニナといった普段クーネアと仲の良い面々は、この話題について降ると曖昧に笑うばかりで、情報を掴めない。
強く迫ろうにも、グウェイやセラヴィの名前が出てくるため、それ以上手が出せなかった。
とは言え、皆それぞれ面倒ごとに巻き込まれたと認識されたこともあって、学園では過ごしにくくなるようなことは特になかった。
「ニナ。どうしても駄目か?」
「駄目なのです。グウ爺に止められちゃったら無理なのです。」
ニナは先輩からの依頼に、投げやりに答えた。最近は、何を撮るにも許可伺いを立てねばならず憂鬱だ、とニナはいう。
「ははは、ディスティマン先生が絡んでいるんだ。下手に手を出すと広報部がどうなるか分からないよ。」
「それはそうですけどね、部長。入管での噂を始め、話題性はかなりのもんでここで特ダネ掴めなきゃ広報部としてどうなんですって話ですよ。」
「そうなんだけどね。僕も首絞められてなきゃ賛成したんだけどね。」
自分勝手な権力者は凄いね、と広報部部長は笑う。特にグウェイは魔法使いとしても非常に優秀な為、無理も無茶も通ってしまう。
「……マジすか。」
「ディスティマン先生だから、で納得されちゃうあたりネタにもならないけどね。真面目に僕らが在籍してられるかがかかってる。」
普段から、好き勝手やっている分、この程度では醜聞にすらならない。
「とはいえ、ディスティマン先生の指導を受けられるってのは羨ましいね。」
「……そうかなぁ。」
実際の利緒の境遇を知っているニナは、それが良いものとは思えない。それが偶々利緒だけそうなのか、それともグウェイの指導とはああいうものなのか。
「ニナ、何か言ったか?」
「いんや、なんでもないですよー。」
リオくんに会いたいなぁ、と溜息をつきながら、ニナは「公開許可の降りた写真」を並べていった。
◇
グウェイが使う魔法のうち、カード化されていなかった魔法を利緒は使うことが出来なかった。事情を知らない人間には、使える魔法の共通点が見つからず、利緒の奇妙な点がまた1つ増えた。
利緒がカードゲームのことを語らず、「知っている魔法は使える」という説明しか出来ない為、より一層謎が深まるばかりだった。
系統、開発された時代、一般的な魔力消費と色々な観点から考察がされたが、残念ながらグウェイを初めとして関わる関係者には、その規則性を発見することは出来なかった。
また、コストが7を超える魔法について、使えるかどうか分からないことが分かった。魔力単位6までは良いのだが、それ以上は体が持たないのか、利緒が倒れてしまうためだ。
3日4日と繰り返すも、6を超えてしばらくするとパタンと倒れてしまう。日毎に倒れるまでの時間が伸びることもなく、利緒の機能的活動限界として記録されることとなった。
「カンナリオ、今日は終わりだ!こっち来い!」
「うーい。」
グウェイは、一通りの魔法に対して利緒が対象できたことを確認して、訓練を切り上げる。初めのうちはボロボロになっていた利緒だったが、起動された魔法を看る眼と、底上げされた身体能力、そして最悪に備えての異能を持って、日々の試練を乗り越えられるようになっていた。
しかし、破壊不能はダメージ無効とは違い、当たれば痛い。
それなりの数の被弾をしておいて、軽い返事でグウェイの元にやって来る利緒を見て、ネメルはなんとも言えない気持ちになった。
3日前まではネメルの治療を受ける間、涙を堪えながら、それでも涙を流していた。それが一昨日から、落ち着いたようになって、今日は「ボロボロなんで治してください。」とやって来た。
「リオ君、だいぶ慣れたみたいだね。」
ネメルが笑って、治療のために利緒を引き寄せる。
ネメルは看護教諭らしく白衣を羽織っているが、その下は黒のチューブトップだ。
編み込んだ髪を後頭部でまとめており、うなじから鎖骨と白い肌が目立つ。
「プルプル震えてる感じリオ君、可愛かったんだけどなぁ。」
「ミッター先生、趣味悪いですよ。」
僕は可愛くなくていいんですよ、と利緒は言う。
「とっとと治して、とっとと来い。」
グウェイは急かすように声をかけた。
しばらくして痛みが引いたので、利緒はネメルから離れてグウェイの隣に座る。
並んで座る2人を見て、まるで爺と孫みたいだとネメルは思った。
普段、自分勝手なお爺ちゃんだが、孫には少し甘い。そんな想像をして笑ってしまったネメルを、グウェイが睨みつけた。
◇
「一応「陽堕つ暗の禍玉」をあの威力で1時間に1度、日に3度使えるというのはそれなりに戦術的価値がある。」
発動可能になるまで5時間はかかるがな、とグウェイは利緒を睨んでいう。
一通りの魔法に関する調査を終えた上で、利緒に対するグウェイの評価は高くなかった。
魔法・異能を使うにあたっての効率の悪さが際立った為だ。確かに魔力の消費量に対する効率、その回復速度は凄いが、10分1単位、最大6単位という回数制限が大きく足を引っ張っている。
「魔法が使える、異能が使える、回復が早い、威力も高い……。だが、現状のカンナリオは運用が難しい。」
「燃費悪すぎですもんね。「護る物、汝は不変なり」だって、使うまでに30分かかる……。」
利緒は、思っていたほど自由に動けない現実が少し寂しい。
「それ、多分なんだが、カンナリオの設計思想は数による制圧なんじゃねぇかと思うわ。」
1体では、1時間に1度だが、6体になれば10分に一度。それが100、200と増えていけば、相手は塵ものこらない、というのがグウェイの推測だ。
「前衛が強化魔法で戦う、後ろから異能、回復魔法、補助魔法で支援。2、3時間でそれなりの魔法が使えて、5時間経てば止められない高威力砲台と考えれば恐ろしい話だろ。」
確かに、数が多いなら脅威である。利緒は話を聞きながら、長篠の戦いの逸話を思い出す。だがしかし、利緒は1人だ。
「……複数前提だとして、単体の僕はどう動けばいいんです?」
「それなんだがな、面白いもんを持ってきたぜ。」
グウェイはそういって、5つの宝石をあしらった首飾りを取り出した。
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