『碧の章』第22話:「カンナ」の眼
【《殲滅の大魔道》グウェイ】
学園「イメラルディオ」における、広範囲殲滅魔法の権威である。その高齢に反して、活動的であり、傍若無人であることで知られる。
利緒が知っているカードでは、能力欄が狭くフレーバーを持っていなかった。
ストーリーでは、学園に訪れる脅威に対して立ち上がり、文字通り敵を殲滅させる、まさに理不尽の体現であった。
そして、利緒はその理不尽と対面していた。セラヴィの検査を受けた翌日に、利緒はグウェイの教育を受けていた。そう、命がかかっていても、あくまで教育であった。
「ほらほら、どうした。まだまだ降ってくるぞ!」
【碧の魔法「陽堕つ暗の禍玉」】
【碧の魔法「霧払う深緑の礫」】
【碧の魔法「降注ぐ殲の咆哮」】
それぞれ異なる魔法による、連続攻撃。
グウェイが杖を振るうたびに、空から、地面から、様々な攻撃が利緒を襲い続ける。
「大丈夫、怪我なんてすぐに直してくれる、優秀な先生を呼んであるからな!」
だから安心して死ね、と杖を振り続ける。
「あの、さすがに死んだら直せませんよ。」
「じゃあ、死なないように頑張るしかないなぁ!」
呼ばれていた看護教諭ネメル・キ・ミッターが呆れたように言うと、グウェイはさらに頑張れと叫ぶ。声を張り上げて、利緒を叱咤激励している様は、とても楽しそうだ。
その横でクーネアは、ハラハラと拳を胸元で固めて、見守っていた。
この場には、利緒、クーネア、グウェイ、ネメルの4人。そこにグウェイを止められる人間はいなかった。
◇
「カンナリオ、これわかるか。」
グウェイは願いを口にする前に、1つの魔法を起動した。
【碧の魔法「霧払う深緑の礫」】
セラヴィは眉をピクリと動かす。
クーネアとアリアもそこに異様な魔力が凝縮されていることを見て、慌てる。アリアは寮管の立場として止めなくてはならなかったが、グウェイの眼がそれをさせなかった。
「次はこれ。」
【碧の魔法「誉奪う崩壊の顎」】
「霧払う深緑の礫」を解除し、今度は「誉奪う崩壊の顎」を起動。グウェイによって、紡がれたそれは、セラヴィの2つ名の由来である攻撃魔法。
一度かき消されてから、再度現れる濃密な魔力に、クーネア、アリアは驚く。そして、セラヴィだけは先ほどとは違った反応を見せる。
「ディスティマン先生、なぜその魔法を?」
「2回目はセラヴィ、お前の魔法だ。構築されるまでの魔力の動きでわかったな。」
「ええ、ですからなぜと。」
「これはカンナリオに自分の異常性を知ってもらうためのテストだ。誰かが分かるならなんでもいいんだよ。」
グウェイの回答に、セラヴィは不承不承ながら納得したようで、頷いた。
利緒には、その会話が理解できなかった。
わからないが、その会話の意味を理解して、自分がおかしいのだとわかった。
「カンナリオ、1回目の術はなんだ?」
「……「霧払う深緑の礫」」
魔法は、心の中で唱えることで発動が可能であり、声に出さなくても良い。
魔力の増減といった現象が発生するため、例えば街中での秘密裏に、といった使い方は出来ない。無言で魔力を集めようものなら、即座に排除されかねない。
今回グウェイは声に出すことなく魔法を起動したため、魔法は当人の宣言ないし、発生した魔力から推測するしかなかった。そのためセラヴィは2回目の魔法に反応した。
しかし利緒には、それがどのような魔法であるか、見ただけでわかっていた。
「アリア、あれよこせ。「矢」の指輪。」
「……どうぞ。」
アリアは、指輪を外して、グウェイに手渡す。グウェイはそれを指にはめてから、利緒に向かってを矢を打ち込んだ。
「今のわかったか?」
利緒は、首を振る。
「影貫く蛇の弓弩」だとは思うけれど、アリアと手合わせの時と同じく、なんの魔法が発動したかは見えなかった。
「昔、お前と同じような眼を見た。」
若い頃に、なんの魔法を使うか端から読まれ続けたせいで、死にかけたことがある、とグウェイは言う。その経験を生かして、分かっていても回避できない広範囲殲滅魔法の道に傾倒していったようだ。
「その時は、たまたま「宙踏む疾風の沓」の魔石を持っていたから逃げられた。」
敗北の思い出を語るグウェイの顔は苦々しい。なんでも、その人物は魔石によって発現した魔法に反応出来なかったために隙となり逃げられたそうだ。
「そんなお前が、ここに来た。これは運命じゃないかと俺は思うんだ。」
背筋が伸び、動作、言動がしっかりしているためとてもそうは思えないが、グウェイは年老いた老人である。
「カンナリオ。俺の我儘に付き合ってくれ。」
その眼は、ここにいる誰よりも燃えていた。
「そういうわけだから、セラヴィ。今の話それに書くなよ。」
己のために、権力を持って道理を捻じ曲げる。
なんとも自己中心的な老人であった。
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