『碧の章』第17話:魔法の矢の使い勝手
利緒の初撃に対しての反応は良かったと言えるだろう。
不意に襲ってきた圧力に対して「鋼砕く狂鬼の纏」を発動し、正面からの一撃を腕を交差して防ぐ。アリアが続く2発目を放つため、大きく腕を引いたところで横に飛び出して、距離を稼いだ。
強化された防御をぶち抜く、腕が痺れるほどの剛腕。
しかし、それはアリアにとってほんの小手調べに過ぎない。アリアは余裕を持って、利緒の方を向く。
利緒は顔に出る焦りを隠せない。
不意打ちの攻撃にはどうにか対応できたが、守ったはずの腕にダメージがある。そして、それが本気でないことが分かってしまったから、その行動が大きく抑えられてしまっていた。
戦うにあたって、セラヴィから3等級の魔力回復薬を1つ提供された。
利緒の魔力に対して5単位分の回復量となる。3等級で全快出来る自分ってどうなのだろう、などと思いながら利緒は回復薬を飲んでいたが、クーネアから学園生はほぼ3等級で足りる程度の魔力が上限らしいことを聞いた。
とにかく魔力が回復するのは10分経過ごとで、強化魔法を使った今、残る魔力「4」となる。
これで何をすれば良いのか。
本来、1200程度の魔力があれば、魔法使いはそれなりの戦いが出来るのだが、コストを制御できない利緒にはなかなか厳しい状況となっていた。
次の攻撃を警戒していた利緒に、アリアが掌を向けた。今までとは違った違和感を感じて、斜め前へと駆け出す。直後、自身が立っていた場所になにかが飛んで行ったのを利緒は見た。
向けられた手と、消えない違和感。連続した攻撃をなのか、とバランスを崩しながら進行方向をアリアの正面からずれるように走る。
2、3、4……。
逃げながら、それが「影貫く蛇の弓弩」による魔法の矢であることを確認する。
(連射出来るっていいなぁ!)
利緒の魔法に比べると大分現実的な矢の大きさだが、それは相対的な話で、普通に考えれば矢が人間に当たれば不味い。
それならば、相手の行動を制限できていない現状、単発の大砲を放つよりも矢を連射する方が有利だ。特に利緒は反撃に失敗すると実に1/4の戦力を失うため、命中するかわからない状態では賭けが過ぎる。適当に走り、飛び、跳ね、と避けていた利緒だったが、アリアの偏差撃ちにとうとう捉えらえた。
「いっつぅぅっ……!」
左腕に当たったそれは、利緒の体勢を大きく崩した。
当の利緒は、苦痛を堪えるように歯を食いしばって、倒れそうになる体をどうにか持ち直した。
(ヤッバ、これヤッバい!2発目きたら死ぬ!)
実際の所は強化された身体に致命傷を与えるほどではなく、覚悟さえ決めれば、ある程度は耐えられるだろう。しかし、痛みに慣れない利緒は、恐怖が強くさらにアリアから距離を取るように逃げた。
幸い、利緒が想定していた連続攻撃はなく、利緒は初めの倍程度の距離をとってから、アリアへの方へと向いた。
「リオさん大丈夫ですか!?」
「逃げてばっかじゃだめー、リオくんのいい所を是非撮らせてくれー」
様々な応援の声。
「……なんでアリアさんの魔法に、素で耐えてるんだろう?」
「リオの強化で私、ゴーレムを殴り倒せるくらいだったから特別なのだと思う。」
「カンナ君の「鋼砕く狂鬼の纏」は、魔法に対する耐性を得たり、他人だと強化率が変わる?これは色々と検証が必要だ。」
強化された身体能力は、聴力も対象であった。本来「鋼砕く狂鬼の纏」は、魔法には無力らしい。人権を無視した検証の可能性の発覚も含めて、利緒は余計な情報に内心舌打ちした。
「はい」
アリアがパン、と手を鳴らす。
「危険を察知したらすぐに魔法を使う。良いですね。」
アリアは、利緒の方へと近づきながら、今の一連の流れについての評価を始めた。
「「影貫く蛇の弓弩」を避けた後、狙いを付けさせないように、逃げ方に幅をもたせたのも良いでしょう。」
「……。」
「しかし!」
ダン、とアリアは床を強く踏み、音を立てる。
ビクリと肩を揺らしてから、いつ襲いかかってくるのか、と利緒はアリアを注視した。
「当たってからの行動がよろしくありません。」
人差し指を立ててから利緒の方を指差し、アリアは言葉を続ける。
「敵に背中を見せての逃亡は非常によろしくありません。今回は利緒さんを倒すことが目的ではありませんでしたので追撃はしませんでしたが。」
敵を前に、大きな隙を晒すことは、対応策がないのであればやめた方が良いというアリア。当たり前だ、と利緒は思うが、当たり前が当たり前に出来るかは別の話だとも思った。
「ストラバリッツ先生。カンナさんは魔法の性質に対面での戦闘には向かないようですから、これ以上やってもあまり意味がないと思います。」
「追い詰められると思わぬ性能を発揮するかと思ったのだが。」
「それは、どうでしょうか。少なくともそういった機能が搭載された同胞は存じ上げません。」
セラヴィ先生は、知的でない、論理的でない恐ろしい発想を持つ方なのだと利緒は思う。
「カンナさんの、最後に魔法による攻撃に対する回避訓練を行いましょう。」
「回避訓練ですか?」
「はい。先ほどの威力であれば当たっても、問題ないでしょう。それであれば、後4回の強化で問題なく乗り越えることができると思います。私のところまで来ることが出来たら、終了としましょう。」
相変わらず、利緒はアリアの微笑みが恐ろしかったが、終了という言葉に希望を見出す。
利緒は、制限された条件の中での動きを考えるのはそれなりに出来る。少なくとも利緒自身は、無数にある選択肢から選ぶよりは得意だ、と思っている。
新しく提示された「アリアへの接触」という条件。前提として、アリアから魔法による攻撃が行われる。
で、あれば。
(最短の攻略は、耐久にものを言わせて突っ込むこと……)
アリアが、利緒がこの選択をすることを想定していなければ、速攻で終わらせることができる。
あとは、利緒の覚悟次第。
よくよく考えれば、最初に食らった拳の一撃の方が実はよっぽど強かった、という気持ちがほんの少しだけ背中を後押ししてくれた。
2度、深呼吸をして、アリアの方へと向く。
「……よろしくお願いします。」
「はい、それでは回避訓練を始めましょう。」
アリアの掌が、利緒へと向く。
◇
結果だけを言えば、この企みは見事にハマった。
アリアの想定では、回避を繰り返すうちに魔法の癖を掴み、そこから回避しながら距離を縮めていくだろうと考えていたからだ。
利緒は開始同時にアリアへと特攻。
魔法の矢が首元を擦り、胸を強打しても、止まった呼吸を無理矢理押し通して、アリアに触れることに成功した。
無我夢中で突っ込んだために、制御ができず、構えた腕をすり抜けて、胸を触ってしまったのは不可抗力だった。
そもそも息も出来ずに走っていたこともあり、当人は何かを押したことだけしか認識できていなかった。わけもわからぬうちに、アリアが一歩引く。
「……あー。」
「カンナさん?」
「リオ……」
ギャラリーから上がる、なんとも言えない声。
ピカピカと、光の点滅が見えるのは、今の一瞬も含めて、写真を撮っているのだろう。そこで、なにをしでかしたのか、朧げに把握した。
「……確かに、条件は達成していますか。」
「わざとではないんです。」
利緒は、空気を読んだ。
これはなにがなくても謝る場面だと理解した。
「訓練である以上、接触はよくあることです。そちらの4人、あまり囃し立てないように。」
幸い、当の本人は、全く気にしていないようだった。
(……気にしないのなら、しっかり触っておけばよかった。)
利緒は頭を振って、邪な考えを消す。心の声は、誰に聞かせることなく消えていった。
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