第52話 フィスト・バンプ
小町が決定を聞いたのは、御仁が広間を後にして、およそ一時間ほど経った頃だった。会議が始まってから、実に三時間を要していた。
「決まった。前線の指揮はコーエン卿がとる」
ランバートの言葉に、拳をグッと握りしめた。
本当に決まったのだ。
ガーデルードへの同行が、本当に決まったのだ!
指揮だって、ディクシードが望んだ人がとる!
「やったわね、ランバート!」
「喜ぶべきか悲しむべきか……俺には複雑だがな」
「あら、まだ言うの? 喜ぶべきよ、当然っ。あなたの奮闘が実を結んだんだもの」
「確かに気は揉んだが、動いたのは御仁だ。御仁がいなけりゃ、どうなってたか分からん」
「それでもいいじゃない。ほら、ねぇ、拳を出して」
こういうのは強制するものじゃないが、小町はやりたい気分だった。サーベルに向けて一歩前進したのだから。それはつまり、あっちの世界への道のりが、一歩前進したともいえる。
さぁさぁと急かすと、渋々ながら、ランバートは拳を突き出した。何をするのか分かっていないだろうに、妙に従順である。浮かれた小町は、その拳に自分の拳をコツンと合わせた。
うん、やっぱり、これに限る。
「何だ、今のは?」
「拳を合わせたの」
「見りゃ分かる。どんな意味があるんだよ?」
「うーん……意味って言われるとちょっと分かんないけど、嬉しい時とか、喜ばしい時とか、あと、褒めたり励ましたりする時にやるの」
「自分でやってて意味が分からんのか? あんた、本当に変な女だな」
「とにかく、いろいろ雰囲気でやるのよ。今のは単純に私が嬉しいから。それから、あなたへのお礼もね。ねぇ、もう一回やる?」
「……ん」
今度はズイッと突き出してくる。やっぱり従順。そして、非常に非常に非常に可愛い。どうしたんだろう、この人。キュンキュンくるじゃないか。
ギャップに萌える性分の小町は、ランバートの変化を不思議に思いながら、もう一度コツンと拳を合わせた。
「どんな感じですか?」
上官に尋ねたのは、副官のリディオである。興味深そうに言う。
「あなたもやる?」
「俺、会議には出てないですよ?」
「いいの、いいの。こういうのは雰囲気を楽しむものだから」
「じゃあ……」
リディオと拳を合わせたが、こっちはキュンとこなかった。まぁ、でも、悪くないかなと思う。
「あ、俺、分かった気がする。いいもんですね、これ」
「でしょう? 気分がこう、上がってくるでしょう?」
「ですね。……イバンス。お前、拳出してみろ」
リディオは騎士を数名呼びつけ、拳を合わせ始めた。順にコツンコツンとやっていたが、皆が加わって思い思いにやり始め、終いには加減をせずにゴツゴツとやり合っている。
「ケンカじゃないんだけどなぁ……」
「あいつらには、あれでいいんだよ」
ランバートの言葉に頷いていた。楽しげにやっているから、これでいいと思う。
こんな風に騒がしい様子を見ていると、思い出すのはケヴィン達の事だ。
わいわいと男ばかりで固まって騒ぎ、ケンカまがいの雰囲気を楽しむ事がよくあった。呑気に見物していた小町に、アリッサが言った事がある。
――男っていうのは、いくつになってもガキなのよ。
言いたい事は分かるのだが、経験豊富と言わんばかりの口調だった。冷やかしてみたら、あっさりと認めていた。
――両手じゃ足りないわね、そんなの。
――世間知らずはあんただけ。姉さんはモテるんだから。
自分の事のように胸を張って言うジェニファーも、経験人数は片手に収まらないと言っていた。
別に世間知らずとは思っていなかったし、今時、年頃になればバージンを捨てたがる女性ばかりだと思ってもいた。経験人数を競うのは、何も男性だけに限った事ではないのだと。昨今では、男女ともに初体験の早熟化が問題になっていて、テレビを見る人なら誰でも知っている話でもあった。
それに、小町自身もその中の一人だった。競おうとは思っていなかったが、できれば早々にバージンは捨てたかった。だからケヴィンとそんな雰囲気になった時、ためらいもしなかったし、大事にとっておくという感覚は、はっきり言ってなかった。かと言って、安売りする気もなかったが。
ただ、彼女達の発言に驚いたのだ。
二人は、十三の歳にパブリックスクールに入学した。これは、良家の子女が入る全寮制の寄宿舎学校であり、由緒正しく歴史も古い。世界的に有名な大学があるイギリスでは、そこへの進学を目指すなら、パブリックスクールが通過点と考えるのが一般的である。品行方正、成績優秀はもちろん、社会的リーダーとなれる紳士淑女を育てる事を目的としており、格式はむろん高く、海外のセレブリティも我が子をそこに入れたがる傾向にある。
まぁ、ジェニファーに関しては、若干コネもあるかもしれないと思ってはいたけれど。
そんな所に十八まで在学しながら、既に経験豊富という事に驚いたのだ。今時の女子は、そんな学校でも手腕を振るっていたのかと。
規律の厳しい学校であるから、もしかしたら帰省中に反動で……とも思ったが、自分の義姉達がそうであったのかと。
家族には悟られないよう取り繕いながら、思春期を謳歌していたのだ、きっと。これ以上ないくらい。
――言っとくけど、誰でもいいってわけじゃないの。ちゃんと付き合ってたんだから、セックスするのは当然でしょ。
――長続きしないのよね、姉さんって。
――あんたに言われたくないわよ。
聞くところによると、二人とも、ちゃんと相手の人を好きだったそうだ。ただ、三日で終わった関係や、一週間という期間もあるらしく、長くて半年という事だった。
アリッサは、素の自分を出せずに疲れてしまうと言っていた。ジェニファーは、素で付き合ったら逃げられると嘆いていた。二人とも自分の欠点を理解していて、良い男の獲得に向けて模索中なのだそうだ。
――あんたも、ようやく仲間入りね。十六なら上々よ。
――ケヴィンとの関係に行き詰まったら、いつでも相談に乗ってあげる。つまみ食いも、たまには必要だしね。
――何事も経験が大事よ。そのうち相性も分かってくるんじゃない?
一樹に言わせれば、欧米女性はバイタリティーが半端ないそうだ。こういう姿勢を指しているんだろうなと思った小町である。
その後、騒いでいたケヴィン達も一緒になって、暴露大会となった。ケヴィンはもちろん、スリージーもそれなりに経験があり、二人の過去に皆で大騒ぎしていた。むろん義姉達の過去についても同様に。
日本人の一樹には考えられないような話も出たようで、彼は引くわ~とドン引きし通しだった。
そう言えばあの時、ヌード・キャンプなるものも計画されたんだっけ。
来年の夏、小町が夏休みに日本から帰ってきたら、決行する予定となっている。伯爵夫妻には内緒で。
何でも、“男女が完全に別行動をするが、一切の着衣を認めず裸で過ごす”という裸キャンプが、ずいぶん前から流行っているのだそうだ。田舎の方の湖水地方など、人気は少ないが、さほど不便ではない場所で行うのが定番で、解放感とスリルが楽しめるんだと義姉二人は言っていた。
一樹は不参加と言いきっていたが、ケヴィンとスリージーは経験者らしく、ヒッピーじゃないからと言い訳しながらも参加すると言っていたし、彼らの大学の友人たちも巻き込む予定となっている。
小町は、ケヴィンに誘われる形で単純に参加する事を決めたのだが、一樹はそれにもドン引きしていた。日本人はそんな破廉恥な事はしないと言って。
――本当、日本人って堅いわ。
――サムライ・スピリッツだよ、アリッサ。僕は武士道をリスペクトしてるからね。だから小町には親近感があったんだけど……でもやっぱり、こっちで育つとそうなっちゃうのか……
日本人の血は半分引いているが、サムライ・スピリッツというものは感じた事のない小町である。誇らしげに語る一樹を見ていると、自分も欧米人の一人なんだなぁと、つくづく思った事だ。
「あんた今、何考えてんだ?」
「んー……特には」
「嘘言え。ニヤけやがって。気味がわりぃ」
「だって、ほら。子供みたいに騒いでるじゃない」
「そりゃそうだろ。男ってのはな、歳をとってもガキなんだよ。面白いもんには食い付く生き物だ」
おや? 経験豊富な義姉と同じセリフではないか?
これはどうやら、ランバートにも面白い過去がありそうだ。
「あなたは加わらないのね」
「まぁな」
大人な彼にヌード・キャンプの話をすれば、どんな反応をするだろうか。裸は刺激が強いとしても、アレならセーフな気がする。
小町の中に、ムクムクと悪の芽が顔を出していた。
彼の部下も拳ごときでこんなに騒げるのだから、アレならもっと大騒ぎしそうである。見てみたい。
「ねぇ、あなたの部下にね、もう一つ教えてあげたい事があるの。大喜びしそうなんだけど?」
「あ? 今度は何だよ?」
「さっきのと似たやつよ。でも、もっと気持ちが大きい時にするの。挨拶がわりにする事もあるわね」
「挨拶なら拳はいらんだろ。どんな挨拶だよ、しばき合いか?」
「そんなわけないじゃない。ハグって言うの。要は抱擁だけど、もっと軽いやつ」
「…………。…………は?」
ポカンと呆ける男を無視して、尚も言ってやる。
「だから抱擁だってば。私、すごくやりたい気分なのよ。どう?」
「おまっ、バカじゃねぇのか!?」
大声を出すランバートに、リディオ達も振り返っていた。
いやぁ、楽しい楽しい。予想通りの反応が返ってくるものだから、ニヤニヤが止まらない。
「そんなに大げさに考えなくても、気軽にするんだからいいじゃない。リディオなら乗ってくれそうよね。ちょっと、リディオ――」
「バカタレ! 呼ぶなっ」
残念。もう呼んでしまった。しめしめである。
何ですかと、リディオはまた興味深そうに寄ってくる。
「ハグを教えてあげようと思って」
「ハグ?」
「そう、ハグ。気に入るわよ」
「じゃあ――」
「じゃあじゃねぇ、ボケェ!」
上官の繰り出した蹴りを、リディオは難なく避けた。そしてもちろん抗議している。なぜ蹴られなければならないのかと。当然である。
「ランバートは照れてるのよ。照れ隠しってやつ」
「はぁ? それで何で蹴りなんですか。意味が分かりませんね」
「いいじゃない、可愛くて。でも今は放っときましょう。ハグっていうのはね――」
「テメッ、コマチッ! 俺の部下に妙な事を吹き込むなっ!」
「妙じゃないわよ、ハグだもの。部下がダメって言うなら、あなたしかいなくなるけど?」
標的をランバートに替えてやると、彼はギョッと目を剥き、一歩後退した。
「意味が必要だって言うなら、私からは労いを込めてって事でどうかしら?」
「たわけっ、何が労いだ! 何がどうかしらだ! そんなもんはテメェの男とやれ!」
「居ないじゃない、無理言わないでよ。居たら飛びついてるわ。それにね、さっきも言ったけど、気軽にするものなの。決まった相手じゃないとダメっていうルールはないのよ。挨拶がわりにするって言ったでしょ?」
「ほう。手あたり次第か? テメェのどこが誠実だ、阿呆」
誠実? なんで誠実という言葉が出てくるのだろう?
不思議には思ったが、気にしない事にした。
「その表現は間違いよ。誰でもいいってわけでもないもの。友人なら男女問わずするし、家族ならもっとするわ」
スポーツ観戦中は、見知らぬ人ともハグをする。でもそれは言わない方がいい。
「お手本だと思って――」
そこまで言った時である。むんずと首根っこを――後ろ襟を掴まれた。
「私が相手をしてやる」
ディクシードの声だった。また足音もなく後ろに立ったのだ。いいところだったのにと、舌打ちをしたくなった。
「却下」
「そう嫌がるな。恋人の代わりだと思え」
「却下だってば」
「昨夜は従順だったが」
「ちょっとっ、誤解させるような言い方しないでよ、変態」
見てみろ。ランバートが引いているではないか。きっと、よからぬ情事を連想したに違いない。
ディクシードは決して口下手ではない。最近になって分かってきたが、彼の話は、ちゃんと筋が通るようになっている。口数は少なくとも、説明を求めれば、誤解のない言い回しを使う。むしろストレートすぎる事が多いくらいだ。
だから今のセリフは、口下手を装っているという事になる。周囲の反応を楽しむために。やはり、ひねくれ者だ。
「いいこと、ディックス。あれはハグよ。ハグ以外の何でもないの」
「深い意味はないと言いたいのか。そうは思えんが」
言うなりディクシードにヒョイッと担がれていた。
「昨夜の件は話し合いが必要のようだ」
「だから誤解を招く発言をするなって言ってるでしょ!? 下ろして」
「却下する」
「……下ろしなさい」
「却下だと言っている」
「じゃあ横に抱きなさいよ」
「それも却下だ」
最後に大声で横に抱けと怒鳴ったが、その声はむなしく廊下に響くだけだった。
◇◇◇◇◇◇
連行されていく小町を眺め、ランバートは眉間を揉んでいた。
何がハグだ、バカタレ。
「昼の再現ですよ、隊長」
「…………。俺は疲れた」
心の底から言ったつもりだった。事実、朝から晩まで気を張っていたのだ。本当に疲れた。精神的に。
しかし副官は、労ってはくれなかった。
「ハグって何です?」
「…………。それは忘れろ」
「明日にでもコマチに聞いてみます」
こいつ、なんも聞いちゃいねぇな。
「先に言っとくが……やるなよ」
「俺は空気を読みますから、聞いてみないと何とも」
ああそうだった。この男はそういう男だ。言っても無駄だろう。
「なぁ、リディオ。あれを誠実だと思うか?」
「誠実……ですか? コマチの事なら思いませんね」
「……じゃあ十六には――」
「見えませんね。あれは“女”ですよ。ガキなわけがない」
「あ? 女?」
「ええ、“女”です。それが証拠に、殿下には牽制してるじゃないですか」
「…………」
「“男”だと意識しているからでしょう? 自分が“女”だと自覚があるからですよ。到底ガキじゃない」
それなら、何か? 抱擁しようと迫られた自分は、男だと意識されていないという事になるのか。それはそれで複雑である。
「でも、そうか。そういう意味では誠実かもしれませんね。危険だと感じた“男”に牽制するって事は、決まった相手には誠実って事ですから」
「…………」
「婚約者だけってわけですよ。何か……似てますね、御仁に」
「…………」
どうしてここで御仁の名が出るのか。疑問に思ったが、直に思い至った。有名な話がある。
名のある騎士が、生涯、一人を想い続ける話だ。詩になり、歌になり、悲劇となり。御仁が今でも娘達の憧れであるのは、その話が所以なのだ。元になった人物は御仁であると言われている。
悲劇を演じる女優達は、お相手の娘役をこぞって奪い合う。あんな人に深く想われたいと、娘達に夢想を抱かせる話。真実か否か、なぜ未だに独身であるのか、皆が疑問に思う話だった。
リディオはその話に、小町の姿を重ねたのだろう。遠く離れても、ただ一人を想うという姿に。
「騎士たらん……か」
「何です、それ?」
「いやな、御仁が言ってたんだよ。コマチの言葉だそうだが……応えねばってな」
「意味深ですね」
「…………」
御仁と小町の対面は、はたから見れば、どう見ても初めてのものだった。しかしランバートは、小町が見せた反応に気が付いていた。
まみえた瞬間、嫌悪感を覗かせたのだ。わずかに身を引くような素振りに加え、表情は硬くなった。他の者には悟られないよう上手く取り繕っていたが、あれは間違いなく嫌悪だった。御仁を見て何か思うところがあったはずで、それはつまり、二人の関係に何かある事を示している。
だが待てよ。御仁の隠居は七年前だ。ディクシードが魔女は死んだと報告したのは十年以上前。となると、接点があったのはそれ以前と考えるべきだ。
パリスの言った通りかもしれんな……
何であるかは不明だが、ディクシードは、御仁をも小町から遠ざけたがっていたのだ。
何かある。間違いなく。
「あの……隊長」
「あ?」
唐突に声を掛けてきたのはアレンだった。気まずそうにしている。
戻った事は知っていたが、機を見て釘を刺しておくつもりだった。ちょうどいい。
「戻りました」
「ああ、聞いてるよ。夕刻までと言ったはずだが、お前、遅れたそうだな?」
「……はい」
「刻限を守れねぇやつはいらん。誇りがねぇやつもいらん。これは毎度言ってあったはずだ。分かってんのか?」
「……はい」
すみませんと、アレンは小さくなっていた。
「お前はな、一度誇りを捨てたんだ。そう何度も拾えるもんじゃねぇ。拾われねぇやつの方が大半だからな」
「…………」
「明日はジニアスも来る。近衛候補の筆頭に名が挙がる男だ。欠員待ちのな。……いいか、アレン。次はねぇぞ」
「はいっ」
アレンは真剣な目をして頷いた。
誠実ってのは、こういうやつを言うと思うんだが……
そんな事を思っていたが、副官からは甘いぞという視線が送られていた。終始無視である。
「それでお前、何持ってんだ?」
「あの……これを、コマチにと思って……」
おずおずと手にしたものを差し出してくる。それは、帷子だった。身を守る防具である。
「それを探していて遅れたそうです」
手厳しくリディオが付け加えると、アレンはまた小さくなっていた。
「なんで俺に出してんだよ? テメェで渡せばいいだろうが」
「それが……僕――いえ、私からだと受け取ってくれそうになくて、渡しそびれてしまいました」
「…………」
「私が士官学校で使っていたものです。剣も探したんですが、そっちは折れてました」
折れてましたって……
こいつなりに、討伐の事を真剣に考えたってところか。
どのみち、小町に見合うものをと考えていた。小柄なアレンが使っていたのなら、それなりに合うだろうと思う。
しかしやはり、自分で手渡すべきだ。
「あいつなら、喜んで受け取りそうだがな?」
木剣でさえ興味を示した娘だ。帷子ともなれば、ほくほくしそうである。
指摘すると、アレンは困惑して視線を泳がせていた。すると今度は、副官が助け船を出した。お前も甘いじゃないかと言ってやりたい。
「残念ながら、俺もアレンからの物は受け取らないと思いますね。ダリアの髪紐でさえ渋ってましたから」
リディオいわく、小町はあからさまに警戒を示したそうだ。しかし、髪紐だと知るや否や、コロッと態度を変えたと言う。自分が頼んだものだったと。
「貢物はいらんと、そういうわけですよ。年頃の娘にはあるまじきです」
「……なら、預かっとく」
「お願いします」
アレンはペコっと頭を下げて部下達の輪に戻っていった。
それを見計らったように、リディオが言う。
「コマチにとっては、アレンも牽制の対象だと思いますね。危険だから、必要以上に近づけない。情に弱いってのも、案外、外れてないんじゃないですかね?」
「…………」
見る目があると言われているのも同然だったが、ランバートは他の事を考え込んでいた。
あの娘は、どんな環境で育ってきたのかと。これは、昼に副官が言った言葉で、小町の事を知れば知るほど、自分の中で膨らんでいく疑問でもあった。
女のくせに貢物を受け付けないだの、抱擁を迫ってくるだの、その他もろもろ。
とにかく、予想外の反応ばかりが返ってくるのだ。それも娘は、さも当然と返してくる。振り回されてばかりだった。
全てを把握したいとまでは言わないが、ある程度の事は知っておきたいと思うのは当然だ。それがこと小町が絡むと、自分の思惑の外ばかりに向かい、そこで事が起こってしまう。
振り回されたくないのが本音。振り回されているのが現状。疲れないわけがない。
「隊長。考え中のところ悪いんですが、あいつらが待ってますけど?」
「……ああ、分かってる。段取りだろ?」
じっくり考えたい事は山のようにある。しかし、時間は待ってはくれないようだ。
「班に分けろ、リディオ。明日は早朝から御仁の兵と共に動く。統括させる者を据えにゃならんが、誰が適任だ?」
打って変わって指示を出す上官を見て、リディオの表情も引き締まった。
それでいい。今は、やるべき事をしなければ。
「数名いますが、状況によります。御仁の兵はどこまで一緒に?」
「夕刻までだ。借りるのは十五」
「城外でしたね?」
「そうだ。コマチの近辺に張り付いてもらう段取りだ。大所帯にはなりたくないからな、大聖堂までは分散させようかとも考えてんだ」
「それが妥当かもしれませんね。でももう少し詰めないと、適任者に関しては何とも言えません。決まってますか?」
「悪いが、これ以上はまだだ。これからパリスを連れて御仁の所へ行く予定でな。ひとまず班割りだけ決めといてくれ。後は全員、解散でいい」
「全員ですか? 今夜の当番はどうするんです?」
「御仁が休ませろだとよ。明日からは本格的に動くから、今のうちだそうだ。お前も休んどけ」
「御仁の兵が代わりに?」
「そういうこった」
まぁ、俺はまだ休めそうにないがな。
「……………………」
「何だよ?」
「隊長、過労死しないで下さいね」
おっと。これはどうやら、労ってくれているようだ。ついついニヤついてしまう。
すると副官は、ツーッと視線を逸らし、遠くを見るような目をして言った。そこには壁しかないというのに。
「俺……当分の間は、隊長職には就きたくないんで」
「あ……そう……」
どうせ、こんな落ちなんだ。苦労性なんだ、俺は。
ランバートはガックリと項垂れた。
◇◇◇◇◇◇
その頃、小町はディクシードの肩で揺られていた。行き先は厩舎で、直に到着予定である。言うまでもなく、パリスに枷をはめる為だ。
兵舎を出たディクシードは、小町の意図を知っていながら城に戻ろうとしていた。何でも、御仁が先手を打ってくれたそうで、急いで枷をはめる必要はなくなったと言う。しかし、パリスは必ず厩舎に現れると踏んでいた小町は、これでもかと暴れまくり、行き先を変更してもらったのである。
暴れすぎて疲れたので、乗り心地は悪いが輸送してもらっている。
怪力な男に気を遣ってやる気はない。むしろ気を遣ってもらいたい。レディーの貧相な尻に対して。
「なぜ厩舎に来ると言い切れる」
「主語が抜けてるわよ。パリスでしょ?」
「そうだ」
「まぁ、何となく」
「何となくという根拠で、あれほど暴れる必要はないと思うが」
「それはだって、来ると思ってるもの」
「…………」
根拠ならある。一応。
「先が見えたのか」
「どういう意味?」
「先見をしたのではないのか」
「…………。魔女疑惑ね。やめてよ」
「お前は、会議でのパリスの動向を言い当てた。見えていたかと訝っただけだ」
「見えるわけないじゃない、そんなもの。最初から分かってる結末に誰が気を揉むもんですかっ」
先見ができるなら、これほど焦れてはいなかった。どっしり構えて後はヨロシクで良かったはずだ。
「一理ある」
「……本当に単純な話なのよ。あの人ならどう考えるかなぁって思ってるだけで。根拠っていうなら、それしかないの」
「ひねくれ具合で考えるという事か」
「そうね、そうなるわ。だから、パリスは厩舎に来るわよ。ランバートの話だと、私を会議に引っ張り出したかったみたいだし、どうして同席しなかったのか知りたいはずだもの」
きっとパリスは、自分の計画は完璧だと思っていたはずで、しかし結果として小町は同席しなかった。彼のように完璧を求める人間は、必ずなぜ失敗したかと振り返り、そして追及する。同じ間違いを犯さない為に。
しつこい人間というのはそういうもので、でなければ、よっぽどのおバカさんのどちらかだ。パリスは間違いなく前者。
「わざわざ枷をはめられに来るようなものだがな」
「確かにそれもあるわね。でも……やっぱり来ると思う」
「来なければどうするつもりだ」
「んー……その時はその時で考える」
「お前らしい」
あ、たぶん今笑ってる。
人の肩で揺られながら、呑気にそう思っていた。
「ねぇ、デイックス。私、魔女じゃないわよ?」
「知っている」
「仮にあなたが言うみたいに、ここにないものを見たとしても、私は魔女じゃないから」
「ああ」
ケヴィン達を見ても魔女じゃない。呪文なんて唱えないし、先見なんて論外だ。あっちの世界から取り出したものはあるが、それでも自分は魔女じゃない。
「私から見れば、お前は、人らしい人だ。決して魔女ではない」
「…………。ありがと」
魔女じゃないと言い張っても、奇妙な現象は引き起こしていた。でも彼は、人だと言ってくれる。理解者でいてくれる。
何も持たない小町にとって、これ以上ない事だった。
「着いた。下ろすぞ」
ストンと下ろされたはいいが、構えていたのに足元がグラついた。すかさずディクシードに腕を引かれ、事なきを得た。
「まだその体に慣れないようだな」
「ちょっと気が緩んでただけ。ありがとう」
パリスの馬はどこかと問うと、ディクシードは奥へと歩いていく。
案内された馬房には、立派な葦毛の馬がいた。黒い肌と白い毛が、大きなまだら模様を描いている。口元や目の周りといった毛の薄い部分は黒い肌が覗き、細い足も関節の辺りが黒い。
「すごく……気が強そう……」
小町が近くに寄っても逃げず、ジーッとこちらを見据えたまま、様子を窺っている。
「荒い。あれによく似てな」
「納得」
今のところ、パリスは城内に居るようで一安心だ。御仁の先手というのが効果ありとみていいかもしれない。
ディクシードによると、御仁は、会議が終わり次第パリスを呼びつけると言っていたようだ。内容までは聞いていないが、朝まで引っ張る気でいるとかなんとか。明日の予定があるため、早朝までパリスの動向を制限できれば、討伐後までは枷の心配は無用だそうだ。
となるとチャンスは、パリスが御仁の呼び出しに応じるまでの、わずかな時間しかない。
「……来るかしら」
「来ると言ったのはお前だが」
「賭けみたいなものだもの」
みたいなものではなく、ぶっちゃけ賭けである。
小町は、腰元に隠している短剣を確認した。
「これ、使うかもしれないわ」
「どう使う」
「…………」
あなたを脅迫する為に。
そうは言わずに、ヒョイと肩を竦めて見せた。
「パリスが応じるなら使わずに済むのよ。でも、分からない」
「……来たようだ」
ディクシードが入口を振り返った。まだ影も見えていないが、彼が言うなら来たのだろう。小町は入口へと歩き始めた。
「あなたはそこに居てね」
万が一にパリスが逆上したなら、ディクシードは黙って眺めていないと思う。だから、距離をとっておきたかった。
でも、彼が居る事は牽制になる。私に手を出せば、ディクシードが黙っていないぞと、それぐらいは言ってやるつもりでいる。
ディクシードは動かず、ちゃんと待ってくれていた。厩舎の中ほどまで来るとパリスが現れた。入って直ぐに足を止め、無表情に立っている。
小町は直にパリスの異変に気付いた。唇が切れ、片頬が赤くなっている。だがそれを聞く前に、言っておきたい事があった。
「よくも逃げ回ってくれたわね。呼びつけたのは朝だったはずよ」
早朝、侍従を捕まえ、兵舎に来るようにとパリスへの伝言を頼んでおいた。
「あなたのように暇ではないのですよ。こう見えて忙しいんです」
「そうらしいわね。取り込みに奔走していたようだから。これがあなたにとっての朝だと覚えておくわ」
「納得いただけて何よりです」
本当に可愛くない男。自分を見ているようで腹が立つ。
「それで? 何の用です?」
「私も用があるけど、あなたにもあるんじゃなくて? 呼び出しなんて無視できたはずだもの。何よりも聞きたい事があるから、貴重な時間を割いてまでここへ来たんでしょう?」
「…………」
「私がここで待っていると踏んでいたから」
この男は、小町が枷をはめる好機を狙うなら、それは厩舎だと踏んでいたはずだ。王都へ走る直前を狙うと。最初からそうなるよう、逃げ回ってさえいたのだ。
やはりこの男は知能犯。
「聞いてご覧なさいよ、答えてあげるから」
「……腹の立つ娘ですね、あなた」
「奇遇ね。さっき同じ事を思ったところよ。だからお互い様」
「…………」
「…………」
パリスは、なかなか口を開こうとしなかった。じりじりと時間ばかりが過ぎる。御仁との予定があるだろうに、意地でも聞かないつもりだろうか。いやいや、知りたい事があるから、ここに来たはずである。
先に切り出してやろうかと思った時だ。よくよく聞こえる舌打ちをパリスが打った。チッと、隠しもせず。
柔和な顔に苛立ちが浮かび、腹黒さを覗かせている。言うなれば、ブラックパリスといったところか。意外にも小町は、こっちのパリスを好ましく思った。
「何をニヤついているんです」
「別に。色男だなぁって関心してたところよ。放っといてくれる?」
「…………」
やっぱり自分はギャップに萌える性分だ。
「で、聞くの? 聞かないの?」
「…………。なぜ同席しなかったのですか」
嫌々ながらもパリスが尋ねた問いは、やはり小町の予想通りのものだった。満足である。
「銅貨で決めたの。表が同席、裏は兵舎。裏が出たから、仕方なく待機したってわけ」
「銅貨? そんなもので決めるとは、舐めてるんですか、あなた」
「そうは言うけど公平な方法でしょう? 多数決なんて勝算が薄いんだもの。同席の可能性を残すなら、どちらも出る銅貨が無難だった。でも結局は裏で、私は待機。自分で言いだした方法だから従うしかなくて、これでも、残念で仕方がなかったのよ?」
「それなら、どうして御仁の提案を断ったのです? あなたなら喜んで出てくると思っていたのに。順当にいっていた計画が、あなたのせいで狂いました」
なるほど。ボルコフ卿と取り巻き達は、途中までパリスの思惑通りに動いたという事か。
「で、仲間割れしたのね?」
小町はそう言って己の頬をつついて見せた。殴られた痕跡は、どっかの誰かさんによる鬱憤の跡だろう。ランバートの予想も当たっていたようだ。さすがにパリスの事をよく知っている。
「ボルコフ卿でしょ?」
「…………」
パリスは押し黙り、また舌打ちを打った。
「一発、殴らせてあげたってところかしら? それでチャラにして来たの?」
「…………」
この沈黙も肯定だ。
「あなたの惨敗よ、パリス。敗因は私じゃないわ」
「確かに負けかもしれませんが、あなたが根源です。あなたさえ同席していれば上手くいきましたから」
「それは言い掛かりね。私が同席しない可能性を、あなたが見いだせなかっただけじゃない。でも、決定的な敗因は他にあるわ」
「…………」
「取り込む相手を間違えたのよ、あなたがね。言うなれば、優秀な人材を揃えられなかったせいだわ」
パリスが最初に声をかけるべきは、御仁だったのだ。それを見誤り、結果としてその人物を小町に引き合せてしまった。影響力のある人物を取り込まず、使い勝手を優先させたのが敗因だ。
一方で小町の勝因は、優秀な人材が動いてくれた事だ。ディクシード、ランバート、そして御仁。あとちょっとだけリディオ。どう考えても、彼らのおかげであり、パリスの動かした人物よりも、皆が秀でている。
言いなりなどではなく、それぞれが自身で考え、行動に移す力を持った人達だ。
取り込んだなどと奢ってはいないが、小町の意思を汲んでくれた人達。当然、感謝しなければ。
そしてもう一人、こちら側についてほしい人がいる。意思を汲んでほしいのに、なかなか理解してくれない人。
「パリス。降参してくれないかしら?」
「……すると思いますか?」
「あなた二敗目よ? まだ懲りないの?」
「そういう問題ではありません。矜持とは別の話ですから。あなたには、殿下の妃になっていただきます」
まぁ、そう言うだろうと思っていたが、本当にしつこい。
「じゃあ、やっぱり王都に走る? あなたにとっては、それが切り札でしょう?」
チラッとパリスの馬へと視線を投げた。ディクシードは、そこで待っている。
「……状況は……良くありませんね。殿下が相手では、切り抜けようがありませんから」
「だったら引き返して。御仁の呼びつけに応じなさい。このまま朝まで粘ってもいいのよ?」
「…………」
「…………」
引き返して。どうか。
でなければ、この短剣を使うはめになる。
ディクシードに剣を抜かせてはならない。パリスと対峙させるわけにはいかない。だから、自分が使うつもりでいた。
この剣を、護身に使えと与えてくれた人に。
枷をはめる為にここに居るのに、どうしても土壇場で躊躇してしまう。いつも自分はこうなのだ。
「応じなさい、パリス」
「…………」
「…………」
パリスは一向に動かず、睨みつける小町を、ただジッと見返している。あの馬のように。
「討伐後までの休戦だと思って、応じてちょうだい」
「……休戦ですか……」
「……ええ。ひとまず」
「言っておきます。次は私が勝ちますから」
「……迎え撃つまでだわ」
「…………」
無言で踵を返し、パリスは厩舎を去って行った。小町は生きながらえた気分だった。
「良かった……応じてくれて」
無意識に短剣に触れていた。使わずに済んだ。その安堵が大きかった。
するとそこへ、ディクシードがゆったりと歩いてきた。
「私を人質にとるつもりだったのか」
「…………」
「罪人になるのは、お前だけと考えたのか」
お見通しらしい。
パリスが王都に走るなら、ディクシードを盾に取り、逃げてやると脅すつもりでいた。当然、討伐を放り出すつもりはなく、交渉の材料になればと、安直に思ったのである。パリスは主君第一主義で、それが彼の弱点だ。だから利用する手はないと思った。
そして、材料ではなく実際に逃げるとなった時、ディクシードは共に逃げてくれるだろうとも思ってもいた。ずるいけれど、逃げてくれと言えば、彼はきっと応えてくれると。
脅迫を受けての逃亡であれば、ディクシードは罪に問われることはない。彼の醜聞が一つ増える程度で済む。罪人よりは軽い。
ずるくて、卑怯で、姑息。
分かってはいるが、それでも使うつもりだった。パリスが応じなければ使っていた。
「バカだと思ってるんでしょ? いいわよ、バカで。私には、こんな方法しか思いつかないもの」
こういう時、いつも思う事がある。伯爵ならどうしていたか。育て親なら、どんな方法を選んだか。
そうして、自分が不甲斐ないと痛感するのだ。
「ひとまずは休戦。それでいいの」
姑息な手を使わずに済んだ。ディクシードに剣を突き付けなくて済んだ。それでいいと思うのは、甘いだろうか。
「休戦か。うまい事を言う。だが、あれはまだ目論見があるようだ」
「ええ、分かってる。しつこさは私以上だもの。……でもいいの」
小町はディクシードに拳を突き出した。ひとまずは――ひとまずは、クリアしたと思いたい。先延ばしになったというだけだとしても。
突き出した拳に、ディクシードの拳がコツンとぶつかった。そうしろなんて、教えた覚えはないといというのに。
「……知ってたの?」
「昔、お前に教わった。お前は、フィスト・バンプと言っていた」
「ええ、そうよ、フィスト・バンプ。こんな事まで教えてたのね」
「これだけではない。他にもある」
「他にも?」
「ハイ・ファイブ。ハグ。それから……」
ハイ・ファイブは、俗に言う事のハイタッチ。ハグは抱擁。
次は何だろうと待っている小町に、ディクシードは流し目を送り付けてきた。無駄な色気をふんだんに含んだアレである。
「キスだ」
「………………。………………」
絶句だった。開いた口が塞がらなかった。
ディクシードの口から、“キス”という単語が出てくるとは……
「口付けだと聞いている。お前の初めての相手は兄だそうだ」
何で……何でそんな事まで知ってるの!?
ギョッと目を剥き、みっともなく狼狽する。
そんな事まで教える経緯が分からない。意味不明。
どうせ調子にのってペラペラと喋っていたのだろうが、何となくそうだろうと思える自分にも腹が立つ。過去に戻って自分の口を塞いでやりたい気分だ。
「してみるか」
「……あなたと? 冗談でしょ?」
だいたい、するかと言われてしようとするものではない。もっとこう、甘い雰囲気の時にするものだ。まったく、色気もくそもない。
「えらく消極的だな。昔は押しが強かったが、いつからそうなった」
「ねぇ、ちょっと、まさかと思うけど、したんじゃないでしょうね?」
「しないと思うのか」
「……………………」
これは…………逃げておいた方が良さそうだ。小町はそそくさと歩き始めた。しかし、肉食の獣はついてくる。
「言っておくが、お前からだ」
「無効よ。そんな昔のものはノーカウント」
「有効だ」
「無効! 寄るな、変態っ」
「私が変態なら、私の下半身を握って“シッポ”だと喜んだお前は変質者か」
シッポ……しっぽ……
下半身を握って、しっぽ!?
「よよよ、喜んでないわよっ!」
「いや、あれは喜んでいた」
「うるさいっ! あっちへ行け、変態っ!」
やんややんやと掛け合いを繰り広げ、魔女かもしれない娘と変態王子の夜は更けていくのである。
◇◇◇◇◇◇
その夜、小町はケヴィンに会った。
会ったと言っても、一方的に眺め、一方的に話しただけだった。
本日の報告のようなものをツラツラと喋り、そして、呼ぶなと言っておいた。
討伐が完了するまで、呼ばないでくれと。
ディクシードの名に誓ってしまったのだと。
一刻も早く会いたい人だけれど、言いだした事を放り出したくもない。無責任な事はしたくなくて……小町の意思を汲み、動いてくれた人達に失礼だとも思った。
いつ呼ばれるかも分からない。
数日前のように、聞こえるようになるのかも分からない。
でもケヴィンに呼ばれれば、もちろん答えたくなるから、だから呼ぶなと言っておいた。
――討伐が終わるまでなの。だから、どうか、私の事は呼ばないで。
待っている人からすれば残酷な言葉で、それでも、言わずにはいられなかった。
ご覧いただきありがとうございます。
第52話『フィスト・バンプ』はいかがでしたでしょうか?
パリスとの決着は、ひとまず先延ばしという事になりましたが、勝敗にすると小町が二勝、パリスが二敗となりました。
不完全燃焼ではありますが、作者としては、「そう簡単に決着がついてたまるかっ」と思いながら書いておりました。
もとの世界での回想シーンでは、皆の掛け合いが楽しくなって、またあっちの世界の事を書きたくなったものです。欧米人ならではの発想とか、日本人の一樹とのギャップとか、他にもたくさん。
ですが、本章はあくまでも、ディクシードがいる世界がベースです。なので、脱線しまくらないよう注意しなければと、改めて気を引き締めた次第です。
では、次話予告にいってみましょう。
第二章のエピローグをお届けします。
実はもう書きあげておりまして、残すは誤字脱字のチェックのみとなっておりますので、早々にお送りできるのではないかと思います。
二章の中で、未だ回収できていない伏線の一つです。お察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、生気の訓練中に見たはずの、小町の“夢”についてです。そこには一切触れずにきましたので、エピローグとして回収いたします。
その他の伏線は、まぁ、おいおい。
それでは、次話でお会いしましょう。




