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二輪の騎士  作者: 小町
序章
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第3話 バイクという存在

 伯爵夫妻の多忙をいいことに、屋敷を抜け出しては頻繁にバイクに乗るようになった。亡くなった家族が小町の為にと与えてくれた小さなバイクで、山道を一人走らせる。

 屋敷の使用人達は、疎んじている子供が屋敷を抜け出していても、擦り傷を作って帰ってきても、我関せずだった。講義には遅れず戻ってきて要領よく修得課程をこなしていくのだ。そんな小町に文句を言う者はいなかった。夫妻に告げ口する者さえいなかったが、走り終えて帰ってきた所を、たまたま見つかってしまった。

 危険だ、淑女としてのたしなみがと訴えてくる夫妻に、随分と背が伸びた小町は言ったのだ。

「あら、義父様、義母様。お言葉ですけど、私、三つの時からバイクに乗っていましたの。だから運転には自信があるんです。敷地内の山は起伏も少なくて物足りないぐらいですもの。何より、あの子が可愛くて仕方がないんです。義父様も御自分の愛馬は可愛らしいでしょう? 危ないからと言われても、決して手放したりしないと思うのだけれど」

 小首を傾げてみせれば、夫妻はウッと言葉を呑み込んだ。こうする事で養父母が何も言えなくなってしまうのを十分理解していた。だめ押しとばかりに付け加える。

「きちんと装備をしているから顔は見えないし、淑女としてなら乗馬の講義も満点です。義父様、義母様、お願い。これからも講義に遅れたり敷地の外では乗ったりしないから、乗ってはダメなんておっしゃらないで」

 果たして、伯爵夫妻は言い負かされてしまった。愛らしい顔をして潤んだ瞳を向けられては、許すしかないというものだ。それでも、大きな怪我をするような事があればバイクは禁止するという条件は忘れなかった。

 実際、小町につけている講師陣からは、抗議の態度も試験も満点。何でも修得しようとする向上心は、称賛に値するとの誉め言葉までもらっている。とりわけ護身術の講師に至っては、カリキュラムが修了しているにもかかわらず、小町の熱意に負けて剣術の練習にも付き合っていると聞いている。

 銃剣と言われるもので、軍部では修得必須とされている剣術だ。銃剣道と呼ばれる事もあり、国によって競技化され、大きな大会のある国もある。小町の銃剣の腕前は、なかなかのものなのだそうだ。

 そんな少女は、今度は柔道も学びたいと申し出ていると聞いていた。生憎現在の講師は不得手としている為、信頼に当たる講師を紹介してもらうという話まで進んでいる。伯爵はもちろん了承済みだった。はじめこそ講師から銃剣の許可を求められた時、淑女としての成長に影響が出るのではと懸念していたが、マナーの講師からは満点以上の称賛をもらっており、影響を受けての減点もないとのこと。

 今となっては武術などの監修がいるカリキュラムを増やして、バイクで怪我をするリスクを減らしてしまおうかと、夫妻は真剣に話し込んでいた。

 そんな話をしている時、茶の給仕をしていたイーノクに失礼ながらと忠告を受けた。小町はバイクに乗れなくなる様な真似は決してしないと。なぜなら、亡き家族との思い出が詰まった大切な象徴だからだ。それを自らが断ち切ってしまうなどと、小町の性格からしてあってはならない事。大きな怪我はしないだろうと。

 その上、九月からは義務教育である初等教育課程へと身を置くようになる。実際には席を置く程度にはなるだろうが、国の定めた教育課程をこなさなければならない。留年という事はないが、伯爵令嬢という肩書きの手前、やらなければならないカリキュラムは現状よりも随分増えてしまうのだ。そうなれば必然的にバイクに乗る自由な時間は減ってくるのだから、今は好きな事をさせるべきだと。

 イーノクは自分の立場を弁えている執事だが、主への忠告や意見は場を見て進言している。有能で主人からの信頼もとても厚い。そんな執事の忠告に対して、伯爵は納得した様子で言った。

「確かにその通りだ。あの子が約束を反故にするわけがないな。好きな事をさせてやろう、弟もきっとそれを望んでいるはずだ」

 イーノクの活躍、もとい進言のおかげで、小町はこれまで通り講義の合間にバイクに乗る事ができた。

 そして初等教育が始まってから間もなく、柔道の講師もついた。どんどん上達する少女に講師は驚き、令嬢という立場さえなければ本格的に日本で師をとらせたのにと、口惜しそうにイーノクに呟いたほどだ。

 バイクにも以前同様、勉強時間を上手に調整して乗っていた。バイクと柔道と勉強。その全てを両立させるのはなかなか難しいだろうとイーノクは懸念していたが、小町にとっては、とても充実した穏やかな生活だった。


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