第12話 家族サミット 後編
家族サミットの休憩時間を利用して、小町はケヴィンと共にテラスへ出ていた。脇に設置されたテーブルでは、フレデリックが紅茶の準備をしてくれている。
話題はやはり義姉達の驚きようである。傑作だったと二人で笑い合っていると、フレデリックの声が掛かる。
一口紅茶を飲んで息をついた。
「父の事、知っていたの?」
早く聞きたくてウズウズしていた。フレデリックもケヴィンも、自分が知らない父の事を知っているのだ。知っているなら、いろんな事を聞きたい。
「お嬢様、今話せば休憩時間を越えてしまいます。気持ちは分かりますが、きちんと時間ができた時にお話ししますので、我慢なさって下さい」
「そうだね。君の事だから、ちょっと聞く程度じゃ済まないだろうな。残念ながら、おあずけだ」
二人の言葉にガックリと項垂れた。
「それよりも、この後の展開を考えた方がいいと思うんだ。伯爵が……どう切り込んでくるか……とかね」
ケヴィンの含みを持たせた言い方を怪訝に思いつつ、小町はキッパリと言い切った。
「そんなの簡単よ。きっと誰もが想像できないような事を言い出すんだから、考えるだけ無駄というものよ。裏の裏のまだ裏をかいてくる人だもの。敵に回ると厄介な事この上ないわ。だから、どう切り込んでくるのかなんて考えない。いかに冷静でいられるかが勝負よ」
はっきりそう言ってやると、ケヴィンは唇の端をキュッと上げ、面白がるような表情をする。
「本当の事をいえば……夫人の言動が気になって仕方がないんだ」
飲んでいた紅茶を吹き出しそうになり、慌てて飲み下した。フレデリックも思わず笑ってしまったようだが、すぐに無表情を取り繕う。
ケヴィンを睨みつけると、ニヤリと笑った彼は悪びれずに言った。
「何だか夫人は男前だろ? カッコいいよ。君のそのサバサバしている所は夫人に似たんじゃないかと思うんだけど、どう思う、フレッド?」
「そうですね、奥様によく似ていらっしゃいます。振り回される者は皆、そう思っているはずです」
夫人似かはさて置き、親しげに話す彼らの様子に、前々から気になっていた事を聞いてみた。
「思ったんだけど、二人はとても仲がいいのね。フレデリックなんて、私がフレッドなんて呼んだら逃げるくせに……。いつからそんなに親密になったのかしら? 覚えてる限りだと、数回しか会ってないと思うんだけど」
少し嫉妬も入っているが、この際そんなものは無視である。
「ここに初めて来た日から頻繁に情報をもらってるんだ。君の趣味もフレッドから聞いたよ」
「あら。私には、また来るなんてキザなこと言っておいて、なかなか来ないんだもの。そのくせフレデリックには会ってただなんて、何だか不公平だわ」
ブーたれる小町に、ケヴィンが苦笑する。
「嫉妬してるのかい? 僕に? フレッドに?」
「両方よ」
ベッと舌を出せばケヴィンが笑い出し、珍しく執事も声をあげて笑っていた。
こんな穏やかな時間が続けばいい。そう思った。
ふいに笑っていたケヴィンが小町の手を取り、手のひらを返した。彼の表情が、みるみるうちに険しくなる。
突然の態度の変わりように驚いていると、彼はフレデリックに消毒液を持ってくるように告げる。それを聞いた小町は慌てて言いすがった。
「これぐらい平気よ、たいした事ないわ。自分のせいだもの」
拳を握り締めた際、自分の爪で傷をつけていた。ケヴィンはそれに気付き、消毒しようと言うのだ。
怪力を忘れるくらい腹が立っていたし、自分のせいで負った傷だ。この程度なら舐めておけば治る。
「ダメだ、ちゃんと手当てしておくんだ。フレッド、持ってきてくれ」
有無を言わせぬ言葉に、フレデリックは安堵するような表情を見せてその場を去った。
見送りながら、ケヴィンは内心毒づいていた。どれ程の力で握り締めればこんな痕ができるのか。
弧を描いた数ヶ所の出血。盛り上がった周囲の皮膚には、赤黒いまだら模様までできている。内出血だ。
爪は清潔に切り揃えられているというのに、肉をえぐる程の傷をつけるとなると、相当な力で握り締めていたはずだ。それもしばらくの時間。
考えられるとすれば父親のことを侮辱された時だ。あの時、周囲の声が全く聞こえていないよだった。伯爵が何度か呼び掛けていたが、彼女の反応はなかった。
確かに、拳を握り締めていたように思う。きっとあの時に、この傷がついたのだ。
自分が近くにいながら、これ程の我慢を強いらせていた事に腹が立つ。
「ケヴィン?」
不安そうに、小町が覗き込んでくる。傍らには応急セットを持ったフレデリック。
ケヴィンは、小町の手にハンカチを添え、応急セットの中から消毒液を取り出した。
「しみるよ」
一声かけたが、彼女は微動だにせず、されるがままになっている。横目で様子を窺えば、傷口を他人事のように眺めていた。痛みなど感じない人形のような表情だ。
何とも言いがたい気持ちになった。彼女は今、何を思いながらこの傷を眺めているのか。
包帯を取り出せば、慌てたような声がそれを遮った。その声が人間らしく思えてほっとしてしまう。
「そのままでいいわ、消毒だけで十分よ。ありがとう」
何故かと問えば、夫妻が気にすると申し訳ないからだと言う。俯きがちに言う彼女がいじらしく思え、抱き締めたくなる衝動を何とか耐えた。
廊下から聞こえたイーノクの声が、サミットの再開を告げていく。
ケヴィンは小町の言い分を聞き入れ、ガーゼと包帯を応急セットへ片付けた。だが、こんな傷を消毒だけで済ませていいはずがない。かわりに大型の絆創膏を取りだし、少しカットして傷口へ貼り付ける。
処置が終わって引こうとした手を、彼女の両手が包み込んだ。
ギュッと握り締めてくる。痛むだろう手をかばいもせずに。
「ありがとう、ケヴィン」
穏やかに笑む彼女に、一時、目を奪われていた。
◇◇◇◇◇◇
「コマチの計画を客観的に考えてみたんだ。残念ながら、不安要素なんてなかったよ。だから日本へ行くといい。君のしたい事をのびのびとしておいで」
伯爵の言葉に小町が拍子抜けしたのは言うまでもない。
「確かに、非の打ち所がないように資料は作ったつもりですけど…………本当に?」
「もちろんだ。スザンナとも何度か話したが、結論は変わらなかったよ」
資料は完璧に作った。経営に携わっている不動産会社についても、日本からのコンタクトの取り方や、現地に赴くケースの要点まで、とにかく詳細に記した。
しかし、こうもあっさり認められてしまうと、邪魔されたくないと思っているのに、引き止めてもくれないのかと寂しくも感じていた。都合のいい話だが、渋ってほしかったのは事実だ。
ふと今の自分が冷静ではないことに気が付いた。すっかり感傷に浸ってしまっている。
そもそも、こんな簡単に夫妻が日本行きを認めるわけがないのだ。何か裏があるはず。
そう思い顔を上げれば、クスクスと夫人が笑う。
「もう、あなたってば演技が下手ね。気付かれちゃったじゃない。たまにはコマチの落ち込む顔も見てみたかったのに」
などと言っている。危うく夫人の策略にハマるところだった。ジトリと夫人へ目を向け、改めて伯爵へ向き直る。
「そうだね、失敗したみたいだ。……コマチ、僕達の本音を言えば日本へなんて行ってほしくないんだ。でも君の作った資料を見る限り、覆す要素が思い当たらなくてね。……そうだな、個人的な意見としては、少しくらい突っつける所を残しておいてほしかったよ。だがそうしたところで、君は何としてでも日本へ行こうとしただろうね」
少し寂しそうに言う伯爵は、まるで本当の父親の様に温かく、最終的に小町がどうしたいのかを理解してくれていた。夫人も同じで、茶化しながらも小町の気持ちを優先してくれる。
そんな夫妻に対して、意に染まない決断を迫っている自分の行為に胸が痛んだ。
後ろ向きな考えに蓋をして、伯爵へ頷いて答えた。
「ええ。日本へ行きたいんです」
答えれば、伯爵はソファーに背を預け、夫人と視線で会話する。再び身を乗り出し、両手を組んで膝の上へ置いてみせた。小町と目を合わせたまま、たっぷりと間を置いて切り出した。
「いくつか条件がある」
緊張が走る。小町は背筋を伸ばし、次の言葉を待った。
「プレザンス子息との婚約だよ」
……はっ!?
思ってもいない条件が飛び出し、呆気にとられていた。内容を理解するのに時間を要してしまう。
婚約? ケヴィンと?
頭の中で言われた内容を繰り返し、理解すると同時に立ち上がって声を荒げていた。
「義父様! それはできないとお断りをしたわ、知っているでしょう!? 何故それが条件なんです!?」
目を剥く小町の手を取り、ケヴィンはその手を優しく包み込んだ。
「僕の気持ちは変わらないと言ったはずだ。伯爵、喜んでお受けします」
「ケヴィン! どういう事か分かってるの!? 簡単に返事をしないで!」
既に小町は冷静ではなかった。自分でも十分に承知しているが、こればかりは譲ってはいけないのだ。
自分のせいで、この思慮深く優しい彼の将来を捨てさせてはならない。決して。
「間違っていましたでは済まないのよ。お試し期間なんてものは、私との交際にはないの。分かっているでしょう? ダメよ、受けては」
「いいかい? 間違いとは思わない。君と交際して仮にそれがダメになったとしても、僕にとっては貴重な財産だ。君に文句を言われる筋合いはないね」
また話は平行線を辿りそうだ。小町は苦々しい思いで唇を噛んだ。
伯爵は、何故こんな条件を出したのか。
夫人の差し金なのか。
頷くはずがない事は分かっているだろうに。
どうして……
夫妻を見ると、二人の様子をジッと見つめていた。夫人に普段の茶化すような雰囲気はなく、伯爵もあえて表情を消しているように思う。
何か意図があるのだ。
考えなくては。
このままではケヴィンの将来を潰してしまう。そんな事をさせてはいけない。思い描く日本での未来に、彼の姿はないのだから。
そこまで考えた時、自分がこの国に帰ってくるつもりがない事に、夫妻が気付いているのではないかと思った。そうでなければ、婚約などと言い出す理屈が分からない。
必死で考えを巡らせていると、ケヴィンの声が思考を遮った。
「昨日、僕が家に帰ったら、夫妻がいらしていたんだ」
驚いて顔を上げ、夫妻とケヴィンとに交互に目を向ける。
今日会ってから、ケヴィンはそんな事を一言も言っていなかった。
なぜ言ってくれなかったのかと聞きそうになり、思い留まる。
彼を責めるのは筋が違う。今は考えなくては。どうして夫妻がケヴィンの家へ行ったのか。何の為に……
しばらく考えハッとした。ケヴィンに婚約を了承させるためだ。わざわざ家を訪ねたのは、恐らく彼の両親にも話をするため。
夫妻は小町が誤魔化していた思惑を見抜き、ケヴィンを足枷にするつもりで動いたのだ。
この国に戻る為の、足枷にするために。
そしてケヴィンは、それを承知で了承した。だから、あえて何も言わなかった。そう結論付ければ全てに納得がいった。
誤魔化しきれなかった自分に、ケヴィンを巻き込んでしまった自分に腹が立ち、唇を噛んで俯き、ギュッと拳を握り締める。絆創膏の上からかかる力に、手のひらがジクジクと痛む。
そんな事など気にしていられないほど自分に腹が立った。完璧だと思い上がっていた自分に。
すると温かい手が小町の手を引き寄せた。握り締めた拳をケヴィンの手がゆっくりと開き、指を絡めていく。
まるでこれ以上、小町の手を傷つけまいとするかのように。
「君が僕に言いたい事は分かってる。知っていたのか、だろ? 答えは……知っていた。昨日、夫妻から聞いていたんだ」
「…………」
「大丈夫だよ。僕も夫妻も、君のしたいことを邪魔するわけじゃない。僕にも君にも、譲れないものがあるだろう? 夫妻にも、もちろんあるんだ。だから、こう考えてくれないかな? 君が送り出す側の立場ならどうしたか」
小さな子供に言い聞かせるように、そう言って誘導する。小町の中でも答えは出ていた。
もちろん、何がなんでも引き止めようとする。
室内に静寂が訪れた。
変わらず二人を見つめる夫妻。成り行きを見守る執事達。壁の花の様に大人しくなってしまった義姉二人。
しかしそんな壁の花が静寂を破る。アリッサだった。
「あんたに聞きたい事があるわ」
そう言った彼女は、小町が作った資料をローテーブルに叩きつけた。不動産会社の今後の方針を記したページが開いていた。
「一通り目を通したわ。それで? 最後のこの行、いったい何?」
――上記を踏まえ、不動産会社ダヴィの権利の全てを、アリッサ・ベラ・L・エインズワースに譲渡する事とする。
そう締め括った一行だった。
「自分がやりたい事をしたいからって、私に押し付けようっていうの?」
「違うっ! そうじゃないわっ。いずれ義父様はそうなさるつもりなのよ。フレデリックだって、ゆくゆくはお義姉様に付くはずの執事だもの」
「そうね、さっきお父様もそう言ってたわ。でもそれは、この資料に目を通したから……だから考えるようになったそうよ」
「……っ!」
「あんた、ビジネスでも先を読むのが得意みたいだけど、深読みしすぎなんじゃないの?」
睨み付けてくる彼女の顔が、ふいにクシャリと歪む。泣きそうに。
「やっぱり……あんたは我が儘よ。……お父様達のこと……全く考えてないじゃない」
責めるわけではなく、諭しているように聞こえていた。涙を貯めたアリッサの目も、何かを訴えているかのようだ。
意味が分からなかった。
いつも無関心な義姉が、こんな顔をして自分を見てくる理由が分からない。
「ケヴィン」
伯爵の声に振り返れば、驚く事に、ケヴィンへと頭を下げている。
「こんな形で君の気持ちを利用してしまって……申し訳なく思っている。許してくれ」
夫人も潤んだ瞳で伯爵にならう。二人の義姉達もケヴィンへと頭を下げた。
思考がついて行かず、皆の様子に目を向けるだけで精一杯になっていた。
あっちへ目を向け、こっちへ目を向け、まるでオウムのように。
やがて顔を上げた伯爵が、小町に向き直った。
「コマチの家はここだろう? そう思わせてもくれないのかい?」
大きく肩が震えた。
自分が情けなかった。
誤魔化せているつもりで、しっかりと本心を見抜かれていた。
こんなセリフを伯爵に言わせた以上……とるべき行動は一つしかない。
分かっているのに、どうしても最後の一歩が踏み出せない。
ケヴィンの将来を棒にふらせてしまうかもしれないのだ。怖くて足がすくんでいる。
「帰ってくるんでしょう?」
「当たり前でしょう、ジェニー! もし帰ってこなかったら、私が引きずってでも連れ戻してやるわ!」
何が何だかわけが分からなかった。
どうして義姉達が、こんなセリフを口にするのか。
どうして自分は泣いているのか。
自分に腹を立てているのに、どうして嬉しいのか。
とにかく、わけが分からない。
後になってイーノクが教えてくれた。休憩時間に夫妻が義姉達を叱りつけのだそうだ。夫妻も確執を深めた事を詫び、義姉達が抱いていた懸念を取り除くために、これまで話さなかった金銭的な話を説いたのだと言う。
義姉達は勘違いを認め、素直に夫妻へ謝罪したらしい。しかし、面と向かって小町に謝るのが癪だとも言っていたそうだ。
「良い家族じゃないか。……僕だって、君が帰ってくるつもりがないと知ってショックを受けたんだ。ここは一つ責任をとって、僕を慰めるべきだと思うんだけど?」
「…………」
「ほら、そろそろ負けを認めたらどうだい? それとも僕じゃ不服かな?」
もうダメだと思った。
もとより選択肢は残されていない。
進む道はここしかないのだ。
絡めていた手を解き、彼の胸に飛び込んだ。
「何が“ほら”よ。嫌なわけないでしょう」
涙のせいでグズグズな顔を見られたくなくて、その胸に顔を寄せる。彼は痛いぐらいの力で抱き締めてくれた。
耳元で照れを隠すような声がする。
「やっと手に入れたよ、フレッド。僕の勝ちだ」
「そのようですね。私も嬉しく思います。そもそもケヴィン様の勝ちは分かっていましたので、あれは勝負になりませんよ」
「どうだかな」
「事実ですよ。しかし、一時はどうなるかと思いました。お嬢様のストーカーの様でしたから」
フレデリックの言葉に、室内の男性陣が思い思いの反応をしてみせる。
「フレッド! 分を弁えないか!」
「まぁまぁ、イーノク。面白そうな話じゃないか。是非とも詳しく聞かせてくれないか?」
「言うな、フレッド!」
小町はケヴィンの胸の中で恥ずかしくなって身じろいだ。その腕を誰かの手が引っ張り、スルリと体を引き離す。
振り返ると、夫人がギュッと抱き締めてくる。
「寂しいこと……言わないでちょうだいね。あなたは私の大事な娘なんだもの。これからもずっとよ」
また涙が溢れた。
「ごめんなさい、義母様。ありがとう」
抱き締め返した義母の体は、とても細くて頼りなくて……
それなのに、力強くて温かかった。
自分には、二人の父と二人の母がいる。それはとても幸せな事だ。
小さな夫人を抱き締めながら、小町はそう思っていた。
感動の抱擁の後ろでは、男性陣がヤジを飛ばしたり、ケヴィンをいじったりなだめたり、子供のようにはしゃいでいる。
ふいに体を離した夫人が一歩後ろに下がり、小町の全身を上から下まで眺め始めた。不思議に思いながら首を傾げれば、楽しそうに夫人が笑んだ。
「婚約のお披露目パーティーは、パァッと景気良くやりましょうね! ドレスを作っておかなくちゃいけないでしょう? あなた、また背が伸びたのね」
言いながら小町の回りをクルクルと回り、この辺はレースにして、ここには刺繍もいいかもなどとデザインを検討し始めた。
そんな夫人の元へ、二人の義姉がバツが悪そうに近寄ってくる。
「パーティーの話なら私達も加えてほしいわ」
アリッサがそう言って視線を寄越してきた。その横でジェニファーが上目遣いにこちらを見上げてくる。
「ごめんね」
たったそれだけの一言に、また涙が流れた。
嬉しかった。
義姉達との確執は、氷山の氷のように溶けないものだと思っていたから……
やっと溶け始めたのだ。
アリッサに至っては、直接謝るわけではないのだが、歩み寄ろうとしてくれているのが分かる。だから……心の底から嬉しかった。
「私こそ……煽るような真似ばかりして……ごめんなさい」
すっかり鼻声になってそう言えば、アリッサがボソリと呟いた。
「お互い様だから私は謝らないわよ」
言葉だけで十分だった。流れてくる涙を止められず、顔を覆って何度も頷いていた。
「僕のレディーを泣かせたのは誰かな?」
優しく頭を撫でながらも面白がってケヴィンが顔を覗きこんでくる。
見られたくないのを分かっていて、わざとやっているのだ。そんな彼を無視して、アリッサに向かって問いかける。
「自分のものだと思ったら途端に意地の悪いことをするのね。男の人って皆こうなのかしら?」
「そんなものよ。理想の王子様なんて、この世にはいないのよ」
「アリッサ、君って、そんな性格だったかなぁ……」
アワアワと喋るケヴィンの様子が可笑しくて、義姉と二人して笑っていた。
こうして和やかに家族サミットの山場は越えていった。
夕食の席で小町の日本行きの詳細と、婚約パーティーの件を話し合う事になった。




