↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたがり社不の不死転生 ―死にたい私の、死ねない絶望―  作者: あづみ
第三章 死にたがり、魔王国へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

第二十話 死にたがりの日常、忍び寄る大戦の足音

 零番隊の専用宿舎の一室。


 魔王軍演習が終了して数日、私は相変わらず自室のベッドの上で大の字になり、微動だにしていなかった。



「あー、だるい。動きたくない。腹減った。このままミイラになって消えたい……」



 脳の奥底に巣食う「死にたい」という慢性的なノイズと、全身を襲う底知れぬ気だるさ。演習で無駄に体力を消耗させられたせいで、私の怠惰の度合いには拍車がかかっていた。サイドテーブルに転がっている煙草の吸い殻と空の酒瓶が、私の荒んだ引きこもりを雄弁に物語っている。


 しかし、そんな平穏な引きこもり生活は、轟音と共に唐突に破られた。


――ガチャンッ!!



「ちょっと、いい加減にしなさいよ、ウェタルカッ!」



 勢いよく蹴破られたドアの向こうから現れたのは、零番隊の同僚であるローザだった。彼女は眉間をぴくぴくさせ、片手で鼻を抑えながら、忌々しげに室内を睨みつけている。



「この部屋のドアを開けた瞬間、酒とタバコと汗の匂いが混じったすさまじい悪臭が漏れ出てきたわよ! 一体どんだけ換気してないのよ!」


「うっさいなぁ……。一人で静かにミイラになろうとしてるんだから、ほっといてよ……」


「み、みいらって何よ! あんた、演習が終わってから何日ベッドから出てないつもり? 外ではあなたのことで大騒ぎになってるって噂なのに、当の本人はこれだもの……っ!」



 ローザの容赦ないお叱りの言葉など右から左へと聞き流し、私は再び布団に顔を埋めようとした。だが、彼女は素早く私の腕を掴むと、問答無用でベッドから引きずり下ろした。



「ちょっ、まっ、やめて、離して……! お風呂とかめんどくさい……! 汚れなんてどうせすぐ溜まるんだから放っといてよ!」


「ダメに決まってるでしょ! 清潔感がないのはね、私の精神衛生上許せないのよ! ほら、暴れないの!」



 死んだ魚のような目を向ける私を、ローザは半ば引きずるようにして浴室へと連行していった。


 浴室に響き渡るのは、私の絶望的なため息と、ローザの呆れ混じりの格闘の音だった。



「ほら、頭を下げて。シャンプーするわよ」


「んー……。いっそこのお湯に沈んで、そのまま溺死できたら本望なんだけどなぁ……」


「死ねないくせに何言ってるのよ。ほら、ちゃんと流しなさい!」



 ローザは、呆れ返りながらも、容赦なく私の髪や体をゴシゴシと洗い上げていく。意外と手際が良く、その優しいマッサージのような洗髪に、私はだんだん面倒くさくなって身を委ねてしまった。



「自分を大切に、ねぇ……。そんなの私に一番似合わない言葉だよ」


「自覚があるなら少しは行動を改めなさいよ。……まったく、見た目はそれなりに整ってるんだから、中身も少しは反省しなさいよね」


 やれやれと肩をすくめながらも、綺麗に洗い上げられたタオルで私を包み込んでくれるローザ。おかげで私の身体は久々にさっぱりとした軽さを取り戻すのだった。


------------------------------


 ――その頃。


 魔王国から遠く離れた、広漠の大陸北方の険しい山岳地帯。


 通常であれば、そこは低酸素、極度の低温、そして希薄な魔力によって、人間が踏み込むことすら不可能な「死の領域」であった。さらに、その奥地には、外界から身を隠すための小隠族による強力な偽装結界が張られていたはずだった。


 しかし、その安全神話は、一つの「奇跡」によって音を立てて崩れ去る。



「――『聖光(ホーリー・フィールド)』を広げよ! 主の加護があらんことを!」



 聖教国から派遣された神聖騎士団の聖職者たちが、一斉に高潔な白い祈りを捧げる。


 彼らが放つ膨大な「神聖力」の加護は、周囲の過酷な環境をまるでおだやかな春風のように和らげ、さらには小隠族が長年張り続けていた隠蔽結界を内側から無効化していった。


 結界が霧散し、山頂の死角から帝国・聖教国の連合軍が現れる。



「なっ……!? 馬鹿な、この山を越えてくる者などいるはずが……!」



 まさかこの環境を越えてこられるとは夢にも思わず、山頂の隠れ里で平穏な日常を営んでいた小隠族たちは、不意打ちを食らうことになった。


 防御体制が整う間もなく、聖騎士たちの容赦ない突撃と「神聖力」の攻撃嵐が降り注ぐ。


「異端の温床を討滅せよ! 一匹たりとも逃がすな!」



 冷徹な正義感を掲げた聖教国の軍勢により、逃げ遅れた数名の小隠族が無惨に命を落とし、静かな集落は一瞬にして血と炎に包まれた。



「お父様……っ!」


「職人頭! 結界が破られました! このままでは里が全滅します!」



 圧倒的な戦力差と理不尽な奇襲の前に、小隠族の職人頭は血を流しながらも決断を迫られた。このままでは族長一族も含めて全員が根絶やしにされる。


 職人頭は懐から最大級の魔導触媒を取り出し、全魔力を注ぎ込んで叫んだ。



「全員、転移陣に入れっ! 我が血脈の誇りにかけて、ここを脱出する……ッ!!」



――ドオォォンッ!!


 敵の猛攻が降り注ぎ、集落の家屋や住民たちが次々と消えかけていく中、起動させた巨大転移陣が強烈な光を放つ。空間が激しく歪み、集落の残った家屋ごと、生き残った者たちは命からがら魔王国へと飛ばされていったのだった。


 魔王城の一室。


 大規模演習の講評と今後の防衛方針について話し合っていた軍務総括官のギルバートら軍部上層部の前に焦った顔の伝達官が走り込んできた。



「総括官、ならびに幹部各位にご報告いたします! ヴァルハイト帝国北部潜伏地の小隠族より、面会依頼でございます!」



 その言葉が終わるか否かのタイミングで、会議室の扉が勢いよく開く。そこに居たのは、空間転移によって魔王国へ逃げ延びてきた小隠族の生存者たちだった。


 部屋の空気がピリリと締まるなか、小隠族の代表者が、絶望と怒りに満ちた顔でギルバートたちに向かって叫んだ。



「帝国と聖教国の者共に、我が隠れ里の潜伏地が暴かれました……! 奴らは神の奇跡を笠に着て、我が里を一方的に襲撃し、多くの同胞を虐殺したのです……ッ!」


「なんだとっ……!?」


「奴らはこのまま魔王国をも根絶やしにするつもりでございます! 魔王軍の皆様、どうか……今こそ、人間どもの暴虐に立ち上がるときです……ッ!」



 その悲痛な叫びと報告は、魔王城の空気を一変させた。


 ギルバートら軍部上層部は、もはやこれ以上の静観は不可能であると悟る。潜伏地が暴かれた以上、全面戦争の火蓋は切って落とされていたのだ。



「……全軍に通達せよ。これより魔王軍は、人類との全面対決に移行する。――全軍、出撃の準備を始めよ!」



 ギルバートの重々しい号令が魔王城に響き渡り、長きにわたる沈黙を破って、世界を揺るがす大戦の歯車が大きく、そして激しく回り始めたのだった。



ーー閲覧いただき、ありがとうございます!ーー

ブックマークへの追加、★★★★★評価をぜひお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読了しました!! ウェルタカがかなり参ってる……自分を大切には確かに似合わない能力だけど、大切にするのは悪くないことじゃないと思うばかり……(´・ω・`) 魔王軍が全面戦争Σ(゜д゜;)!? 不穏…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。