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第2話:剣、鶏むね肉&ブロッコリー

【剣姫】――。

 皆が敬意を込めて私、レジィナ・ハードヴァルドのことをそう呼んだ理由は、ミュルグレス王国の在り方にある。


 ミュルグレス王国は、アロンダイト帝国に継ぐ国力を持つ国だ。

 “剣の国”とも呼ばれ、「上に立つ者は武術に秀でているべき」という思想が根強いのだが、それは男性に限った話ではない。


『王妃は華にあらず。王を護る「剣」であれ』


 兎にも角にも、強くあれ!

 そうでなければ、民はついてこない!

 王妃は王の一の家臣たれ!


 私は王国の慣習に従い、子どもの頃から妃教育という名の武術訓練に励んできた。

 同世代の女の子たちのように、ダンスやお茶会を嗜む時間などない。

 手まめが何度も潰れるほど剣を振り、剣の名手たちと幾度も手合わせをし、騎士たちの訓練にも数えきれないほど参加した。

 始めのうちは体力がついていかず、よく吐いたし、気絶もした。


 しかし、自分でも驚くほどに、剣は私の手に馴染んでいった。

 そしてみるみる才能を開花させ、国中の猛者が集う武闘大会を最年少で三年連続制覇した。

 その時に国王陛下から賜った称号が、【剣姫】。


 私は歴代の王妃や屈強な騎士たちと比べるまでもないほどに、剣に愛されていた。

 努力が実ることは誇らしい。

 皆から称えられ、頼られると嬉しかった――。


(でも……でもでもでもでもぉぉぉぉぉッッ‼ 【剣姫】の称号よりも! 私はお菓子が欲しかった!)


 私にご褒美のお菓子を与えてくれる人など、王国内にはいなかった。


 実家ハードヴァルド伯爵家は、代々軍の要人を輩出するゴリゴリの名門武闘派貴族。


 祖父は国王付き護衛騎士。祖母は軍務卿。亡き父は王国騎士名誉団長、母は現役軍務卿。長兄は王国騎士団長、次兄は近衛隊長……などなど、王国の軍事の要だと断言できるほど。


 その一家の一員として生まれ、育てられた私の置かれた環境は、今思い返すとなかなかに強烈だ。


 主食は、鶏むね肉とブロッコリー。

 学校のお弁当も、もりもりの鶏むね肉と隙間に捻じ込まれたブロッコリー。

 誕生日ケーキなんて、思い出したくもない。茹でた鶏むね肉の表面に、ブスブスと力業でブロッコリーが突き立てられていた。もちろん、歳の数だけ。

 一方で、不要物――特に脂肪と糖の塊であるとされた“お菓子”は、生活から徹底的に排除されていた。


 それが、私の“普通”だった。


(うん、相変わらずだ)


 お城で婚約破棄を言い渡され、その足で実家に帰って来た私が居間で目にしたものは、卓上花のような顔をしてグラスに刺さっているブロッコリーだ。

 おそらく、お母様の補給食。戦場を想定し、味付けなしで、そのまま豪快にむしゃむしゃするのが、ハートヴァルド伯爵こと、母ソニアのスタイルで――。


「ふざけるなぁぁぁッ!!!!」


 雄たけびを思わせる怒号が屋敷を震わせた。


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