19.六人全員恋人なし
ntrは地雷なんすよ。
「──それで、僕は言ったわけさ。『これほど美味しい味噌汁は飲んだことが無い。毎日作ってくれ』ってね。
そしたらどうなったと思う?」
「知らん」
「知るか」
「どうなったんだろうねえ」
3人のプレイヤーとともに、待ち合わせ場所である食堂の中に居た。
それほど広くない店内には疎らに客がいる。その中で1つのテーブルに4人で集まっているのはだいぶ目立つ。
ちなみに、話に出ているのはこの店らしい。
「『一昨日来やがれ』だよ!?
さすがに毎日食べたくても、一昨日に食べるのは無理だよ!」
「いや、そうじゃないだろ」
「どう考えても拒否でしょ? ポジティブが過ぎる」
「うぅん、ノーコメントで」
彼はすごいね。そこまで明確に拒絶されているのに、待ち合わせにここを指定した度胸がすごい。真似出来そうにない。する気もないが。
ついでに言うなら、さっきから女将さんが厳しい顔でこちらを見ているのはそのせいらしい。原因の人物は喜んでいるが。
少しくらいへこたれるものではないのかね。
住人の女将さんに惚れ込んでプロポーズしたのが『ツバメになりたい』、若干濁して否定したのはジマーマン、はっきり切り捨てた彼女が『シフ』というプレイヤーだ。
今回のイベントで組むことを約束していた。
ツバメになりたいは疲れたサラリーマンのような草臥れた風貌で、わざわざスーツを模した装備にしている。本人曰く、「新鮮だよ」とのこと。色違いを3着用意して気分で着回しているお洒落な男だ。ただ性癖が歪んでいて、歳上の未亡人にしか興奮しないと言っていた。出来れば弱っているタイプよりも気丈に働いている方が良いとか。この食堂の女将は偶々どストライクだったようだ。
シフは背の低い目つきが悪い女性プレイヤーだ。口も悪いし、態度も悪い。成人しているため、未成年に間違えられるとひどく怒る。私も最初に失敗した。パンク、と言うのだろうか。レザーのベルトを何本も巻いて、バチバチにピアスを開けている。ピアスはキャラクターメイキングで髪型のアクセサリから設定が出来るそうだ。自慢げに教えてくれた。
4人でテーブルを囲み、めいめいに食事を摂る。まだ時間はあった。
ツバメになりたい、ツバメはその惚れ込んだ味噌汁を。
ジマーマンは普通の豚肉かを確認してから腸詰めを。
シフと私はモンスターの肉をソテーにしたものを注文していた。各都市の近郊で狩れるモッサウという奴らしい。もしかすると、イベントでお目にかかれるかもしれなかった。
まだここに来ていないのは2人。
集めた当人であるオクタウィ臼と、もう1人の女性プレイヤーである『セイロン』であった。
6人で組むのは、上限いっぱいのフルパーティである。
普段はコロッセオを活動拠点にしている面々であるが、オクタウィ臼の誘いによって西の村防衛イベントへの参加を決めていた。
話を聞くに、こういった運営が主体でないイベントは間々あるらしい。
プレイヤーがフラグを立てるか、勝手に起動するのかの違いこそあれど、既に8件発生していると言う。結構なペースだ。
それも場所はあちらこちらで、街中でも起きたそうだ。「あれは大変だった」とはシフの言である。
「で、今回のは防衛戦って言ってたけど。何か知ってる?」
シフの問いに、私とツバメはノーと答える。
役に立たなくて申し訳ない。
だが、ジマーマンは違った。オクタウィ臼とのやり取りが他の3人より多い彼は、今回の詳細を聞かされていた。
「あいつの話だとタワーディフェンスに近いらしい。一定距離まで近づけないように群れを迎え撃つ感じだ。現地で組分けと言うか鯖分けされるみたいだな」
「ふーん」
聞いておきながらシフはつまらなそうに髪をいじる。彼女の態度の悪さには、数日の間で皆慣れてしまっているため何も言わない。
コロッセオにいる連中は変わり者が多い、と言われている。モンスターを主軸の敵に据えたゲームで、わざわざNPCかプレイヤーかの違いはあれど人型を相手に戦っている時点で物好きではあるのだ。そして程度の差こそあれ、普通とやらからズレていることを自覚している面々が大半だ。
そんな彼らからすると、シフの態度は可愛らしい範囲に入ってくる。
『OIG』自体の対象年齢が高めなこともある。プレイヤーの年齢層がある程度上の方であることで、言ってしまえばお子さまな態度としか受け取られていないのだ。
シフ本人もそれを理解しているようで。
怒らない相手に怒られないレベルで調整していた。そしてそれをまた私たちは揃って察していた。
……だれかれ構わず噛みつきがちな彼女に関しては、諦められていると言うのが近いかもしれない。
「Hey! よう!
ヘイ! YOU!
今日は、宜しくね! 頼りにしているよう!」
「相変わらずうるさいですね、コイツ」
待ち人来たる。
連れ立って来たオクタウィ臼とセイロンに挨拶を返す。
げんなりした様子のセイロンに水を差し出すと、彼女は勢い良くそれを呷った。豪快だ。
セイロンはシフの隣に座ると、定食を頼んだ。
出発するんじゃないのか。
シフが言い募れば、セイロンはどろんとした目を向けて答えた。
「モニュメントでバッタリそいつと出会しました。疲れているので、少しで良いから英気を養いたいのです」
お疲れと慰めの言葉を口にする。
私だけではない。セイロンはテーブルの全員からそうした言葉を受けていた。オクタウィ臼もである。
「自覚してんなら自重しろよ」
シフの一言に深く頷きかけ、動きを止める。
私もそう思うよ。
でも止めたくないのだ。ロールプレイングは。
その気持ちも分かるために、同意の言葉を口には出さないでおく。武士の情けだ、オクタウィ臼。
それぞれが注文した品を十分に味わった後、西の村への移動をすることになった。
なんだかリラックスしてしまったが、今日の本題はこちらである。
席を立ち、店を後にする。
味付けはシンプルだったが、実に美味だった。ツバメが通いたくなるのも理解出来る。
街門をくぐりながら雑談をする。
もっぱらコロッセオが話題の主だ。
その中で街を出るのは2度目になると言えば、皆に奇異なものを見るような目をされた。
「マジかよ、あり得ねぇ……」
言葉にもされた。
シフはもう露骨に引いている。
セイロンもジマーマンも呆れていた。
理解を示しているのはツバメだけだ。
「中々街からは離れにくいよね。僕も毎日ミリさんの食事を食べたいから遠出をするのが難しくてさ、だから──────」
ああ、これは違うやつだ。
途中でシャットアウトする。放っておくとずうっと喋り続けるのは彼の良いところであり、悪いところでもある。
「……もう少し誘うようにしますね」
オクタウィ臼、マジトーンは止めてほしい。
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ツバメになりたい的に、家元はNGです。夫がいるので。




