20.カチコミカチコミ申す
西の村に到着後、リスポーンポイントに設定した。これで、リスポーンすると西の村に出るようになった。街に戻った時には直さなければ。
大した手間では無いため、全員が即断即決で変更をした。
イベントの参加に申し込みは要らず、村内に滞在していれば良い。
そのまま時間まで暇を潰す。
村に来た時点で鯖分けは行われているようで、狭い村でも人が溢れるようなことは起きていない。芋洗いのようになるのでは、と期待していたのだがそんなことはなかった。
6人でふらふらと村の中を物色する。
一般の家屋が大体で、商店が2つと鍛冶屋が1軒、それから1軒の薬屋があった。寂れた村であるから、むしろ規模に見合っていない。
特段、珍しい物は売られていなかった。
街やコロッセオ地下街でも見かけるような食材に素材、武器や防具の類いは質が劣ってすらいる。
唯一の見所と言って良いのはきのこ類が多いことくらいだろう。それだって二、三種類しか変わらないが。
「いや、辺鄙な村だねえ」
「ホントだよ」
「もうちょっと面白いもん無いのかよ。なぁ?」
「それは仕方ないでしょう。所詮、村は村です」
「そいつを言っちゃあ、お終いだよう!」
「フォローになってねえよ」
結局買った物は無い。ほとんど街で揃えられるためだ。
ただ、収穫が無かったわけではない。
村を歩き回ったことで見られたものもある。
「東側は柵が弱いな」
「地面も緩いよね。足をとられそうだ」
「反対に西側は丈夫そうでしたね」
「森に面しているからね!
西から来る予測さ! 既に敵影を捕捉さ!」
「へえ、やるじゃん。返り討ちにしてやる」
村の建物のほとんどはボロの小屋で、何かあった時に避難するには心もとない。
村に侵入を許してしまえばクエスト失敗となるのだが、失敗と言う結果が出た後に村が無事で済むとは思えなかった。失敗しましたハイ終わり、とはならないだろう。最低でも家や店が壊され、最悪なら住人が死ぬ。
そしてそれを考えた時に、西にだけ注力するのは悪手だと思えた。
「……西側は罠だねえ」
「はぁ? どういうこと?」
正確には罠とは呼ばないか。
運営の意地悪、あるいは悪ふざけ。はたまた、悪戯か。
このゲームは横スクロールのタワーディフェンスではないのだ。敵は散開するし、ターゲットを囲うように動く。
お知らせで防衛に意識を偏らせたのが1つ目の悪意。
西に敵の姿を見せて危機感を煽るのが2つ目。
あからさまに東西で差をつけて、戦場を選ばせたのが3つ目。
この村が街から見て西にあるのもポイントだろう。村の東は安全だと刷り込んで4つ目だ。
これだけ仕掛けておいて西の壁で迎撃戦?
それは無いだろう。
簡単過ぎる。
クエストが失敗したところで、こんな村に重要NPCが居るとは思えない。仮に居て、それが死んだとしても対処は可能なはずだ。引き継ぎでも新規生成でもやりようはある。
アイテムや場所型のイベント系フラグにしたところで、奪還戦でも掃討戦でもクエストを発行すれば良いだけの話だ。
──つまり、このクエストの成否はゲーム的に重要ではないのだ。
そして重要ではないからこそ、そこには遊ぶだけの余地が生まれる。
「たしかにな……」
「しかしまだ、ゲーム開始からそれほど経ってはいませんよ」
「そんなの関係無いでしょ。コイツの言う通り簡単過ぎだし」
懸念は共有できた。
皆、楽観視はしていない。むしろ、有り得そうだと不安になった。
問題点が認識出来たら、次に考えるべきは解決策である。
着地点は決まっている。
クエストをクリアして村を無事に守ることだ。
そこへ持っていくための道筋。
それを導き出す必要がある。
「やっぱ迎撃じゃダメだよな?」
「対処しきれる数には限りがあるからねえ」
「他のプレイヤーは?」
「西側は確実に戦場となります。そこから離れたがるならクエストをリタイアするべきでしょう」
「……壁の強化は、ムリか。さすがに間に合わないよ」
加えて、他のプレイヤーは当てにならない。
既に何人も見かけているが、視線で分かる。
私たちを舐めている。
さすがに6人でいればナンパに来ないが、あれはダメだ。クエストの、モンスターの迎撃で活躍して女性プレイヤーを引き抜こう。
そんな考えが透けて見えた。
シフもセイロンも下卑た視線には気付いている。
吐き捨てるように協力を否定した。
ツバメも、オクタウィ臼だってそれを理解している。察していないのはジマーマンだけだ。だが彼も、そこに触れない方が良いことは悟って早々に諦めていた。
「なあ」
揃って頭を悩ませていると、それまで静かだったオクタウィ臼が口を開いた。
常とは異なるその調子に、全員が彼に注目する。
「俺たち、舐められてるな」
「……そうだね」
ツバメが苦々しげに首肯する。
私だって頷きたくはない。だが、それは認めざるを得ない。不愉快極まる話ではあるが。
「プレイヤーだけじゃない。運営にも舐められてる」
「そうとも、言えますね」
セイロンは今にも舌打ちしそうだった。
眉間にシワを寄せ、端正な顔を歪めている。
いや、それはセイロンだけではない。度合いに差はあれど皆似たような表情だ。
「……許せねえよな」
震えとともに発せられた小さな呟きは、誰の耳にもしっかりと届いた。
「コロッセオでバチバチに戦っている俺らが。
格上相手に一対一で戦っている俺らが。
死ぬことよりも負けることが嫌で戦っている俺らが」
私を含む皆の視線がオクタウィ臼に釘付けだった。
普段のふざけた態度は鳴りを潜め、時折見せる真面目な姿とも違う彼のことを驚きながら見つめていた。
「舐められているなんて、許せねえよなぁ」
強烈な自負。
己れを戦士として定め、戦士である己れを何よりも誇りに思っている。それを、その怒りに燃える瞳が雄弁に語っていた。
気付けば、オクタウィ臼を除く全員が笑っていた。
心の底から愉快であると。その姿の気持ちの良さに笑っていた。
予想外の人物に本心を突きつけられて、得心しながら笑っていた。
心は、1つになっていた。
「で、具体的にどうすんの」
「敵影捕捉! 行動予測! こちらが先手は世界の法則!」
シフの問いに、いつもの様子に戻りながらオクタウィ臼が答える。
ああ、そういうことか。
彼はとても楽しい提案をしてくれていた。
「なるほどねえ。一番槍は私が貰おうかなあ」
「あ、そういうこと!? いやいや、譲らないよ!」
「何よ! どういうこと!?」
シフはまだ思い至っていないようだ。
セイロンも分かったようで、ニマニマと笑みを浮かべている。からかう気が目に見えるようだ。
「迎撃戦は難しい。連携も出来ない」
ジマーマンが教えるように、いや実際シフに教えていく。
「なら話は簡単だ。撃って出れば良い」
「はぁ?」
シフが口をポカンと開けている。
理解が追いついていないようだ。
ジマーマンの結論まで端折る癖が、彼女の思考を振り落としていた。
「森にはもう敵がいるんだから突撃をしよう、と考えているんですよ。それとも、貴女はお留守番が良いのかしら」
セイロンに煽られてシフはようやく理解した。
罵詈雑言を垂れ流しながら、じゃれ合いを始める2人。
それをBGMに、具体的な作戦内容を詰めていく。時間が無いため簡素に、また簡易に。
敵の正確な位置。森までの距離。森の中について分かる範囲での情報。それぞれの配置。
さっとまとめたそれをグループチャットに貼りつける。主に遊んでいる2人のためである。
時間と備品を確認して、準備が万端であると分かったら素早く移動をする。
鉄は熱いうちに打て。日が照っているうちに干し草を作れ。善は急げ。
邪魔をされないうちに、作戦決行である。
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