17.楽しんでこそ
サブタイトルを変更しました。
──オクタウィ臼に誘われた防衛戦イベントの前日である。
だが、イベント前日であってもやることに変わりはない。
習慣はわざわざ変えるものではない。
悪いものであれば話は別だが、それで上手く回っているのならば静観すべきだ。
習慣は自然と変わっていくものであるのだから。
それに、顔合わせも当日で良いと言われていた。そもそも、全員がコロッセオにいるものだから、試合を通じて面通しは済んでしまっていた。
1人、ボコボコに負かしたせいで顔を会わせる度にぐちぐち言われるようになってしまったが、それは気にしないことにした。ジマーマンはあれから3回殴り倒しても笑っているのにね。
さて、今日も今日とてコロッセオに居るのだが、これで何戦目になるだろうか。
ペースを緩めに進めているから、あまり勝ち星を乗せられていない。
通算で見れば、50を超えていたはずだ。
どうだったかな。
メニューから確認して見ると、53戦47勝6敗とある。
勝率を9割に乗せたいところだが、中々に難しい。
1度の敗けが大きく響く。
それにしても住人が強い。6敗した内の5敗が住人を相手にした時だ。学ぶことも多いが、どうせなら勝ちたいね。
今回の相手は、オーソドックスな剣士だ。
盾を持ち、片手剣を装備している。
金属で各部を補強した鎧を身に着けて、顔は何やら面のような物で覆っていた。
果物、だろうか。祭りの屋台にあるような安っぽい、プラスチックのような質感の面はメロンを模した物のようだ。緑に塗られた本体からT字に蔓が伸びている。
間違いなくプレイヤーだろう。
『覆面メロン』。
この名前で、あの姿で住人だったとしたら、もう、笑うしかない。
彼のような奇抜な装いも増えてきた。
デザインの凝った装備も少しずつ出回り、コロッセオでは住人とプレイヤーの見分けがしやすくなってきていた。
見ている分には楽しいので嬉しい。
だが、戦うとなると見た目に騙される部分もあるため、如何とも言い難いものがあった。
そこは諦める他ないかもしれない。
偽装なり仮装なりは対人戦において有効的な一手だ。私だって何かしらしたいと考えている。
まさか、他人にやるなとは言えない。
それにしても、直視すると笑ってしまいそうだ。
剣士は真面目ぶって構えているが、それがなおのことおかしさを引き立てていた。
下らない仮装なのに、見れば見るほど面白く感じてくるのだから不思議である。少し悔しくすらあった。
視線を外しながら、整息。リラックスさせ、身体から強張りをとる。
落ち着いて、勝ちにいこうね。
開始の銅鑼が鳴ると同時に互いに動き出す。
装備が似れば、戦い方も似る。
私と彼は、近距離を主戦場にする者同士だ。それは戦闘スタイルの噛み合いを表すとともに、喰い合いを示す。
つまり、先手必勝だ。
「【チャージ】!」
レベルが15を超えたことで得た、新しいスキル枠。そこにセットしたスキルの効果は単純なものだ。
突進。
私に足りない、間合いを詰めるための移動力を補うチョイスである。
ぐんっ、と加速する。
一気に相手に迫る。
2歩で間合いを踏み潰し、覆面メロン目掛けてメイスを撃ち下ろす。……使い始めの頃は相手を撥ね飛ばして間合いを空けてしまっていたが、ようやく慣れてきた。
鈍い音を立てて受け止められたのを確認するより先に、盾を押し込み動きを封じる。さらにメイスを打ち込んでいく。
認識に先んじて身体を動かす。
判断は後で良い。思考も置き去りにして、ひたすらに攻撃を繰り出していく。
ただ、当てる。当てさえすればリソースは削げる。
防御を選ばせ続けるのだ。
受け身にさせろ。
何かがハマるように感じた。
悪いものではない。むしろ、これ以上なく素晴らしい何かだ。
スキルと異なる、私に由来したもの。
世界の色が、鮮明になったように思えた。
「ハハッ!」
アドバンテージを取り続ける。
防御の上からでもお構いなしに殴りつけた。
優位を押し付ける。
勝機を逃がさない。
至近距離での乱打戦に持ち込む。
思考させる隙など与えない。
スキルを使う判断をさせない。
後手に回して抑え込む。
一方的に攻め立てる。
「……ハハハッ!」
良い感覚だ。
自分のスペックを超えたパフォーマンスが出来ていることを実感していた。
ギアを上げる。
相手の防御の隙間が分かる。見るよりも先に感じ取れていた。
相手の反撃のタイミングが分かる。出所に攻撃を差し込んで止めることが出来ていた。
相手が焦っているのが分かる。崩れるまでもう一押しだと直感した。
手に取るように、戦況の全てが理解出来ていた。
温存していたスキルを使い、辛うじて保たれていた天秤を私の方へと傾ける。
勝利は、渡さない。悪いね。
試合をしていると自分でも信じられないような動きが出来る、時が何度かあった。
ああ、今もまたそれだろう。
震えが走るほどの全能感。
きっと脳内麻薬がドバドバと出ていることだろう。
心は地に足つかずふわりふわりと浮き立ちながら、しかし鋭敏な知覚が鎖となって理性と結び付けている。
熱情と冷静さが同居する奇妙な状態。
これを当たり前に使いこなせれば、私は誰にも負けないのではないか。
そんな幼稚な妄想すら頭に浮かぶ。
ひどく、ひどく楽しかった。
限界に挑むのは楽しい。それが勉学であれ、トレーニングであれ、ゲームであれども変わりはない。
自分の持ち得る全てを発揮出来るということは、喜びなのだ。
それが、ただの暴力だとしても。
「ハハハハハハハハッ!!!」
──楽しい時間は、長く続かない。
時間にして、2分あまり。
相手のHPを削り切ったことで、試合は終了した。
高まっていた熱が吐息とともに排出される。何かが胸の中で空転しているような気がした。
勝利の喜びはある。それはもちろんだ。
ただ、もうしばらくあの熱狂に、愉悦に身を任せていたかった。
闘争に全てを投じていたかった。
危機感に身を焼いて、征服感に溺れる。
現代では褒められない野蛮な感覚は、それでも確かな充足感をもたらしてくれた。熱が冷めた後の寂寞は、皆が帰ってしまい一人残された夕暮れの公園を思い出させてしまうが。
次に同じことが出来るのは何時になるか。
鍛練を積めども、自在にオンオフが入れられるような感覚ではない。
どうしても、待ち遠しく思えてしまう。
ああ、きっと。
コロッセオに居るのは、だからなのだろうね。
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ステータスの詳細については次回。




