16.二人目のフレンド
「──悪いねえ。プレイヤーは自分勝手なんだよ」
力無く倒れ伏す騎士にそう声をかける。
苦痛に呻く声がかすかに聞こえてくるが、それも直に消えるだろう。
勝負は一方的なものになった。
八つ当たりにも近い理不尽な行いであることは自覚しているが、やはりテンション、それと相性は戦いにおいて重要な役割を果たす。
気持ちとしては、楽しくないからさっさと終わらせようと言うだけのものであったが。
まともに受け止めてはならぬと、相手の大剣による一撃に合わせてスキルを重ね掛けしてカウンターを叩き込んだ。体勢が崩れたところを一気に畳み掛けてチェックメイトだ。
機動力を殺ぎ、打てる手を削り、身を固めるだけの木偶人形にして滅多打ちである。
そこまでいくと少しばかり楽しくなってしまったのは、申し訳なく思う。
やがて、すうっと騎士の姿が消えた。
試合終了となった。
完勝である。
♦️
コロッセオの地下街をぶらぶらと歩く。
昇格戦がさっさと終わったために、なんとなく散策をしているのだ。今日はもう試合をしようという気持ちにはならないだろうからね。
ふと目についた店にふらりと入り、店内を冷やかして出ていくのを数度繰り返した。
気に入れば物を買うが、雑貨でこれという物には巡り逢えていない。
買うのはもっぱら食べ物だ。
『OIG』では食品、料理は嗜好品という位置付けになっている。
戦うことが可能なら、食べることだって可能だった。
味もする。きちんと美味しい。
五感の再現を謳うだけあり、味覚だけ旧世代に置いてけぼりなんてことはない。
肉は肉の、魚は魚の、果物は果物の、野菜は野菜の、なんだか分からないモンスターはモンスターの味がする。……モンスター食材は美味しいと言い切れないが。
ただ、食事を摂ってもゲーム的な恩恵が無いのだ。
他のゲームにあるようなバフがない。満腹度のようなシステムも。
HPを回復するわけでも、MPが回復するわけでもない。
美味しいだけだ。
なので、いわゆるガチ勢は食事にお金を使わない。その分、装備やアイテムの購入資金に回している。……彼らが何に対してガチなのか、理解に苦しむ部分が無いとは言えないかな。
まあ、ゲームの楽しみ方は人それぞれなわけで。
私はわりと食べ歩くのを好んでいるだけの話だ。
焼き鳥、団子、豚肉の串焼き、ホットドッグ、謎肉の串焼き、棒ドーナツ、フランクフルト的な謎肉、ポテトフライの串、謎肉の挟み揚げ。
いや、串もの多いね。
あと謎肉。モンスターの肉らしいが、元は何なのだろうか。怖くて聞く気にはならないが気にはなる。だが美味しい。
ああ、ゲーム的な恩恵の無い利点が1つあった。
好きなものを好きなように好きなだけ食べられることだ。
「なあ、あんたゼンザイだろ」
背後から呼び止める声。
振り向けばそこには1人の男がいた。
見目の良い優男。線の細い彼は、弓を背負っていた。
なんとなく見覚えがある。
「ああ、あー……。……どちら様で?」
「……ま、一度しか会ってないしな。ジマーマンだ」
名前を聞いて思い出した。
コロッセオで対戦した弓使いだ。
「思い出した。あれだ、大工じゃない人か」
「……それ。色んな奴に言われるんだけど、流行ってんのか?」
どうやら彼は知らないようである。
連れ立って、道の脇の喫茶店に入る。
私は紅茶を、彼はコーヒーを頼んだ。ほう、持ち込み可なのか。ゲームだからなのかね。
少し自己紹介をして、フレンド登録をした。
話してみると中々気の良い男であった。
ちなみに実家は農家らしい。ならバウアーにでもしなよ。言わないけど。
探したりしていたわけではないそうだから、出会ったのは偶然みたいだが、彼は何やら用があって話し掛けてきたらしい。
「──イベントについて聞いてるか?」
思い当たる節がない。
コロッセオでそんな話は無いし、ギーメル家からも聞いていない。コロッセオスレにもそれらしいことは書かれていなかった。
「何の話だい?」
「そうか、あいつまだ話して……。いや待てよ、フレンドメッセージは確認してるか?」
あいつとは?
それにフレンドメッセージを送ってくる相手なんて、……居たねえ。
全然、プレイヤーと交流が無いせいで完全に失念していた。
「あ」
見れば4件ほど溜まっている。
送り主は全てオクタウィ臼だ。
見ればジマーマンは呆れていた。返す言葉もない。
これ見よがしにため息まで吐かれた。不服である。
メッセージを読むと、そこにはイベント参加のお誘いが書かれていた。
街の西にある村、そこで行われる防衛戦。
それにパーティを組んで参加しようと、オクタウィ臼から提案がなされていた。
日程は3日後、詳しくは公式サイトを参照してくれとのこと。
確認してみると、公式サイトや雑談スレにはイベントについて書かれていた。こっちは見てなかったね、そういえば。
「……これは。悪いことしたねえ」
「あいつは気にしてなかったが、一言伝えておいた方が良いと思うぞ」
「たしかに」
勧められた通り、謝罪のメッセージは送っておこう。ついでに参加する旨も伝える。
ここで断りを入れるほど社会性が無いわけではないつもりだ。
「そう言えば、どうして君が知っているんだい?」
私の無精が迷惑をかけてしまったのだが、それをオクタウィ臼当人ではなく今知り合ったジマーマンに教えられたのはどう言うことだろうか。
もしかして割りとあるあるだったりするのだろうか。
「あいつに誘われてるのは俺もなんだよ」
あと愚痴られてた。そう付け足されると、彼にも迷惑をかけたのかと恥ずかしくなる。
あとやっぱりあるあるでは無いようだ。次は気をつけろと叱られてしまった。
まあ、オクタウィ臼には後で会った時にも謝罪をするとして。
「君の他に参加するのは?」
「メッセージに書かれてないのか?
あと2人は確定で、もう1人誘ってる途中らしいぞ」
「ふうむ」
頷いてみるが、参加者に心当たりがあるわけではない。元々ソロで、フレンドも今2人目が出来たところで、つまるところ私はボッチだからだ。
掲示板で名前が上がるプレイヤーなら見覚えくらいはあるだろうが、早々そんな上手く誘えやしないだろう。
……目の前に成功した事例を見て考えを改める。
もしかしたら、オクタウィ臼の人脈にはそんなのが他にも居る可能性がある。
インベントリから串焼きを取り出し、肉を齧る。硬い。
「それ、何の肉だよ。ガリッて音がしたぞ」
ジマーマンに1本分けながら、もう一口齧る。やはり硬い。
謎の肉なのだが、やたらと噛み応えがある。
ゲームだから歯が欠けることは無いだろうが、リアルなら口の中が大惨事だ。ただ、味は良い。
噛み締めるごとに旨味がじんわりと染みだしてくる。鰹節を砕いて食んでいる時に近い感覚だ。嫌いじゃない。
ジマーマンはおっかなびっくり串を眺め、やがて意を決したのかそろそろと肉を口にした。
「……ッ、固ぇ!」
そこまで大きなリアクションをされると、かなり面白いね。
文句は言いつつも食べ物を無駄にすることは良しとしないのか。どうにか少しずつ齧っていくジマーマン。ゲームの中であってもそういう姿勢は好ましく思える。
彼は彼で、とても愉快な人物である気がしてきた。
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鰹節の削りきれなかった欠片を口に含んで飴のようにしてました。




