#061「メデタシ」
@ロビーラウンジ
修羅「オイラ、こんな甲高い声なのか?」
弥勒「僕も、ステレオ音声には、違和感が」
大日「録音した声は、骨伝導しないで耳に届くからですよ。本人以外は、いつも通りに聞こえてます」
真理「最初のほうに、水走さんと駿河夫妻による利用者の声もありましたね」
帝釈「これは、あくまでも個人の意見です、というテロップを出す必要は無いと思うけどな」
不動「分別を弁えない餓鬼に向けた注意喚起なんだろう。大の大人が気にすることじゃない」
♪ジリリリリンという電話の音。
鬼子「フロントの電話だわ」
真理「わたしが取ります」
真理、フロントへ駆けつける。
――このあと、わたしが鳴り続ける電話から解放されたのは、すっかり日が暮れてからだったわ。予約表をめくりながら、喋りながら、聞きながら。とにかく、対応に追われて、軽いパニック状態だったから、詳しいことは何も覚えてないわ。記憶にございません。頭が真っ白になっておりました。まったく。放送終了直後から、こんなに問い合わせが殺到するなんて、よっぽど視聴率が良い番組だったのね。反響が凄まじすぎて、戸惑ってしまうわ。常世の皆さんも、もっとテレビ以外の娯楽に目を向けなきゃ。せっかく、肉体的制限が取り払われたんだから。
*
@大江山
酒呑「これで電話は鳴り止まへんやろうし、向こう三年は予約で一杯なんと違うかな」
茨木「今頃、電話応対でヒーヒー言うてることやろうね」
酒呑「せやな。てんてこ舞いやろうな。……ナァ、茨木。撮影後のアレは、本気やったんか?」
茨木「いまさら、昼間のことを蒸し返さんといてよ。……そりゃあ、脈無しなんは、承知の上やってんけどな」
酒呑「もし、ワイがエエんやったら」
茨木「エッ? またまた、酒呑兄さんまで冗談を。――ん!」
酒呑、茨木の唇を奪う。
酒呑「これでも、まだ嘘やと思うんか?」
茨木「嬉しい、けど」
酒呑「けど?」
茨木「せやけど、これは反則やわ」
酒呑「マァ、ワイを選んだことを、後悔せんようにな。惚れたんは、そっちやねんから」
茨木「選ばんかったほうが、ずっと後悔するわ。うちは、酒呑兄さん一筋やもん。――せや。うちは蠍みたいに嫉妬深い女やさかい、浮気したら承知せぇへんから、よぉ覚悟してな。警告したで?」
酒呑「フッ。もし破ったら、どないする気や?」
茨木「せやなぁ」
茨木、近くにある達磨落としを一瞥。
茨木「どこへも逃げられへんように、うちの愛刀で手足を切り落としたろうかな」
酒呑「またまた、エゲツナイ冗談を。――ん!」
茨木、酒呑の唇を奪う。
茨木「さっきのお返しや。これでも本気やないと言えるん?」
酒呑「(アカン。コイツ、目が据わっとる。)わかった。よぉ、わかった」
茨木「言質は録ったで?」
茨木、背後から録音機材を取り出す。
酒呑「いつの間に」
茨木「向こう三年は、ってあたりからや。動かぬ証拠が無いと、それっぽいこと言うてはぐらかす癖があるもん。その手は桑名の焼き蛤や。もう口車に乗ったり、口約束に翻弄されたりせぇへんさかい、観念しぃや? 遊び惚けたツケは、キッチリ払わなアカンで」
酒呑「年貢の納め時か。(これがホンマの鬼嫁やな。弥勒にイラスト描かせて、実録日記でも出したらヒットするやろか? 獰猛な一角獣を手懐けるのは至難の業やぞ、しかし)」




