#059「コクハク」
@ロビーラウンジ
真理「ねぇ、不動さん。あんまり大きな声では言えないんですけど」
不動「何だ、川添。言ってみろ」
不動、川添に耳を近づける。
真理「片想いのままのヒト、いや鬼が、もう一人残ってませんか?」
真理、茨木のほうを見る。
不動「ん? アァ、忘れるところだった。たっぷり御礼をしないといけないな」
不動、おもむろに立ち上がる。
*
酒呑「ご馳走さん。アー、ちょっと食休みしよう」
酒呑、ソファーに横になる。
茨木「酒呑兄さん。食べてすぐ横になったら、霜降りサーロインになってまうで?」
酒呑「ワイらは、半分、牛みたいなモンやないか。いや、茨木は一角やから犀やな」
茨木「誰が犀や。どうせなら、ユニコーンに譬えてや」
不動「茨木。取り込み中、済まないが、ちょっと、こっちへ」
茨木、不動の手招きに応じ、近くへ駆け寄る。
茨木「何やの、番頭。まだ、うちに頼み事があるんか?」
不動「まったく違う。向かってるベクトルが逆だ、と言えば、勘の良い茨木のことだから、思い当たる節があるだろう?」
茨木「はてさて、何のことやろうなぁ」
不動「他人の恋路を散々焚きつけておいて、自分だけ現状維持するつもりか? ステイしてないでアタックしろよ。レシーブ、トス、スパイク」
茨木「うちに、当たって砕けてこいっちゅうんか?」
不動「そうさせたのは、どこの誰だっけなぁ。体当たりして、砕け散れ!」
茨木「待ってや。玉砕が前提なん?」
不動「俺だって捨て身だったし、大日だって、帝釈だって、相応の覚悟をしてたはずだ。腹を括れ! それとも、鬼の副将は、総大将にくっ付いてるだけのコバンザメなのか?」
茨木「言うたな、番頭。酒呑の右腕っちゅう称号は、伊達やない。うちが腰巾着やないってトコを、しかと見せたろうやないか!」
茨木・不動、酒呑のそばへ駆け寄る。
*
酒呑「寝言は布団に入ってから言え、このド阿呆」
茨木、不動のほうを向く。
茨木「ほらな、アカンかったやろう。言わんこっちゃない」
不動「言ってみなけりゃ、判らなっただろうが。曖昧なままにするより、ハッキリさせたほうがスッキリするものだ。違うか?」
茨木「そら、そうやけど、それにしたってアレやないの」
酒呑「何をコソコソ言うてるんか知らんけど、ワイらは、もう帰らしてもらうで。食休みも済んだことやし、夕方の放送までに、赤鬼と青鬼の尻を叩いて、録った音源を撮った映像と合わして、いろいろ編集させなアカンからな。ホラ、機材を持ちや、茨木」
茨木、荷物を持つ。
茨木「夕方の放送を楽しみにしとってな。ほな、さいなら」
*
帝釈「このあとは、五人は忙しいのか?」
不動「アァ、そこそこな」
弥勒「浴室を掃除したり、客室を準備したり、厨房で仕込みをしたり」
修羅「朝の乱入者のせいで、午前中の仕事が、何も出来なかったからな」
大日「次のお客様がお見えになるのは、明日の夕方ですから、すぐに誰かとまるというわけでは無いのですが、アポイントメント無しでいらっしゃるお客様を、お待たせする訳にはまいりませんからね」
鬼子「アラアラ、それは大変ですわね。何でしたら、あたしたちも何かお手伝いいたしましょうか?」
真理「嬉しいお言葉ですけど、そういう訳にはいきませんよ。――ねぇ?」
帝釈「遠慮すること無い。祭りが終わって、店は臨時休業ってことにしてるんだ。暇なら、いくらでもある」
不動「どうする、支配人。俺は、支配人の一存に従う」
弥勒「正直、猫の手も借りたいところですけど」
修羅「怪力お化けが一体いるから、力仕事は捗りそうだけどな。――イタッ。暴力反対!」
帝釈「他人を怪物や化け物扱いするからだ。殴る拳だって痛いんだからな?」
大日「せっかくのご好意を無にするのも、かえって失礼かもしれませんから、お任せしましょう。――それでは、よろしくお願いします」
鬼子「こちらこそ。それで、まずは何から始めましょうか?」
真理「ここは効率を考えて、分業することにしませんか?」
弥勒「良いですね」
不動「俺も、川添の意見に賛成だな。――それで良いか、支配人?」
大日「そうですね。分担を決めましょう」
修羅「何で決めるんだ? 阿弥陀籤か? ――グオッ。平和に話し合おうぜ、タイ。拳じゃなくてさ」
帝釈「悪い、悪い。あたいは、口より先に手が動いてしまう性質なんだ」
鬼子、懐から紙と矢立を取り出す。
鬼子「七人も居ますから、全員が全体が把握できるように、紙に書き出して、役割を振っていくことにいたしましょう」




