#057「トリツケ」
@大江山
酒呑「抜け穴を空けて大荷物を持ってきてやったし、留守番もしてやった。あとは貸した恩を取り立てるだけやな」
茨木「せやね。縁結びもしたことやし、エエ加減、耳を揃えて返してもらわなアカンわ」
酒呑「ほな、行こか」
茨木「アイアイサー!」
*
@キッチン
弥勒「焼きたては、食欲をそそりますね。ソースとマヨネーズの上で、削り節が踊ってます」
真理「そうね。何枚でも、いただけそうだわ。――キャベツの旬って冬から春先にかけてだったような」
大日「たしかに寒玉キャベツや春キャベツは、川添さんの仰るとおりですけど、この時期は、高原キャベツが旬を迎えて、美味しい季節なんですよ」
修羅「いくら旬だからって、こんなにキャベツだらけにすることないよ。青虫にでもなった気分だ」
不動「生で食わせてる訳ではないんだ。わざわざ切り刻んで鉄板で焼いてんだから、ツベコベ言うな。それから、前歯に青海苔を付いてるから、あとで鏡を見て来いよ」
修羅「エッ。どこ?」
真理「食べ終わってから確認したほうが良いですよ。――弥勒さん。そちらの紅しょうが、取ってください」
修羅「アッ、ハイ」
修羅、真理にガラス瓶を渡す。
真理「ありがとう」
大日「満腹になれるのは良いことですけど、欲を言えば、緑黄色野菜を添えたいところですね」
不動「酒呑や茨木よりマシだろう。あの二人なら、白飯を催促するところだ」
修羅「『うちの身体は、炭水化物で作られ、炭水化物で動くんや』ってな」
弥勒「そうそう。焼きそばでも、チャーハンでも、うどんでも同様だよね」
真理「栄養バランスを完全に無視してるわね。現世の生身の人間なら、肥満と糖尿病へ一直線だわ」
酒呑・茨木、バタバタと入室。
酒呑「黙って聞いとったら、言いたい放題やないか。あいにくと、鬼の身体は頑丈に出来てるもんやさかい、そう簡単には、くたばらへん」
茨木「せやせや。あと、手代。ケッタイな関西弁を使わんとって。サブイボ立つわ」
不動「団欒の食卓に、厄介な蠅が闖入してきたものだな」
大日「噂をすれば影が差す、ですね。――融資のお話でしたら、食事が終わるまで待っていただけると助かるのですが」
酒呑「ちゃうねん。今日は、そういう話やあらへん」
真理「それでは、何の話なんですか?」
茨木「今日のうちらは、これや」
茨木、背中から荷物を降ろし、マイクを出し、五人に向ける。
真理「ティー、エイチ、ケー?」
修羅「常世放送協会の頭文字だよ。――オイラたち、テレビに出るのか?」
酒呑「声だけな。同時に流す映像は、赤鬼と青鬼に別撮りしてもろうてあるんや」
茨木「それを組み合わせて、大々的に宣伝したろうっちゅう寸法や」
弥勒「そんな、突然に言われても困るなぁ」
不動「拒否権は無いのか?」
茨木、不動にズイと顔を近付ける。
茨木「キューピッドをしたげたんは、どこの誰やったっけ? それに、うちは言うたで。貸しは、必ず返してもらうって。まさか、覚えてへんたら何たら、シラを切る気やないやろうね?」
不動「(なるほど、そういう魂胆だったか。)分かったから、下がれ。ステイ!」
――今日ばかりは、波風のない穏やかで平和な一日が送れるだろうと思っていたのに、何やら、またまた一悶着ありそうな予感がします。
大日「日頃から、よくお世話になっていることですし、ここのところ、頻繁に頼み事を任せてしまいましたからね。お引き受けしましょう」
酒呑「ヨッシャ。若大将の許諾が得られれば、こっちゃのモンや。ほんじゃあ、ロビーで待ってるさかい、早う用事を済ましや」
茨木「ほな、あとでな」
酒呑・茨木、ドタドタと退室。
修羅「朝っぱらから騒がしいったらないよ。嵐か台風みたいだ」
弥勒「本当。色んなものを、根こそぎ持って行かれた気分」
――サングラスを掛け、メガホンを持ち、カーディガンを首にかけた酒呑プロデューサーと、ガムテープ、マジック、スケッチブックの三点セットを持った茨木マネージャーが待ってるかと思うと、おちおち食事をしてる場合ではありません。
真理「朝のホテル業務は、どうしましょうか?」
大日「急ぎの仕事もありませんし、午後に回しましょう」
不動「というより、そうせざるを得ないだろう。まったく、ケタタマシイ奴らだ」




