#056「オハヤシ」
@ツクヨミ神社
茨木「どこからともなく湧いて出るもんやなぁ。前世はボーフラやったんと違うか?」
賀茂「五つの神社を結ぶと綺麗な五芒星になり、その結界の内側は、小生たち陰陽師のテリトリーだからね。そして、その中央付近にはヨドヤがある。――それはそうと、弥勒氏。陰陽師と聞いて男だと思い込むのは、いささか早計だね。看護士と聞いて女だと思い込むのと同じ過ちだ」
弥勒「ごめんなさい」
賀茂「謝ること無いさ。そもそも小生は、そのような誤解を利用して、このような振る舞いをしているんだからね」
茨木「せやせや。悪いんは全部、賀茂のほうや」
賀茂「どちらが悪いという問題でも無かろう。――さて。話は聴かせてもらっていたよ。お互いフリーであるのだから、物は試しだ。実験的に付き合おうではないか。恋とやらを知るのも、芸の肥やしになりそうだからね。フィガロの結婚ではないが、恋とはどんなものかしらといった調子だよ。ケルビーノよろしく、メゾソプラノで歌い出したい気分だね。クックック。ただ、依存性があるところは、酒、煙草、ギャンブルなどに似てるらしいから、迂闊に深入りして、底なし沼に沈まぬよう、くれぐれも留意せねばなるまい。のめり込む物が無い生活はイキイキしたものではないとはいえ、身の破滅は避けたいからね。くれぐれも紳士的に頼むぞ。どうだい弥勒氏?」
弥勒「不束者ですが、よろしくお願いします」
茨木「それ、自分が言う台詞とちゃうんと違う?」
賀茂「了解を得られたと伝わってるから、何の問題も無かろう。シニフィエかシニフィアンかの些細な差だ。言い方を変えたところで、本質は変わらないものなのだよ。――ところで。名称といえば、これらの名称は何か知ってるかね?」
賀茂、背中に手を回し、幾つかの玩具を出す。
弥勒「ワァ。ヨーヨー風船、水笛、毛笛、吹き戻し。色々ありますね」
茨木「紙風船、竹蜻蛉、綾取り紐、ビー玉。このへんまでは、何となく分かるんやけど、あとは、何ていうんやろうなぁ」
弥勒、二つの玩具を手に取る。
弥勒「コーン部分のスイッチを押すと、アイス部分が飛び出すもの。棒の先に蝋を塗った薄紙を巻きつけたもの」
茨木、二つの玩具を手に取る。
茨木「そーっと息を吹くと、籠に乗った玉がフワーッと浮かぶもの。長いバネ状になってて、階段を一段ずつ降りてくるもの。――正式な名前は知らんけど、そういうものやって説明すれば、何しか、あぁアレやなぁと思い浮かべるものばかりやな」
賀茂「弥勒氏が持ってるものは、アイスパンチとペーパーローリング。茨木氏が持っているものは、吹き上げパイプとスリンキー。ペーパーローリングは、カメレオン棒とも、スリンキーは、レインボースプリングとも呼ばれているそうだ」
不動以下六人、ぞろぞろと集合。
不動「何だ。賀茂も来てたのか」
真理「アラ、本当。賀茂さんも、お祭にいらしてたんですね」
修羅「アッ、カモッさんが居る」
帝釈「ガマの油でも売りに来たのか?」
大日「一枚が二枚、二枚が四枚、ですね」
鬼子「刃物をお持ちでは無さそうですけど」
賀茂「うまくいってるようだよ、弥勒氏」
弥勒「そのようですね」
帝釈「何の話だ?」
茨木「何でもエエやん。気にしなさんな」
♪太鼓と鉦の音。
大日「これで全員揃いましたし、櫓の準備も整ったようですから、盆踊り会場のほうへ行きましょう」
*
真理「どれが何座か分からないけど、満天の星が瞬いてるわね」
不動「見事なものだろう。現世では、ここ半世紀ほどで、すっかり見られなくなってしまったそうじゃないか」
真理「地上が明るすぎるし、曇りすぎてるからよ。夜空を見上げたって、お月さまが見えるくらいよ」
不動「残念だな。それなら、よく目に焼き付けておけ」
真理「綺麗だわ。とっても」
不動「あぁ。綺麗だ。(星空を見つめる、その瞳も、負けず劣らず輝いてるぞ、川添)」
真理「ん? 何?」
不動「(こっちを見るなよ。)何でもない」




