#053「グルマン」
@スタッフルーム
弥勒「修羅さんには、何を任せたんですか?」
不動「帳簿付けた。伝票が溜まってたから、算盤を渡して計算させてる。一応、間違いがないか、大日にチェックしてもらうように言ってある」
弥勒「二度手間ですね。パパッと計算してくれる機械があれば、検算する必要も無くて、重宝するんですけど。――茨木さんの作戦について、オサライも兼ねて整理したいんですけど、良いですか?」
不動「アァ。俺も、効果音ばかりで要領を得ない説明に、順序を付けたいと思っていたところだ。せっかくだから、黒板を出そう」
不動、部屋の隅から黒板を出し、壁に掛ける。
不動「作戦スタートの合図は、夕暮れに鳴る鐘の音。ゴーン、ゴーンと聞こえ始めたら、酒呑に留守を任せ、支配人、俺、修羅、弥勒、川添、茨木の六人で出発し、参拝に向かう」
不動、黒板に六つの丸を書き、支、不、修、弥、川、茨と書き入れる。
弥勒「それと同じ頃、帝釈さんが、鬼子お姉さんさんの店を抜けるんですよね」
弥勒、下に二つの丸を書き、鬼、帝と書き入れ、あいだに縦線を入れる。
不動「それで参拝のあと俺たち六人は、支配人、俺、川添の三人と、修羅、弥勒、茨木の三人との二組に分かれる」
不動、修と弥のあいだに縦線を入れる。
弥勒「僕と茨木さんは、帝釈さんと合流して、彼女と修羅さんを二人きりにして、その場を離れます」
弥勒、修と帝を線で結ぶ。
不動「俺と川添は、支配人を鬼子の店に連れて行き、一緒に店番を手伝うよう誘導する」
不動、支と鬼を線で結ぶ。
弥勒「あとは、盆踊りが終わった頃に境内に再集合するだけですよね?」
不動「アァ、そうだ。それまでは、適当に的屋を巡れば良い。自転車屋の首無しライダーは射的をやってるだろうし、水運の大将は金魚すくいをやってるだろう
弥勒「遊ぶのも良いですけど、何か食べるのも良いですよね」
♪ノックの音。
大日『不動くん。入りますよ』
不動「ちょっと待ってくれ」
弥勒「早く消さなきゃ!」
不動・弥勒、急いで黒板を消す。
不動「フー。――入って良いぞ」
大日、入室。
大日「二人とも、まだ入ってなかったんですね。お夕食の前に、済ませてくださいよ?」
弥勒「えぇ、そうします。角帯と腰紐が見付からなかったもので。ネッ、不動さん?」
不動「アァ、そうそう。でも、さっき見付かったから、すぐ入る」
大日「(二人で一体、何をしてたのやら。)しっかりしてくださいよ。修羅くんは、もう先に入ってますから」
不動「そうか。それじゃあ、行こうか」
弥勒「アッ、ハイ」
*
@キッチン
真理「メニュー名は、ありません。とにかく、鍋に合う食材を詰め込みました」
修羅「真理ちゃんが初めて来た日の晩と、同じような鍋だな」
弥勒「本当。あのとき僕が作った鍋に似てますね」
不動「適当に作っても生物兵器にならないところは、そこそこ料理の才能があるということになるんだろうな。――そう思わないか、支配人?」
大日「えぇ。そうですね、不動くん。――私が鍋料理を作ると、鍋の底が割れて、隙間から刺激臭が発生するんです」
真理「(鍋の中で、どんな化学反応が起きたんだろう?)何だか、理科の実験みたいですね」
修羅「成功してくれれば良いんだけど」
弥勒「いつも、どこかで失敗するんですよね」
不動「失敗したあとの厨房は、目も当てられないくらい悲惨な残骸が、累々と築かれてるからな。後片付けが、爆弾処理班クラスの危険性を伴う」
大日「危険物取扱者の免許取得が必要かもしれませんね」
真理「(サラッと国家資格を条件にしないで、大日さん。もっと危機感を持ちましょうよ。)アハハ。スリルたっぷりですね」
大日「お恥ずかしい限りです。(でも、これからは大丈夫でしょう。レシピ本を手に入れましたし、有能な指導者の当てもありますからね)」
真理「いずれ、上達しますよ。――修羅さん、弥勒さん。鶏団子のお味は、いかがですか?」
修羅「ヤミー、ボーノ、レッカー、デリシャス!」
弥勒「美味しゅうございます」
不動「ホー。まんまと騙されたな」
大日「フフッ。単品では駄目でも、好きなものと一緒にしてしまえば、存外に判らないようですね」
修羅「エッ、どういうこと?」
弥勒「まさか、何かしら僕たちの嫌いなものが混ぜ込んであった、ということですか?」
真理「大当たり。ほんのり赤いほうには、すりおろした人参を、黒い粒々が入ってるほうには、細かく切った椎茸を加えて練ってあったのよ」
修羅「エー。ホントかよ。口惜しいな」
弥勒「全然、気付かなかった」
不動「これで、ただの食わず嫌いだと分かっただろう? これを機に、苦手意識を払拭するように」
大日「アレルギーでないことが、ハッキリしましたからね。もう、言い逃れできませんよ?」
修羅「ウッ。持病の、癪が」
弥勒「いまさら仮病を使っても遅いですよ、修羅さん。諦めましょう」




