#052「オモワク」
@フロントエントランス
不動「支配人は今、手が放せない」
茨木「入浴中かいな。ヨッシャ。男に化けて裸を拝んだろう」
不動「やめてくれ」
茨木「そりゃあ、この格好のままでも、今だけ男ルール発動で押し切れんこともないんやけど」
不動「発動する側は無傷でも、発動された側は深手を負うんだ。支配人の身を、危険に晒す訳にはいかない」
茨木「うちのことを、何やと思うとるよ?」
不動「色男に目がない、エロババア」
茨木「無理矢理引ん剥かへんだけ、奪衣婆よりナンボかマシやと思うんやけどなぁ」
不動「そういうことだから、家に帰れ。夕方まで姿を見せるな。ハウス!」
茨木「マァ、うちの家は、犬小屋に毛が生えた程度の家やけどな。――ちょけるのは、このくらいにして、本題に入るわな。手代と丁稚は、何してるんや?」
不動「何だ、修羅と弥勒に用があったのか。それなら最初から、そう言えば良いものを。ハァ、とんだ無駄口を叩いてしまった」
茨木「探ってからネタに入るんは、漫才の基本やで。辛抱して付き合うたって、相方さん」
不動「俺は、お前とコンビを組んだ覚えは無い」
茨木「せやったっけ? うちがボケで番頭がツッコミで、いつか上方の頂点に立とうって、一番星を指差して誓うたような」
不動「記憶を捏造するな。修羅と弥勒なら、スタッフルームで休憩してるところだから、さっさと行け。ラン!」
茨木「(そのうち、お手とか待てとか、お座りとか伏せとか仕込まれそうな勢いやなぁ。)ちゃっちゃと用事を済ませてくるさかい、また夕方にな」
*
@スタッフルーム
茨木「祟り神でも居ったんか? 乱雑に物が散らばってミルフィーユになってしもうてる、この部屋に」
修羅「あれは生贄じゃない。てるてる坊主! それから、部屋が汚いことには触れないでくれよ。どこから手を付ければ良いか、ちっとも分かんないんだからさ」
茨木「首に紐を括られてブラ下げられとる様子は、見ようによっては人身御供の儀式に」
弥勒「見えません。大きく作りすぎたのは認めますけどね」
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茨木「そういうことやさかい、二人も協力したってな」
修羅「ヒヒッ。面白いことになりそうだな」
不動『修羅! お前に任せたい仕事があるから、こっちに来い』
修羅「ハーイ。――話は以上みたいだから、オイラは抜けるぜ。良いよな?」
茨木「かまへん、かまへん。行っといで」
修羅、退室。
茨木「あんな、丁稚。手代には言われへんのやけど、実は、もう一つ作戦があるんや。よぉ聞いてな」
*
大日「お洋服は、これで、すべて揃いましたか?」
真理「ハイ。これで全部、だと思います。エヘヘッ。酒呑さんに突然、拉致同然に連れてこられたので、記憶が曖昧でして」
大日「もし、足りないものがあると思った場合には、すぐに伝えてください。ホテル内のどこかに落としてないか、私たちも一緒に探しますから」
真理「分かりました。でも、それには及ばないと思います」
大日「そうですか。――ところで、濡れた本は、ちゃんと乾いていたでしょうか? 途中で一度、湿った新聞紙を乾いたものと取り替えたのですけど」
真理「乾いてましたよ。ちょっとページが波打ってたり、パリパリになってたりしましたけど、読む上では問題ありません。それに、元々そんなに綺麗な状態でもなかったんです。だから、劣化しても気になりません。むしろ、ページが張り付いたり、破れたりして、読めなくい状態になっていないことに驚いたくらいです。きっと、早めに対処してもらえたからですよね。ありがとうございました」
大日「お節介かと思っていたところ、感謝されるとは予想外です」
真理「お節介だなんて、とんでもない。――アッ、そうだ。良ければ、四冊とも、お貸ししましょうか?」
大日「いえいえ。たしかに、どれも興味をそそられる書物ではありますけど、川添さんがお困りになるでしょうから」
真理「いいえ。どれも手元に無くても、時々、パラパラと確認できれば、それで充分な本ですから」
真理、本を渡す。
真理「書き込みや線引きをしてあるところがあって、読み難いかもしれませんけど」
大日、本を受け取る。
大日「せっかくのご好意ですから、お借りしますね。ありがとうございます。(このうち一冊は、早速、役に立ちそうです)」




