#051「ツクヨミ」
@ランドリー
大日「三貴子の誕生神話は、ご存知ですか?」
真理「えっと。たしか、父神イザナギと母神イザナミのあいだに、太陽神アマテラス、月神ツクヨミ、嵐神スサノオの三柱が生まれた、という話ですよね?」
大日「よくお勉強されてますね。感心です」
真理「いえいえ。(ゲームの攻略キャラクターだったんです。アプリをダウンロードして、ドップリはまってた時期があったんです。スサノオがイケメンで、ベタ惚れでした)」
――そうだ。事のついでに白状してしましょう。雑学の大半は、少女漫画と乙女ゲームから仕入れました。まさか、こんな場面で役立つとは、夢にも思わなかったけどね。侮れないわ。……えっ? 何か、大事なことを一つ忘れてないかって? イヤイヤ。アレは、妹の蔵書だから。中身は、恋愛小説だったから。たまたま、主役が二人とも男性だっただけだから。わたしは、決して腐ってなぞいないから。そんなフィルターで四人を見てないから。嘘じゃないんだから。清廉潔白なの。説得力無いかもしれないけど! わたしは、桜とは違うんです。同人作業でわたしが手伝ったのは、ペン入れが終わった原稿の消しゴム掛けと、台詞入れだけなんです。これは、本当です。アーア。今年も、茶子ちゃんや詩織ちゃんを犠牲にして、徹夜で原稿したのかしら? ヘルプ要請は断ったけど、呟く暇も無かったみたいだったし、生ける屍になってないか心配だわ。
大日「川添さん、どうかなさいましたか? 心ここにあらず、という様子ですけど」
真理「アッ、ごめんなさい。つい、どうでもいいことを考えてしまって」
大日「お疲れが出てるのでしたら、ここは私に任せてもらっても」
真理「ホント、大丈夫ですから。――どうぞ、話を続けてください」
大日「無理しないでくださいね。――現世でも、五柱の神を祀った納涼祭が、全国的に行なわれているようですが、常世でも、盂蘭盆の季節の精霊祭として、夏の盆踊り大会を開いています」
真理「ヘー。面白そうなイベントですね。どこで行なわれてるんですか?」
大日「週ごとに持ち回りで催されてまして、一日はスサノオ神社、八日はツクヨミ神社、十五日はアマテラス神社、二十二日はイザナギ神社、二十九日はイザナミ神社に割り当てられています」
真理「アレ? それじゃあ、今日も」
大日「フフッ。そうなんです。前置きが長くなりましたけど、夕方、涼しくなってから、五人揃ってツクヨミ神社に行きませんか?」
真理「良いですね。アッ、でも、ホテルのほうは、どうするんですか?」
大日「不動くん曰く、留守居に電話番を頼んであるそうですので、ご安心を」
真理「(誰に頼んだのかしら?)そういうことなら、手早く仕事を片付けてしまいましょう」
大日「急がなくても、充分、間に合いますよ?」
真理「そうはいきませんよ。いざお出掛けとなれば、何かと準備が必要なんですから。――ちょうど洗い終わったようですから、パパッと干してしまいましょう」
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@三途の川、左岸
茨木「イヤァ、配達の途中やのに、呼び止めて悪かったわ。何せ、店では出来へん話やさかい、外で捕まえなアカンかってん。堪忍したって」
帝釈「帰りだから、まだ良いけどさ。売り物の準備も、朝のうちに済ませたし」
茨木「何も、境内まで出張せんでもエエんと違うん? ほぼほぼ、儲け無いやろう? 値を吊り上げる訳にもいかへんやろうし」
帝釈「義理とか、人情とか、しきたりとか。長く商売をしてると、たまには採算に合わないことだって、やらなきゃならないものなんだよ。解るだろう?」
茨木「マァ、解らんでもないけどな。頃合いを見計ろうて、適当にシガラミを抜けるんも、世に処す術の一つやさかい」
帝釈「ハイハイ。店を傾かせない程度に、うまくやるさ」
茨木「ほんなら、エエねん。――マッ、そういうこっちゃから、適当な所で抜けたって。店には、あとで若旦那を送り込むさかい」
帝釈「分かったよ。あたいも、二人の晩熟さには、痺れを切らしてたところだ。この辺で、何かアクションを起こしてもらわないとな」
茨木「(他人のことは、よぉ見えてるモンやなぁ。)あんじょう頼むわ」
茨木、立ち上がり、自転車に跨る。
茨木「せやせや。うちと合流するとき、手代と丁稚も一緒に居るさかい、そのつもりでな」
帝釈「ん? ちょっと待て」
茨木「ほな、夕方にツクヨミ神社でな。さいなら」




