#054「キンボシ」
@ツクヨミ神社
真理「お賽銭は投げなくて良いんですか?」
大日「気持ちの問題ですから、強制はしませんけど、投げたいですか?」
大日、袖に手を入れる。
真理「いえ。そういう習慣が無いのなら、それに従います」
茨木「郷に入れば、何ちゃら。代わりに、うちが投げたろう。――アウッ」
不動、大日に差し出した茨木の腕を叩く。
不動「茨木。それ以上馬鹿な真似をしたら、お前を賽銭箱に抛り投げてやる」
修羅「投げられたツッキー側も困るだろうな」
弥勒「ツクヨミさんにすれば、良い迷惑ですよね」
茨木「何なんよ。トラブルメーカーなんは、手代のほうやないか」
大日「神前で揉めないでくださいな。――二礼二拍手一礼ですからね、皆さん」
大日、鈴緒を持ち、鈴を鳴らす。
*
修羅「アー、また逃げられた」
帝釈「真上に持ち上げてどうする。斜めにするんだよ。ちょいと、あたいに貸してみろ」
帝釈、修羅の手からポイを奪う。
修羅「それ、半分近く破れてるから駄目だって」
帝釈「まだ半分、残ってる。ポイは半分を切ってからが勝負なんだ。狭い生け簀に詰め込まれた憐れな金魚を、この手で救い出さねば」
帝釈、縁に追い込み、掬い上げる。
修羅「ホントに救い出した。ヨッ、帝釈名人」
帝釈「ヨーシ。この調子で、生け簀を空にしてやろう」
*
真理「アラ? 当たったと思ったのに。台に固定してあるんじゃないかしら?」
不動「そんなインチキするか。ちょっと貸せ」
不動、真理の手から鉄砲を奪い、コルクを詰める。
不動「あの万華鏡が良いんだな? あれなら、下にビーズが詰まってる訳だから、真ん中より少し下を狙えば」
不動、万華鏡を撃ち落す。
不動「この通り。重心を見抜いて、それが揺らぐ一番効率が良い。容易いことだ」
真理「スゴイ。一回で命中した」
不動「これくらい、まだ序の口だ。バンバン撃ち落していくから、よく見ておけ」
*
大日「喉の潤いに、おひとついかがですか。――こんな調子で、よろしいのでしょうか?」
鬼子「ハイ。大変、結構です。すみませんね。お店を手伝わせてしまって」
大日「気にしないでください。私が、勝手に言い出したことですから」
鬼子「(不動くんと真理ちゃんに乗せらせて、強引に押し付けられた気がするけど、言わぬが花ね。)お優しいですね、大日さん」
大日「そうですか? ――さぁ、さぁ、甘いの辛いの、よりどりみどりですよ」
鬼子「いつも、燕尾姿しかお見受けしませんでしたけど、お浴衣も素敵ですね」
大日「フフッ。鬼子さんも、お綺麗ですよ」
鬼子「マァ。お世辞が、お上手で。あたしみたいなオバサンを褒めても、何も得になりませんよ?」
大日「ご自分を卑下するものではありませんよ。――話は変わるんですけど、鬼子さんに、折り入ってお願いがありまして」
鬼子「何でしょう? あたしにも出来ることですか?」
大日「鬼子さんにしか頼めないことなんです」
大日、信玄袋から書物を取り出す。
大日「以前、帝釈さんから、鬼子さんは料理の達人だと伺いました。その天賦の才をもって、私に料理の手解きをしていただきたいと思いまして。お願いします」
大日、頭を垂れる。
鬼子「そんな、急に言われましても。あたしより、もっと他に適任者が」
大日「他の誰でもなく、鬼子さんに教わりたいんです」
鬼子「……ハイ」
大日「お引き受けいただけるのですね?」
鬼子「そこまで言われて、無碍にお断りできませんもの。それに、他でもない大日さんたってのお願いですから。お料理の本まで用意されてることですし、読みながら、一緒に作ってみましょう」
大日「ありがとうございます。――寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」
*
@フロントエントランス
酒呑「退屈凌ぎにダイヤル回し、見知らぬ誰かの声を聞く。都都逸にもなってへんな。アーア。誰も、電話一つ掛けて来ーへんやないか。ちょっくら、外の空気を吸うたろう」
酒呑、カウンターを乗り越え、建物の外へ。
酒呑「アー、肩が凝った」
酒呑、大きく伸びをして、空を見上げる。
酒呑「あれは、宵の明星やろうか? いや、時期がちゃうかな」
♪チュビチュビという囀り。
酒呑「オッ。こんなところに燕の巣があったんか。烏も居らへんし、子育てには丁度エエかもな」
♪ジリリリリンという電話の音。
酒呑「誰や、ヒトがセンチメンタルに耽っとるっちゅうのに」
酒呑、カウンター越しに受話器を取る。
酒呑「こちら、ヨドヤホテル。何や、青鬼かいな。順調に進んどるんか? エッ? ……ほんならエエねん。そしたら、あとは、アレだけやな。……イヤイヤ、こっちゃの話や。何や? ……そんなん、ワイの知ったこっちゃない。赤鬼にも、よぉ言うとけ。ほんじゃあ、またあとでな」
酒呑、受話器を戻す。
酒呑「いよいよ、明日やな」




