#049「カシカリ」
@キッチン
弥勒「白菜、豆腐、白葱、もやし、榎茸、白胡麻と、すべて白い食材だったのですが、コチュジャンで真っ赤になりました」
修羅「何で、こんな暑い時期に、わざわざ汗が止らないような鍋を用意するのさ」
不動「暑い時期だからこそ、身体を冷やしすぎない配慮が必要なんだ。内臓が冷えると、体調を崩しやすくなるからな」
真理「ものの見事に、赤く染まってるわね。見るからに辛そうだわ」
大日「出来上がってから訊くのも変な話ですけど、唐辛子が効いた料理は平気ですか?」
弥勒「一応、飲み物は水ではなくて牛乳を用意してますけど、辛すぎたら言ってくださいね」
修羅「わざわざ、こんな苦行に耐えなくたって良さそうなものを、何が悲しくて、こんな辛い思いをしなきゃならないんだ」
不動「辛いという字は、もう少しで幸せになりそうな字だろう? だから、少しくらいは我慢しろ。辛抱という熟語は、辛さを抱えると書く」
――ウワァ。黒板に『辛』という字を書いて、そこへ、あとから一画書き足して精神論を説く熱血教師そのものだわ。良いですか、皆さん。人という字は、二人が支え合っている姿から形作られた字です、なんてね。解ったような解らないような例え話を得々と語って、自己満足しちゃうタイプね。そういう教師に限って、他人の気持ちになって考えなさいとか何とか、ブーメランでしかない美談をひけらかすから、困っちゃうのよね。マァ、良いわ。不動さんの旧式の頭は、これから少しずつ、わたしがモデルチェンジしてあげましょう。
大日「無理を強いてはいけませんよ、不動くん。――それでは、手を合わせてください」
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不動「なるほどな。たしかに、俺も薄々では勘付いてたんだ。――布巾、貸してくれ」
真理「どうしたら良いと思いますか? ――ハイ、布巾」
不動、布巾を受け取り、食器類を拭く。
不動「支配人のほうは、俺から探ってみよう。仮面の裏に隠れた本音を、何とか引き出してみせる。――拭き終った物から、片付けていってくれ」
真理「出来るんですか、そんなこと? ベットリ張り付いて、元の顔とスッカリ癒着してそうですけど。――足元、失礼します」
真理、引き出しを開け、食器をしまう。
不動「マァ、任してくれ。これでも、伊達に長く付き合ってないからな。――これで最後だ。ご苦労さま」
真理「そうなると、あとは帝釈さんに、勇気を出して動いてもらいたいところですね。――お疲れさまです」
真理、引き出しを閉じる。
不動「そっちに関しては、助っ人を頼もう」
真理「助っ人、ですか?」
不動「そう。鬼に金棒、バットに釘という寸法だな」
真理「(急に血腥くなってきたわね。)どうか、穏便にお願いします」
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@燕の間
茨木「たしかに、下では話されへん込み入った話やな。恋心を拗らせて、風邪が肺炎になりかけてるさかい、この際やから、一気に病原菌を駆逐して、清算してしまおうっちゅうことやな? あっ、いや。別に、御破算にするわけとちゃうで。うまいことくっつけて、片付けてしまおうって意味や」
真理「そうなんです。それで、お力添えを願えればと思いまして」
茨木「あんなぁ、お二人さん。うちも酒呑兄さんも、大江山で恋愛相談所を営んでる訳やないんやで?」
不動「それは、重々承知の上なんだが、他に有効な当ても無くてだな」
茨木「なくなく、うちを頼りにしようと思うた訳か。ホンマ、どうしもない従業員やな。番頭の次は、若旦那と手代かいな。ハァ。うちも商売上がったりや。マァ、自分らはお得意さんやさかい、断りはせんけどな。せやけど、うちらかて暇やないっちゅうことを念頭に置いときよ?」
真理「協力していただけるんですね?」
茨木「しゃーなしやけどな。エエか? この恩は三倍にして返してもらうさかい、よぉ覚えときや!」
茨木、立ち上がり、退室。
真理「あとで何をさせられるか分からない捨て台詞を言い残されてしまいましたけど、これで良かったんでしょうか?」
不動「心配するな。何とかなるだろうし、どうにかするさ」




