#044「タラレバ」
@川添家
真理「大家さんの頭の中には、ヒートアイランド現象という言葉がインプットされていないのかしら?」
――湿気と蚊の有無は、寝心地に雲泥の差を与えることを、改めて実感しました。扇風機と蚊取り線香で対処するには、限界があると思います。エアコン大明神は偉大なおかたです。早く修理されないものかと思います。ワー、太腿に二ヶ所も刺されてる。
真理「しかも、外は雨だから窓を開けられない。不快指数、うなぎ登り。モチベーション、だだ下がり」
――おまけに、あぁしてたら、こうしてれば、というタラレバばかり思い付く始末。テンションを上げなくては。やる気アップにも、疲労回復にも、何にしても、まず腹拵えが必要であります。腹が減っては、戦が出来ぬ。冷蔵庫、オープン。
真理「ヨシッ。タラタラの未練がましさを断ち切れ。夏バテ解消、食欲増進、レバにら炒めだっ!」
――ハーイ、そこの男子諸君。干物女だとか、オヤジギャルだとか、肉食系女子だとか。発想が月九ドラマに出てくる残念な女だと思ったのなら、お話があります。夕方に、庚午埠頭第三倉庫前に集まりなさい。拳で語り合いましょう。
真理「なーんちゃって。わたしは、生まれてこのかた十八年余り、一度も派手な喧嘩をしたことありませんの。ハードボイルドの世界は、フィクションでしか見たことないのよ。オホホ。……ハァ。お馬鹿のことを口走ってないで、総合スーパーに行こう。そして、食べたら電話を掛けよう」
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@ロビーラウンジ
茨木「こんな雨の日に急に呼び出しくらうとは、エライくさりやわ」
修羅「鬼の神通力で、晴れにすることは出来ないのか?」
茨木「そんなん無理に決まっとるやん、手代。お天道さんを好き勝手いじることは、龍神か、雷神か、風神か、それくらい偉い神さんやないと出来へんもんなんやで」
大日「ご足労をお掛けして、申し訳ありませんでした」
茨木「かまへん、かまへん。困ったときは、お互い様や、若旦那。ヨッシャ。番頭の元気を取り戻すために、うちが一肌脱いだろう」
修羅「頼むよ、ギーちゃん。こういうことは、デンさんくらいしか出来ないから」
茨木「任しとき。うちが酒呑兄さんにあんじょう頼んだるさかい、大船に乗った気で居り」
大日「よろしくお願いします」
茨木「(他人の恋路を応援しとらんと、自分の恋を実らせたらどないや、と思うところやけど、自分のことより他人のことのほうが、よぉ見えるんやろうなぁ。)ほな、チャッチャと帰るわな」
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@川添家
真理「日本史の図説、地理の地図帳、フードとファッションの副読本。いつか役立つと思って置いてあったけど、持って行けばよかったなぁ。スマホより、ずっと参考になるもの」
――レバにら炒めで気力と体力を回復したのですが、リゾートバイトの派遣会社に平謝りしたあと、少なからず気落ちしております。乱高下する不安定な心模様は、現在の庚午市上空の大気の状態にソックリです。
♪窓ガラスの割れる音。
真理「ヒャッ!」
酒呑「オォ、スマンスマン。急いでたんで、ちょっと乱暴な手段をとらせてもろうた。堪忍したって」
真理「ここ、七階ですけど? それより、窓!」
酒呑「ん? アァ、これは派手に割ってしもうたな。いま、直すわ」
酒呑、窓に片手を当てる。
酒呑「これで、文句なしやろう?」
真理、窓に片手を当て、指で撫でたり叩いたりする。
真理「ウソッ。粉々に割れてたはずなのに、罅一つ入ってない」
酒呑「ヨドヤで下女しとった川添真理ってのは、自分やな? 間違うてへんな?」
真理「たしかに、わたしは川添真理ですけど。あのー、どちらさまですか?」
酒呑「何や何や。茨木か、修吉あたりから聞いてへんのか? ワイは、外道丸いうモンや」
真理「そんな船みたいな名前、……アッ! ひょっとして、酒呑さん?」
酒呑「大当たり。説明不足の茨木には、強めに一発噛ましたらなアカンな。アッ、ステゴロやから安心してな。茨木は角が一本やから、パッチギも出来へんし、タイマンで勝負するさかい」
真理「拳で解決するのは、いかがなものでしょう?」
酒呑「口で言うて大人しゅう聞くんやったら、ハナからそうしとるところや」
――修羅さん以上に、ゴリゴリの不良様だこと。でも、男性でも惚れそうな甘いマスクと渋い声。たしかに、ビジュアル系っぽいわね。もっとも、額の両端から角が生えてなければ、口調が関西弁でなかったら、の話だけど。
※真理が口走った港は『クラムチャウダーとクラッカー』に、スーパーは『組曲「生徒会」』にも登場しています。




