#045「オオキニ」
@川添家
酒呑「据え膳食わぬとは、四人で牽制し合うてたんやろうか? 漁夫の利で、ワイがいただいてまおうか。油揚げをさらう鳶という訳やな。若大将や弥七は、ともかく、修吉あたりが手ぇ出してもオカシない別嬪さんやけど」
酒呑、真理に詰め寄る。
真理「マッ、待ってください。理解が追いつきません」
酒呑「スンスン。いや、不助の臭いがするから、やめといたろう。無用な恨みを買うて成敗されるんは、金輪際コリゴリやからな。――さて。無駄話は、小脇に置いとくとしよう」
酒呑、ベッドのそばにある荷物を左脇に抱え、窓を開ける。
酒呑「ほな、行くで」
真理「エッ! 行くって、どこへ?」
酒呑「ヨドヤに決まっとるやないか。他に必要なモンはないか?」
真理、ベッドの上のパジャマと四冊の本を持つ。
真理「それなら、これも。――ワッ」
酒呑、パジャマと本を荷物の中へ押し込み、真理を右脇に抱える。
酒呑「ほんなら、ちょっとした空の旅へ招待しようやないか。せいぜい、ウェンディーになった気分で楽しむことやな」
真理「ピーターパンは、虎の刺繍の入ったスカジャンなんか着ません」
酒呑「頭が固いんやな。ターキースタイルって奴や。暴れて落ちたら、怪我どころでは済まへんさかい、大人しゅうしときや。――エイヤッ」
酒呑、窓枠に立ち、そのまま虚空へ踏み切る。
真理「それを言うなら、タッキーです。――キャー」
*
@スタッフルーム
不動「何だ、その蓋付きの缶は?」
大日「サイタリーボックスですよ。色付きの小袋に縛って、こっそり捨ててたのを思い出しまして。――ピンクとブルー、どちらが良いと思いますか?」
不動「この次、いつ会えるか解らないというのに」
大日「備えあれば憂い無しですよ、不動くん。顧客層は年配層に偏ってるせいで、若い女性への配慮に欠けるところがあることを、川添さんは教えてくれましたね」
不動「従業員は野郎だけだし、爺さんか婆さんか判らないお客様ばっかりだからな」
大日「老境に入ると、性別を超越するものなのでしょうか? フムフム。面白い着眼点ですから、考えてみる価値がありそうです。差し支えなければ」
不動「勝手に使え。煮るなり焼くなり、好きにしろ」
*
修羅「新しい色鉛筆で何を描いてるのかな、ミーくん? あっ、ゴメン。やっぱり、見ないでおくよ」
弥勒「見て良いですよ。どうぞ」
修羅「それじゃあ、遠慮なく拝見させてもらおうっと。――オッ! 女性従業員用の制服だな、コレは?」
弥勒「エヘヘ。実はね」
弥勒、スケッチブックと鉛筆を脇に置き、風呂敷包みを開く。
修羅「ワァ! もう試しに作ってたのか」
弥勒「だって、すぐに必要になるでしょう?」
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@三途の川、左岸
酒呑「本来やったら、鳥居を潜らなアカンのやけど、緊急事態やさかい、一時的に簡易の抜け穴を開けたんや。ただ、それをするとゴッツイ体力を消耗するんでな。早く閉じる必要から、あんなに急がせたんや。手荒な真似をして済まんかったわ。堪忍してな」
真理「いいえ。そういう事情あったとは、ぜんぜん知りませんでしたから」
酒呑「他に何ぞエエやりかたがあったんかもしれへんけど、思い付かへんかったさかいな。――ほんじゃあ、ワイは退散さしてもらおう。不助にだけは、自分が帰ってくることを言うてへんらしいから、驚かせて、喜ばしたってな。ほな、さいなら」
真理「ありがとうございました」
――再び、常世へやってくることが出来たんだもの。今度こそ、後悔のないようにしなくっちゃ。降りしきる雨になんか、負けていられないわ。




