#037「ホホエミ」
@キッチン
真理「三枚になった、かな?」
不動「疑問符を付けるな。切り口がギザギザだな、オイ」
真理「普段は、切り分けられてトレーに入った物を買うんです。常世にスーパーマーケットがあるかどうか知りませんけどね」
不動「マァ、でも、初心者にしてはマシなほうだな。あと何回か挑戦すれば、コツを掴むだろう」
真理「それって、褒めてるんですか?」
不動「教官として、客観的な評価を下しただけだ。つけ上がるな」
真理「ムッ。(褒めて伸ばされたいって言ってた修羅さんの気持ちが、よーく共感できるわ)」
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不動「一発で割れたな。修羅は強く叩きつけすぎたし、弥勒は指を深く入れすぎたものだ」
真理「わたしも、小さい頃は、上手に割れませんでしたよ。力加減が難しいですからね」
不動「支配人に至っては、失敗した卵の数イコール用意した数で、裏漉しが必要になる始末だからな。一度も成功した例が無い」
真理「アハハ。(調理に用いた卵は、すべてスタッフが美味しくいただきました、というテロップが必要そうね)」
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真理「どうですか、このフックラとした見事な卵焼きは」
不動「火が強すぎて、焦げてるのが気になるところだな」
真理「意地悪な小舅だこと。花嫁をいびらないでもらいたいわ」
不動「いつの間に、結納を済ませたんだか。修業が足りないというのに」
真理「良いから、熱々のうちに食べてみてくださいよ」
不動「ハイハイ。それじゃあ、毒見させてもらおう」
不動、一切れ摘み、口に抛り込む。
真理「(固まっちゃった。味付けに問題があったのかしら?)どうなんですか? 何かコメントをくださいよ。レスポンス、プリーズ」
不動「……なかなか、やるじゃないか。合格だ」
真理「(あくまでも、上から目線なのね。)そうでしょう? 卵焼き作りには、自信があるんです。さぁ、わたしにもっと賞賛の言葉を」
不動「図に乗るな。――こんなことなら、もっと早く教えてれば良かった。そうすれば、もっと扱き使えたのに」
真理「今の発言、褒め言葉として受け取っておきますね。ありがとうございます。フフッ」
不動「俺は、ひとっことも褒めてない。何が可笑しい?」
真理「不動さんが笑った顔を、初めて見たと思いまして」
不動「ナッ。何をヌケヌケと」
真理「怒らない、怒らない。キープ・スマイル」
*
修羅「ウーン。まだ頭の中で、金属音がカンカン鳴り響いてる気がする」
不動「そんな柔な神経してないだろうが」
弥勒「元はといえば、いつまでも布団に包まったまま起きない修羅さんが悪いんですよ」
大日「そうですね。でも、本来の使用方法とは違う用途で使われたお玉とフライパンにとっては、とんだ災難ですね」
真理「本当ですね。――卵焼きの減りが早いですね」
修羅「そりゃあ、真理ちゃんの腕が良いからだよ。フーさんの卵焼きより美味しいとあっては、自然と箸も進むさ」
不動「舌が馬鹿になったのか、修羅。そんなはず、あるまい」
弥勒「不動さんの卵焼きと違って、味付けが甘い気がする」
大日「えぇ。いつもの不動くんの卵焼きは、お塩とお醤油が効いた、しょっぱい味ですものね。川添さんは、調味料に何を使ったんですか?」
真理「お砂糖と味醂です」
修羅「そっか。これは、味醂の甘味なのか。――対抗心を燃やしてないで、素直に実力を認めたらどうなんだい、フーさん?」
不動「フン。魚の筋目も読めない初心者のくせに」
弥勒「ワー。負け惜しみだ。珍しい」
不動「断じて、これは負け惜しみではない」
大日「不動くん。否定を強調すればするほど、負け惜しみだと認めてるも同然になりますよ。――さて。このあとのことですけど、川添さんは、弥勒くんとお還りの準備をしてくださいね。お仕着せは、お直しを元に戻してから洗濯するようにしてください。手間ですけど、二人で分担すれば、すぐ終わると思います」
真理「ハイ。――お願いね、弥勒さん」
弥勒「ハイ。――紳士服の構造と、ランドリーの使いかたをお教えますね」
大日「不動くんと修羅くんは、浴室のお掃除と客室のお片付けをお願いします」
修羅「ハーイ。それじゃあ、オイラが客室で、フーさんが浴室ということで」
不動「目を離すと怠ける奴を、声の届かないところに置くとでも思ってるのか? 俺が男湯と燕の間を担当するから、その間、お前は反対側を担当しろ」
修羅「ヘイヘイ。他人遣いの荒いことで」
――こういう牧歌的で平和な他愛無い会話を交わすのも、今日のお昼までなのかぁ。スッカリ打ち解けてきて、ズルズルと長居したくなる心地良さを感じ始めたところだったんだけどなぁ。




