#035「タクラン」
@ロビーラウンジ
真理「自然界の掟は、残酷で無情ですね」
大日「朝からするような話ではありませんでしたね。ごめんなさい」
真理「いえいえ。大日さんが謝る必要ないですよ。先に質問したのは、わたしのほうですから。――郭公の雛が先に孵化した場合は分かりましたけど、本来の巣の持ち主の雛、頬白や葦切でしたっけ、そっちのほうが先に孵化した場合は、どうなるんですか?」
大日「あと、百舌鳥もお忘れなく。その場合は、押し出すには重すぎますから、二羽一緒に育つようです」
真理「そうですか。タイミングひとつで、生死が決まるんですね」
大日「頬白にしても、葦切にしても、百舌鳥にしても、ただ一方的に預けられるばかりではなく、郭公の卵だと見破って排除する個体もいますし、郭公も郭公で、卵の模様を托卵先に似せる能力を発達させてます。典型的な片利片害共進化ですね」
真理「フーン。托卵された中には、まんまと預けられる一方で、淘汰されてしまった鳥も居たんでしょうね」
大日「そうでしょうね。可哀想ですけど、野生動物の世界と言うのは、そういうシステムの上に成り立っているものです」
真理「そもそも論になりますけど、どうして郭公は、自分で育てないのですか?」
大日「ハッキリとした理由は、完全には解明されていないようですが、体温の変動が少ない種に抱卵してもらったほうが、繁殖に有利になるのではないか、という仮説が有力説とされています。直接、郭公から話を伺うわけにいきませんから、あくまで、推測の域を出ませんけどね」
真理「フフッ。動物や植物と自由に対話できたら、面白いでしょうね」
大日「そうですね。ジョン・ドリトル医師に相談してみては、いかがでしょう?」
真理「鸚鵡のポリネシアから、動物語を学ぶ訳ですね?」
大日「そういうことです。楽しそうでしょう?」
真理「えぇ。でも、フィクションですからねぇ」
――大日さんがドリトル先生だとしたら、不動さんは先生に忠実な番犬のジップ、修羅さんは食欲旺盛な豚でコミックリリーフ役のガブガブ、弥勒さんは手先が器用な白鼠かしら。そうすると、わたしは何だろうか? アヒルのダブダブ? まさかね。
不動「おはよう」
真理「おはようございます、不動さん」
大日「おはようございます、不動くん。今朝は、よく眠れましたか?」
不動「あぁ。目覚めはイマイチだけどな。いつの間にか窓が全開になってたせいで、雀の囀りによる騒々しい朝になった」
真理「そういえば、今朝は賑やかに雀が鳴いてましたね」
大日「都会っ子で、口が悪くありませんでしたか?」
不動「ハッ? 何の話だ?」
真理「チープサイドですね、大日さん?」
大日「その通りです、川添さん」
不動「何の話をしてたんだか。――キッチンに行くぞ、川添」
真理「ハイ。アッ。もしかして、今日の朝食は、わたしが作るんですか?」
大日「そうなんです。お願いしますね」
真理「ハイ、頑張ります」
不動「良い返事だな。俺は料理作りに関しても容赦しないから、気を引き締めて取り組むように」
大日「仕事熱心なのは感心ですけど、ちょっと厳しすぎませんか? 少しくらい、情けをかけてあげれば良いのに」
真理「そうですよ、不動さん。スパルタ過ぎます。情けは人のためならず、ですよ?」
不動「あいにくだが、俺は褒めて伸ばすタイプの指導はしてないんだ。甘っちょろいことが通用するほど、世の中は優しくできてない」
大日「どうやら不動くんは、世間の荒波や風当たりを、自然界並みに捉えてるようですね、川添さん」
真理「そのようですね、大日さん。蹴落とされないように、早く殻を割って出ることにします」
不動「何が何やらサッパリだな。――それじゃあ、ついて来い」




