#034「タンザク」
@キッチン
不動「牛肉のハンバーグが食べたい。豆腐は駄目」
大日「その赤い短冊は、修羅くんのでしょうね。近いうちに、作ってあげてください」
不動「あぁ、そうする。――新しい色鉛筆が欲しい。出来れば二十四色が良いです」
大日「その青い短冊は、弥勒くんのですね、きっと。二十四色が手に入るか分かりませんが、新しい物を用意しましょう」
不動「願い事を書けと言ったが、この分だと、クリスマスと勘違いしてそうだな」
大日「枕元に靴下を吊ってないか、確かめてきてはいかがですか、サンタクロースくん?」
不動「このホテルに、煙突は無い。いや、仮に有ったとしても、それを抜けてプレゼントを贈ることはしない」
大日「そうですか。――黄色の短冊には、何と書いてありますか?」
不動「そそっかしさと方向音痴が直りますように。――これは、川添だな。叶うまで時間がかかりそうな願いだ」
大日「すぐには無理でしょうね。でも、いずれは叶うでしょう」
不動「ということは、紫が支配人の短冊か。ナニナニ。――料理の腕が上がりますように」
大日「いつまでも料理下手では、迷惑を掛け続けてしまいますからね」
不動「頼まれた側は、お手上げだろうけどな」
大日「残った白の短冊は、私が見ますね。――世の中が、いつまでも平和でありますように」
不動「何を書けば良いか分からなかったから、いつも通りだ」
大日「毎度のことながら、スケールが大きすぎませんか?」
不動「結局、叶えるのは自分の意志次第なんだ。大鵬の志だよ。敢闘精神」
大日「ドンと撃ち鳴らして戦うんですね。物騒だこと」
不動「そっちの大砲ではない。夢くらい、大きく持たないと始まらない。卑近で無難に小さくまとまるのは、まだ早すぎるってことだ。分かってるくせに」
大日「言葉遊びですよ。ボキャブラリーを豊富にしなければ」
不動「自分の語彙だけじゃなくて、できれば他人の語彙も増やしてやってくれ。弥勒は、まだマシだが、修羅が酷い」
大日「修羅くんの場合、興味の無いことは覚える先から忘れるので、総量は変わらないと思いますよ?」
不動「アイツは、興味の対象が偏ってるからなぁ。変なことは詳しいくせに、知っておかなきゃならないことは、ちっとも知らないんだから、参ってしまう」
大日「それにしても、誰も恋路を祈らなかったんですね」
不動「(支配人と鬼子の恋が実りますように、とでも書けばよかったな。)そもそも、機織や書の上達を願う行事だろう?」
大日「それは、そうですけどね。(ここに川添さんのことを書く訳にもいかないか。)そんなことを言ったら、クリスマスだって」
不動「まぁ、たしかに、派手に祝うのは、そぐわないな」
大日「そうでしょう? ――話は変わりますけど、明日の朝食のことで、ちょっとお願いがあります」
不動「何だ? 修羅の願いを酌んで、ハンバーグにしようかと思ったが、他に食べたいものでもあるのか?」
大日「できれば、チーズか目玉焼きを乗せてくださいね。――アッ、いえ。そういう話ではなくて、そろそろ川添さんに、厨房の使いかたを教えてあげてほしいんです」
不動「俺が教えるのか? 修羅か弥勒にでも頼めよ」
大日「教えずに済ませようという逃げは、バレバレですよ。不動くんが教えないなら、私が教えます」
不動「謹んで、教えさせていただきます」
大日「それでは、頼みますね。――そろそろ、戻りましょう」
*
@スタッフルーム
大日「修羅くんと弥勒くんは、良い子にして寝てましたか?」
不動「あぁ。グースカ眠ってた。そして、目視可能な範囲には、プレゼント用の靴下は見当たらなかった」
大日「ツリーも暖炉も、ありませんからね」
不動「暖房設備か。スタッフルームには不要だけど、客室には有っても良いかもな。造ってやろうか? 囲炉裏と暖炉」
大日「改築費用が嵩みますね。茨木さんに頼みましょうか」
不動「いや。やっぱり必要ないから、やめておこう」
不動、視線を大日から外し、目を伏せる。
不動「なぁ、支配人?」
大日「何ですか、不動くん」
不動「恐れられ、怖がられ、誰にも近寄られなかった俺に、どうして声を掛けようと思ったんだ?」
大日「ウーン、そうですね。強いて言えば、第六感ですよ。シックスセンス。この子となら、末永く一緒に仲良く出来そうだという勘です」
不動「直感だったのか。論理的な説明が来るかと、身構えたのに。――それにしても、とんでもなく長い付き合いだな、俺たち」
大日「そうですね。ながーい、お付き合いになりますね。どうぞ、これからも、よろしくお願いしますね。おやすみなさい、不動くん」
不動「こちらこそ、よろしく。おやすみ、支配人」




