#032「ササノハ」
@ドレッシングルーム
大日「そんな渋い顔をすることないですよ。不動くんからも、何か言うことがあるでしょう?」
不動「……馬子にも衣装だな」
真理「どういたしまして。(そりゃあ、一枚下では、タオルや紐で肩と腰を補整しまくりですからね。)そちらこそ、よくお似合いですよ。七五三か、成人式で騒ぐ新成人みたいで」
修羅「ヒューヒュー。お熱いですな、お二人さん。――イテッ。扇子は無しでしょう、フーさん。しかも、要のほうで叩くなんてさ」
弥勒「修羅さんが茶化すからですよ」
――エッ? どうして、わたしたちが礼服を試着してるのかって? 駿河夫妻がチェックアウトされる際に、式が終わって用済みになった着物をホテルの物として好きに使ってくださいとの申し出がありましてね。お断りするわけにもいきませんから、ありがたく頂戴したんです。ここまでは良かったんですけどね。
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@フロントエントランス
修羅「せっかくだから、誰か試しに着てみようぜ」
弥勒「白無垢は真理さんとして、羽織袴は誰が着るんですか?」
不動「俺は着ないからな」
大日「まぁまぁ、そう言わずに、公平に阿弥陀籤で決めましょう」
――それで籤に当たったのが、不動さんだったという訳。嫌な予感がしたから、途中で止めれば良かったわ。後悔、先に立たずの良い例よ。
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@ドレッシングルーム
不動「アー、もう気が済んだだろう。俺は、着替えるからな。弥勒!」
弥勒「アッ、ハイ。手伝います」
真理「わたしも着替えます。大日さん、お願いします」
大日「もう脱がれるのですか? まぁ、着慣れない服ですから、落ち着かないという気持ちは解りますけど」
修羅「スピーディーなお色直しだな。目まぐるしい。――まっ、二人なら、そういうのもアリか。それじゃあ、オイラはディナーを作りに行こうっと。終わったら、キッチンに全員集合ってことで。聞こえてる?」
不動「さっさと行け!」
修羅「アイタッ!」
不動「揺れただけで、倒れなかったか。――由良の門を、渡る舟人、かぢをたえ」
修羅「ゆくへも知らぬ、恋の道かな。――オイラは投扇興の的じゃない!」
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@キッチン
真理「半切りから溢れんばかりに、涼やかなお素麺が泳いでますね」
大日「お蚕か、蜘蛛の糸のように、細くしなやかな麺ですね」
修羅「竹を割って流そうかと思ったんだけど、場所も時間も無いのから取り止めにした。――黄緑の麺は、オイラのだから取らないでくれよ」
弥勒「ピンクの麺は、僕のですからね」
不動「誰も取らないって。まったく。何束、茹でたら、こんなにいっぱいになるんだか」
大日「すぐに無くなりますよ。鬼子さんからのお中元なので、今度お会いしたときには、キチンとお礼を述べてくださいね、皆さん」
従業員四人「「「「ハーイ」」」」
――今日は一日、お話を聞いてばかりだったから、あまり食べ過ぎないようにしなくちゃ。
修羅「黒帯の特撰品だから、きっと美味しいぜ。――そうそう。笹を用意してあるから、あとで短冊を書いてくれよ。エベッさんから渡されてるんだ」
弥勒「そういえば、明日は七夕ですね」
不動「そういや、そうだったな。スッカリ忘れてた」
大日「年中行事には疎いですよね、不動くん」
――アラ。こっちでは、旧暦のカレンダーが一般的なのか。思い起こしてみれば、常世に来てから三日ほど経つけど、これまで今日が何日かなんて、ちっとも気にしてなかったわね。それどころじゃなかったからなぁ。
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修羅「アリャ?」
弥勒「どうかしましたか、修羅さん?」
不動「何かやらかしたか、修羅」
大日「勝手に犯人にしてはいけませんよ、不動くん」
真理「西瓜の中に、何かおかしなところでもあったんですか?」
修羅「いや、そういうことじゃない。食べる上では何の問題も無いんだけど、見た目が予想外だったから。マァ、百聞は一見にしかずってことで」
修羅、切り分けた西瓜を調理台に置く。
弥勒「アー、そういうことか」
真理「アラ。一つは、果肉が黄色だったんですね」
不動「俺は、黄色のほうが良い」
大日「赤い西瓜に比べると糖度は落ちますけど、サッパリとして美味しいですよね」
修羅、中央に小瓶を置く。
修羅「ここに塩を置いておくから、かけたいヒトは勝手にかけてくれ」
不動、小瓶を手に取り、手の甲に振りかけ、舐める。
不動「オイ、修羅。これ、砂糖だぞ?」
修羅「エッ! マァ、良いじゃん。甘くなれば」
不動「良くない!」




