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#031「コトホギ」

@スタッフルーム

賀茂「文字通りの鳩胸という訳だ。髪型をテクノカットにしようか。それとも、桃色のニットベストを着ようか」

――アー、また話が逸れちゃった。賀茂さんは、大日さん以上に話が飛躍しやすいタイプだわ。

大日「どちらも似合わないと思いますよ。――お話は、まだ続きがあるのでしょうか?」

賀茂「以上だよ。――それでは、明日の昼過ぎ、お迎えに上がるよ。それまでに、還る支度を済ませるように。良いかね?」

真理「ハイ。準備しておきます。(荷物もそうだけど、心も整理しないといけないわね)」

賀茂「さて。小生は、この辺でお暇させてもらおう」

賀茂、おもむろに立ち上がる。

大日「せっかくですから、汗を流されてはいかがですか? ――川添さん。ご案内して差し上げて」

真理「アッ、ハイ」

真理、慌てて立ち上がる。

賀茂「フム。大変に魅力的なお誘いだが」

賀茂、真理を一瞥。

賀茂「今日のところは、お断りしよう。百貨店で、手品用品の実演を頼まれてることもある。買わせる前に種を見破られぬよう、鍛錬せねば。お湯は、また今度いただくよ」

  *

@大階段

従業員五人「「「「「おめでとうございます」」」」」

留吉「ありがとう。――コレ、千代。祝いの席で泣くんじゃない」

千代「だって、嬉しいじゃありませんか、留吉さん。――皆さん、ありがとうございます」

修羅「それじゃあ、早速、お二人の馴れ初めを伺っちゃいましょう。――イテッ。フーさん、足を踏まないでくれよ」

不動「ズカズカ踏み込んでるのは、お前のほうだ。――失礼いたしました」

留吉「ハハッ。港町の喧騒さに満ちた広島の歓楽街で育った一般庶民のワシが、どうして長崎の山の手にある閑静な住宅街で育った華族令嬢の千代と出逢ったか。不思議に思うでしょうな」

千代「戦火を潜り抜けて小倉で出逢わなければ、あたくしたち、生涯、見ず知らずの他人のままだったわね、留吉さん。フフッ」

弥勒「運命的な出会いだったんですね」

大日「幸か不幸か、何がどう転ぶかは、最後まで分からないものですね」

留吉「いやぁ、まったく。戦禍は知らないほうが幸せじゃが、争乱がなければ千代と出逢わなかったんじゃからな」 

千代「本当。縁は異なもの、味なものですね、留吉さん」

真理「幸せそうで、羨ましい限りです」

留吉「ウーム。良いことばかりでは無かったけどな。長い人生、時にはままならないこともある。確かなもの、正しいものが一つだけあると思い込んでいると、別の確かなもの、正しいものを信じる人と衝突する。何が確かで正しいかを武力と知略で決めるのが戦争。多数決で決めるのが民主主義じゃ。民主主義には、科学的に正しくなかろうと、それが確からしいと信じるヒトが多ければ、それは常識とされ、否定するヒトは異端扱いされるという危険性を孕むが、馬鹿なことを繰り返さないために経験や記憶がある。世代が変わり、直接的な体験をせずに済んだ世代が中心になり、忘れ去られた始めたころが、最も戦争の危険性が高い。そこに窮乏化や大災害が起きると、もっと可能性が高まる。溢れる情報に埋もれて、惨禍が語り継がれなくなることが、ワシには何よりも恐ろしい」

千代「そうですね。本当に、その通りですわ」

――偶然の連続か、それとも運命の必然か、それは、悪戯好きの女神のみが知る領域だ。明日、雨が降るかどうかさえ、一人では判断できない人間風情が、明日、誰かと出逢うということを予測するなんて出来やしない。だから、理想としては、常に突然の事態に備えなければならないのだが、現実には、起こりうるすべてに備えることは出来ない訳で。だから、いつだって何か起きしまってから考えなければならなくなる。まことに、人生とはままならないものである。


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