#027「リョカン」
@ロビーラウンジ
茨木「川岸に、遠くからでも目立つ超高層タワーホテルを建てよう。ほんで、看板には、若旦那のバストショットを使おう。男前やから、活用せな損や。それから、夜にはライトアップしようか」
――いつの間に変身したのか、わたしの目の前に座っている茨木さんは、お年頃の女の子の姿をしている。きっと、修羅さんが言っていたのは、この姿の茨木さんなのだろう。
大日「わたしには、今の規模のホテルでも手一杯ですから」
茨木「そんなん、ナンボでもやりかたがありますやん。あっ、せや。釣り堀を作ろう。ほんで、釣った魚を新鮮なうちに食べられるようにしよう。それから、火消し隊も配備しよう」
真理「大風呂敷ですね」
茨木「ええやん、ええやん。青写真くらい、ドデカくいこうや。醒めて現実的になるんは、見積もりを出してからや。ヨッシャ、決まりやな。ほんなら、サインを貰おうか」
大日「何も決まってませんよ。増築もしませんし、融資も受けません」
茨木「何でぇなぁ。せっかく酒呑兄さんの信頼を置かれてるのに、それを活用しないんは、大いなる機会損失やで?」
――アァ。どこかで同じようなやり取りを見たことがあると思ったら、玄関先で保険のセールスマンに捉まった母親の姿だわ。性別は逆だけど、両者の姿勢は一緒。
茨木「うちの顔を立てると思うて、借りたって。持っとくだけでえぇからさ。使わへんかったら、そのまま返してくれればえぇし。契約期限までは、利息を付けへんから」
大日「悪魔の囁きには乗りませんよ。不要不急の品は、どんなに小額であれ、お預かりいたしません」
茨木「お堅いな、若旦那は。――女中さんからも、何か言うたって」
真理「そうですね。また今度、入用になりましたら、お願いしますので」
茨木「アリャリャ。しっかりしたお嬢さんだこと。――まぁ、この話は一旦、置いとくとしてやな。手代や丁稚が、忙しなく番頭に顎で使われとるようやけど、今日は、このあと何かあるんか? それとはなしに、お祝いムードが漂うてる感じやけど」
大日「挙式をしたいというお客様が居られましてね」
茨木「うちも列席したろうか? 祝儀は出さへんけど、大いに盛り上げたるで。出血、大サービス」
大日「流血沙汰を起こされると困りますので、謹んでお断りします」
茨木「いやいや、そういう意味と違うんやけどなぁ。――ハー。骨折り損の草臥れ儲けやわ。しゃーないから、帰ったろうやないか。ごちそうさん」
三人、立ちあがる。
真理「興味深いお話を、ありがとうございました」
大日「お近くにお越しの際は、いつでもお気軽にお立ち寄りくださいませ」
茨木「心にもないことを、よぉ言うわ。うちを手ぶらで帰らせた借りは、あとで絶対返してもらうからな。覚悟しとき」
茨木、買い物籠を持ち、小走りで退出。
真理「……行っちゃいましたね」
大日「フフッ。近いうちに、また会いますよ。首を洗って、お待ちしましょう。――あっ、弥勒くん」
弥勒「毎回、あの捨て台詞ですね。懲りないヒトだ」
真理「聞いてたんですね」
大日「夕方の準備は、順調ですか?」
弥勒「ハイ。時々、不動さんが修羅さんに発破を掛けつつ、滞りなく進んでます」
真理「わたしも、お手伝いすべきだったのに。ごめんなさいね」
大日「致しかたありませんよ。それに、川添さんは、巻き込まれただけですから」
弥勒「困った低気圧ですね。――お昼は、アラ鍋が出来てますよ。不動さんと作りました」
真理「良いですね、アラ鍋。お肌に良さそう」
大日「スキンケアを気にしなければならないほど、コンディションが悪いとは思えませんけど?」
真理「そういう問題ではありませんよ、大日さん。(真面目なんだけど、たまにズレた発言をするのよね。不動さんとは違う意味で、女心が解ってないわ)」




