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#028「カチマケ」

@キッチン

修羅「もしもフーさんが、女性のお客様から強姦や猥褻の容疑を掛けられたときは、全力で養護するから」

弥勒「そうです。僕も不動さんが、年配のお客様から恐喝や暴行の疑いを持たれたときは、誠心誠意弁明しますから」

修羅・弥勒「「顔で判断してはいけないって」」

不動「お前たちが日頃、俺のことをどういう目で見てるか、よーく解った。コイツは、俺がいただく。絶対に譲らない」

修羅・弥勒「「そんな、殺生な」」

――躁気質の修羅さんと鬱気質の弥勒さんが結託して、二人揃って同じ言動してると、見ているこちらとしては、何だか愉快な気分になります。そう思いませんか? ……エッ? アァ、そうですね。何でこういうことになったか、ご説明しましょう。少し前に遡りますね。

  *

修羅「アー。今なら、(えら)呼吸で泳げそうだ」

不動「それなら、湯船で実証してもらおうか」

大日「お掃除が終わってからにしてくださいね」

弥勒「止めないんですね、支配人さん」

真理「本気ではないからですよ。その気があるなら、とっくに担いでるところでしょう。お皿、お下げしますね」

真理、食べ終わった鍋や食器を片付けて回る。

――文字と同じで、食べかたにも性格が出ると思う。骨格標本のように綺麗に身が外されてるのが、大日さん。小骨が欠けた大雑把な食べかたは、不動さん。少しくらい身が付いていようが気にしない適当な食べかたは、修羅さん。剥がれ損なった鱗まで几帳面に残しているのは、弥勒さん。

修羅、調理台を布巾で拭く。

修羅「万が一、大浴場から戻ってくるのがフーさんだけだったら、すぐに駆けつけてくれよ」

不動「縁起でもないことを言うな」

大日「夕方から営業できなくなりますから、やめてくださいね。――それでは、デザートにしましょう。茨木さんから、ケーキをいただいてますから。いま、冷蔵庫ですか?」

大日、立ち上がる。

弥勒「そうです。アッ、僕が出しますよ」

弥勒、遅れて立ち上がる。

――ここまでは良かったんですけど、箱を開けると、中にはケーキが三つしか無かったんです。そう。ミルフィーユ、ザッハトルテ、ティラミスの三つだけ。まったく、困った問題を持ち込んでくれたものですよね。それから、ちょっとしたスッタモンダがありまして、山の手線ゲームで決着を付けることになりました。お題は、夏が旬の食べ物です。枝豆、西瓜、葡萄(ぶどう)、桃、鮎、(あわび)あたりまではスラスラと出てきますけど、二週目から苦戦を強いられまして、大日さん以外は、青息吐息といった調子でした。審議は合議制とし、大日さんには一度に二つ答えるというハンデが付けられてたんですけどね。

弥勒「メロンは出たし、泥鰌(どじょう)も出たし、エーッと」

不動「弥勒、アウト」

修羅「グヌヌ。他に、何があるって言うのさ?」

大日「野菜なら、明日葉、生木耳(きくらげ)、赤紫蘇、辣韮(らっきょう)。果物なら、(あんず)枇杷(びわ)。魚介なら、(すずき)、鱚、皮剥、海鞘(ほや)が残ってますよ。あと二周は行けたと思います」

真理「もしも参加者全員が、大日さんクラスの博覧強記なら、ですね」

――それで、脱落した修羅さんと弥勒さんが、不動さんから同情を惹こうとして、さっきの言動に出たって訳なの。それじゃあ、時間軸を戻すわね。

  *

大日「どうでしょう、真理さん。ここは一つ大人になって、半分ずつ二人に差し上げませんか?」

真理「そうですね。不動さんのミルフィーユと違って、分け易いケーキですものね。賛成します」

修羅「ヤッター。オイラは、ダイさんのザッハトルテが良い」

弥勒「それなら、僕はティラミスを。――ありがとうございます、真理さん」

不動「何だろう。試合に勝って、勝負に負けた気分がする」


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