#024「イタズラ」
@スタッフルーム
真理「ウーン。背伸びしないで、何か踏み台を使おう」
――グンモーニング、ボーイザンガールズ。わたしは、ただいま着替えの真っ最中。衣装箪笥の扉裏にある鏡で、何とか上半身を確認しようと奮闘しているところ。そのままでは首から下が映らないものだから、何とかならないかと試行錯誤してたところなの。
真理「鏡にしても、棚にしても、それから椅子や机にしても。みんな、長身の大日さんに合わせてあるのよね。椅子に乗っては高すぎるし、背伸びをしただけでは足りないし、何か手頃な厚みのものがあれば良いんだけど。アッ。
――ハイ。勘の良い皆さんなら、ピーンと来ましたね。そうです。わたしの目に留まったのは、重厚長大な『極地典』です。
真理、足下に書物を置き、その上に乗る。
真理「こんな使いかたをしてると知ったら、大日さんは悲しむだろうなぁ。皮肉なことにも、高さが丁度良いから困っちゃうわ。……よし。チェック完了」
真理、書物を机の上に戻す。
*
@フロントエントランス
真理「おはようございます」
不動「おはよう、川添」
大日「おはようございます、川添さん。今日も元気いっぱいですね」
真理「ハイ。内容は忘れましたけど、今朝は良い夢を見られたので、とっても気分が好いんです」
不動「あまり調子に乗らないようにしろよ」
大日「釘を刺すのは結構ですけど、くれぐれも、水を注して、やる気を削がないようにしてくださいね」
不動「努力しよう」
真理「そういえば、ここ二日間、大日さんがお料理をしてる姿を、一度も見たことないことに気付いたんですけど」
不動「アー。気付いちまったか」
真理「支配人としてのお仕事がお忙しいからですか?」
大日「いえ、そうではないんです。ただ。私のお料理は、ちょっとばかり、皆さんのお口に合わないものですから」
不動「ちょっとばかり、では収まらないだろう。目の覚めるようなコバルトブルーのシチュー、歯が欠けるほど硬いハンバーグ、喉が爛れるほど酸っぱいオムレツ」
真理「ワー。大日さんって、お料理が苦手だったんですね」
大日「こればかりは、何故か、一向に上達しないんですよね。お恥ずかしい限りです」
不動「何度教えても、誰が教えても駄目なんだ。それで、限りある食材を、ことごとくダークマターにされないためにも、支配人には包丁を握らせないことにしてるんだ」
真理「誰にだって、得手不得手がありますからね。――あっ、弥勒さん。おはようございます」
弥勒「おはようございます」
不動「おはよう、弥勒」
大日「おはようございます、弥勒くん。修羅くんは、起きてますか?」
弥勒「一度は目を覚ましたんですけど、あと五分したら起きるから、と言って、そのまま鼾を掻いて眠ってます」
真理「まだ、グッスリ寝てるみたいですね」
不動「まったく、しょうがない奴だな。朝食当番だというのに」
大日「仕方ありません。今度は、私が起こしてきますね。なかなかエンジンが温まらないと思いますから、それまで、この近くを散策してきてはいかがでしょう?」
真理「良いんですか?」
不動「あぁ。大して、人手を要することがないからな。軽く、サイクリングでもするか」
弥勒「良いですね。あっ、でも、真理さんの自転車が無い」
大日「私の自転車を使ってください。――自転車には乗れますか、川添さん?」
真理「ハイ、乗れます」
不動「それじゃあ、決まりだな。自転車は、こっちだ」
不動、左手で指し示す。
真理「アラ? 手の甲に何か書いてありませんか?」
弥勒「アッ、本当だ」
大日「フフッ。いつ気付くかと思っていたんですけど、本人より先に気付かれてしまいましたね」
不動「書いた張本人が言うな」




