#023「マヨナカ」
@フロントエントランス
真理「明かりが控えめになった深夜のホテルが、ここまでホラーだとは」
――ハーイ。心の中ではハイテンション。高圧電流ビリビリの川添真理です。エッ? 草木も眠る丑三つ時に、どうして浴衣姿でホテル内をうろついているのかって? 良い質問ですね。グッドクエスチョン。……ハァ。空元気を抜きにして冷静に説明するとですね、その、嫌な夢を見てしまったんです。ハイ。何とも恐ろしい夢でした。正夢にならないことを願いたいところです。アー、もぅ、寝る前にあんなことを考えるんじゃなかったわ。
*
真理『(久々のマイホームだわ。)ただいまー』
真理、玄関を開けようとする右手を、不動に掴まれる。
不動『お前の家は、ここじゃない』
大日、真理の左手を掴む。
大日『あなたの家は、こちらです』
修羅・弥勒、真理の右脚にしがみつく。
修羅・弥勒『『一名様、ごあんなーい』』
不動『無限の彼方、奈落の底へ』
大日『久遠の此方、常世の地へ』
修羅・弥勒『ハナサナイ、ニガサナイ、モドサナイ、カエサナイ』
真理『ヤメテ。タスケテ。イヤー』
*
真理「忘れようとするほど、しっかりと記憶しちゃうんだから、人間の脳って不便なものね。覚えようとしても、抜けていってしまうくせに」
――トラウマものよ。心的外傷ストレスだわ。自宅玄関恐怖症になったら、どう責任を取ってくれるというの。そんな病気があるかどうか知らないけど。
真理「おちおち眠れないから、夢を取り替えてもらおうと考え付いたところまでは、良かったんだけど」
――足下にポツポツと間接照明があるから、転んで怪我するようなことはないんだけど、どこか不気味な雰囲気が漂ってるの。あんな夢を見た直後で、精神的にダメージを負ってるせいかもしれないけど。ヒットポイントも、マジックパワーも、限りなくゲージがゼロに近い状態です。誰か、万能薬をください。あぁ、脚が竦みそう。
真理「わたしってば、ほんの数メートルの移動に、いったい何時間かける気よ? しっかりしなきゃ」
――あと、もう少し。もう、ちょっと。あと、数歩。……ハイ! 辿り着きました。夢違観音像前でございます。仄暗い中、下から最低限の灯りで照らされた、その御姿は、たいそう神々しくも、観るヒトに底知れぬ威圧感を与えるものでございます。胸の高鳴りが止りません。今にも心臓が口から飛び出そうです。動悸がします。息切れもしてきました。そのうち、気つけが必要になるかもしれません。しかし、ここで怖気づいては、部屋を抜け出してきた意味がありません。なけなしの勇気を振り絞りましょう。ブレーブスです。
真理、合掌。
真理「かしこみ、申し上げます。どうか、悪い夢を、良い夢に換えてくださいまし。謹んで、お願いいたします」
――フー。言った。言えた。言い切った。さぁ、部屋に戻ろう。布団に潜ろう。目を瞑ろう。すべて忘れて、寝てしまおう。
夢違『そなたの願い、しかと聴いた。余が、叶えて進ぜよう』
真理「エッ?」
――今、大地を揺るがすようなバリトンボイスが、骨伝導で聴こえたような気がするけど。……ウン。まだ寝惚けてるのね、わたし。そうよ。そうに違いない。幻聴が聴こえるなんて、よっぽど参ってるみたいね。ハハッ。アハハハハ。仏像が真夜中に喋るなんて、そんなことある訳ないじゃない。でも、ここは常世だから、もしかしたら、ひょっとしたら、万が一にも、そういうことが起きちゃうのかしら? イヤイヤ。いくら何でも、それは無いわね。睡眠不足で、よく頭が働いてないのよ。そう。そうよ。そういうことよ。そういうことにしましょう。わたしは、何も聴かなかった。
真理「この続きは、日が昇ってから考えることにしようっと」




