#020「セイソウ」
@キッチン
真理「ポテトサラダ、フライドポテト、じゃがバター、コロッケ、肉じゃが、ポテトチップス、芋餅、ビシソワーズ。芋尽くしですね、デンプンの錬金術師」
不動「お望みなら、金塊に変えてやろう」
大日「耳が驢馬になりますよ、ミダス王」
真理「不動さんの耳は、驢馬の耳」
不動「いつから理髪師になったんだか。――それにしても、相変わらず、凄い力持ちだよな、あの爺さん。五、六貫といえば、結構な重さだぜ?」
大日「そうですね。一匁が三・七五グラムで、一貫は千匁ですから、およそ二十キログラムといったところですね。ちなみに、一斤は百六十匁で」
真理「あっ、そうそう。どんぶり勘定の語源って、わかりますか? 水走さんから出題されたんですけど」
不動「(ちなみに、が始まると夜が明けてしまうものな。)クイズは得意だよな、支配人?」
大日「択一式の問題なら、外さない自信がありますけど、選択肢が無いとなると難しいですよ」
真理「そうですか。大日さんでも、分からないことがあるんですね」
不動「(答えを知ってそうだけど、考えさせたいのかもしれないから、言わないでおいてやろう。)そういえば、修羅と弥勒は、いま何してるんだ? 揚げ物が萎びてしまう」
大日「ご予約の駿河夫妻がお見えになったので、燕の間へご案内するように言ってきました。そのうち来ますよ」
真理「アッ。噂をすれば。――お先に、いただいてます」
修羅「ヨッ、マリちゃん。――いやぁ、大変だった。いただきます!」
不動「手を洗ったんだろうな、二人とも」
弥勒「ちゃんと洗いましたよ。どれもこれも、ジャガイモ料理ですね。よく、これだけの数のメニューを思い付きましたね、不動さん」
大日「お二人とも、ご苦労さまです。――その風呂敷包みは何ですか?」
真理「わたしも気になってるんです。中に何が入ってるんですか?」
修羅「ヘヘッ。食べ終わってから、ゆっくり説明するよ。ナッ、ミーくん」
弥勒「そうですね。話せば長くなりそうなので」
不動「また、好からぬことを企んでるのではあるまいな?」
大日「(どうして、物事を悪いほうに考えてしまうんでしょうねぇ。)不動くん、そちらのポテトサラダとビシソワーズを入れてください」
不動、大日から取り皿と小鉢を受け取る。
真理「好いか悪いかは、聞いてから判断しましょうよ。――わたしにも、ポテトサラダをください」
*
大日「手を合わせてください。尊い命に祈りを捧げ」
従業員五人「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
修羅「アー、満腹満腹。明日の朝あたり、臍から芋の芽が出てくるかもしれない」
弥勒「僕も、お腹いっぱいです」
真理、調理台の上の食器を流しに置く。
真理「あれだけあったのに、全部なくなりましたね」
不動、調理台を布巾で拭く。
不動「吸引力の強い掃除機が、二台もあるからな」
大日「二人は機械じゃありませんし、食べ物をゴミと一緒にしてはいけませんよ、不動くん。――そろそろ、その荷物の説明をしてください」
修羅「オー、そうだった」
弥勒「忘れるところでしたね」
修羅・弥勒、背中の風呂敷包みを下ろし、調理台の上に広げる。
真理「アラ。真っ白で綺麗な着物ね。白無垢かしら?」
不動「こっちは、紋付羽織袴か」
大日「どちらも婚礼用のお召し物ですけど、これをどうすれば良いのですか?」
修羅「あの二人、太平洋戦争が終わったあとすぐに出逢って、とりあえず籍だけ入れて、のちのち落ち着いたら式を挙げようと考えてたらしいんだけどさ」
弥勒「細かい経緯は端折りますけど、何だかんだあって生前には挙式できなかったそうなんです」
真理「なるほど。それじゃあ、ここで改めて式を挙げたいということなんですね?」
不動「たしかに。そういうことなら、ココは、もってこいの場所だな」
大日「わかりました。そうなりますと、ロビーから大階段のあたりを片付けなければいけませんね。水走様は、明日の朝にはお帰りになりますから、そのあと、お昼前までに済ませることにしましょう。良いですね?」
従業員四人「「「「ハーイ」」」」
※どんぶり勘定は、職人の前垂れにあるポケットが語源です。




