#016「ホドコシ」
@スタッフルーム
――ハガキや履歴書を手書きに拘るかどうかは、さておき。文字や言葉選びには、個々のキャラクター性が表れるものだと思う。日誌には記録者の名前が無いけど、水が流れるような美麗な文字で淡々と綴られてるのは、大日さんで、右上がりの角張った文字で簡潔に述べられてるのが、不動さん。それから、事務的に短文を記して終わりにしてるのは、おそらく作文が苦手な修羅さんで、細かい文字でビッシリと埋め尽くしてるのは、弥勒さんなのだろうという推測が、容易に立てられる。
真理「饒舌と無口が、紙の上では逆転してるところが可笑しいわね」
――星占いに恋愛指南。トランプに花札。現世から何かが持ち込まれるたびに、ここでは物議を醸してしまうみたい。モノが増えただけで、これだけの騒ぎになるのだから、ヒトが増えたら、もっと大騒ぎになりそう。なるべく刺激しないように自重しなくっちゃ。奇異の目に晒されて詮索されるのはゴメンだもの。
真理「紙を睨んでたって、白いままよね。筆を執ろうっと」
*
大日「書けましたか?」
真理「はい。でも、出来れば、わたしの居ないところで読んでもらえると助かります」
大日「わかりました。それでは、のちほど拝見しますね」
真理、キョロキョロと見回す。
大日「何か、探し物ですか?」
真理「いえ。整理整頓が行き届いていると思いまして。几帳面ですね、大日さん」
大日「フフッ。片付けてるのは、不動くんですよ。いま、川添さんが使われてる部屋も、私が使ってたときは書物の山で一杯でしたから。あることに没頭すると、行住坐臥に気を配らなくなってしまうところがありまして」
真理「そうなんですね。(案外、細かいところには無頓着なのね)」
大日「えぇ。私には、何でもコレクションしようとする、ちょっと困った蒐集癖がありましてね。貯めるのはお金と知識だけにしてくれ、と言われたことがあります」
真理「へー。そういえば、このホテルのお財布や台所の事情って。あっ、ごめんなさい。失礼な話ですよね?」
大日「いえいえ。待ってましたと申し上げたいくらいですよ」
大日、引き出しから帳簿を取り出す。
大日「左が、お客様からいただいたお布施の目録、右が、業者などへの支払いです」
真理「なるほど。お布施で成り立ってるんですね。アレ?」
大日「何か、おかしな点でもありましたか?」
真理「お布施って、お金だけじゃないんですか?」
大日「良い質問ですね。金銭や衣服、食糧などを提供するだけではなく、法を説いたり、災難に遭ったヒトを慰め、恐れを取り除いたりすることも、お布施の領域に含まれます。他にも、笑顔と丁寧な言葉遣いで、真心込めて相手に尽くすことも、形の無い布施の行いとされています」
真理「フーン。(気になる点がないでもないけど、知の暴走を未然に防ぐためにも、深入りしないでおこう。規格外の記憶力に頼るのは、不眠症になったときに譲ろう。)それで、こちらの業者というのは?」
大日「そちらについては、これから実際に会われるのが手っ取り早いと思います。もうすぐ、川岸に到着されると思いますので、一緒に迎えに行きましょう」
真理「ハイ。(ん? いま、川岸って言ったわよね? 三途の川に、業者が居るってこと?)」




