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#015「シカエシ」

@スタッフルーム

――犯人は、鈍器のような物を使用した疑いが強い。ニュースを聞くたびに、のようなものって何なのよ、と思ってたけど、これで誰かを撲殺したら、間違いなく凶器は鈍器のような物になるわよね。あっ、でも。中の薄い紙で肌を切ると、鋭利な刃物ってことにもなるか。前編が千六十七ページ、後編が千四百三十五ページ。菊判、小活字、四段組み。ギリギリ片手で持てるかな、という程度の厚み。踏み台、漬物石、ダンベル、ドアストッパーとしても活躍しそう。読んでる途中で眠たくなったら、そのまま枕としても使えるわね。

真理「まっ、そんな粗末な扱いはしないけど」

――こんなオカタイ書物を読み込んでしまうなんてね。頭の出来が違うわ。座談会の話題が、論文発表みたいな調子になるのも納得できる。研究しすぎて、拗らせてるところがありそうだけど。天然ボケの原因は、間違いなく大日さんの学者肌にあるわね。のめり込みすぎて、浮世離れして、突拍子も無い言動をしてしまうんでしょう。

真理「あっ。そもそもココは、浮世じゃなかったか。仕様もないことを言って逃避してないで、さっさと日誌を書こう」

♪ノックの音。

真理「ハイ。どうぞ」

修羅、ドアを開けて入室。

修羅「お邪魔しまーす。オッ。早速、書いてるね。アッ、これは忌まわしき『極地典』だな」

真理「この本に、何か恨みでもあるんですか?」

修羅「あるよ。掃除当番のサボタージュして、痴話喧嘩をロビー観戦してたことがあったんだけどさ」

真理「修羅場見物ですか?」

修羅「あっ、修羅だけにね。座布団一枚」

真理「(テレビっ子だったのね。)それで、そのときに不動さんに見つかって、これで殴られたんですか?」

修羅「そうなんだけど、それだけじゃ済まなくてさ。チャキチャキ働かなかったら、これを両足に括り付けて三途の川に投げ込むぞって脅されたんだ。もし、オイラが突然、姿を消したら、急いで水底を(さら)うように申し出てね」

真理「そうなる前に、真面目に働いたらどうなんですか?」

修羅「アタタ。こいつは一本取られた」

真理「もしかして、今もサボタージュ中なんですか?」

修羅「違う、違う。ランチタイムのお知らせだよ。今日はオイラ特製の、ごろごろ夏野菜の修羅カレーさ。具材は、茄子、トマト、玉蜀黍(とうもろこし)、南瓜、ズッキーニだよ。午後からバテないように、しっかり食べてね」

真理「ヘー、美味しそうですね」

  *

@キッチン

――大きな寸胴鍋に、おおよそキャンプ一班分のカレー。何だか、林間学校にでも来た気分だわ。さぁ、みんなでテントを張って、飯盒炊爨だ、ってね。

不動「オイ、修羅。ピーマンとオクラもあったはずだが、どうした?」

修羅「鍋で煮込まれたくないって声が聞こえたから、そのまま冷蔵庫に戻した」

大日「オヤ? 修羅くんには、お野菜の声が聞こえるんですね」

真理「ただの言い訳ですよ、大日さん」

不動「そうだ。川添の言う通りだぞ、修羅。最初から入れなきゃ食べずに済むと思ったら大間違いだということを、たっぷり思い知らせてやろう」

不動、中座する。

弥勒「修羅さん。朝の復讐ですか、これは?」

弥勒、スプーンで茄子を掬い、修羅に見せる。

修羅「ハテ? 何のことかな?」

大日「朝に何があったか知りませんけど、残さず食べてくださいね、弥勒くん」

弥勒「ウッ。ハーイ」

――なるほど。弥勒さんは、お茄子も苦手なんだ。修羅さんは、そのことを承知の上で大量の茄子を鍋に投入したのね。カラッとしてるかと思ったら、案外、根に持つタイプなのね。

不動、修羅の前に山盛りのサラダを置き、席に着く。

修羅「ギッ。これは?」

不動「冷蔵庫のピーマンとオクラから、早く食べて欲しいと嘆く声が聞こえたんでな。手っ取り早く黒酢と削り節で和えたんだ。置き去りにした責任を持って、全部ひとりで平らげろ!」

不動、修羅の背中を平手で叩く。

弥勒「悪いことはできませんね、修羅さん」

修羅「イタタ。そんなに強く叩かれたら、しまいには肋骨が肺に刺さるって」

修羅、背中に手を回し、振り向く。

修羅「この紙、まだ持ってたんだ」

大日「何と書いてあるんですか?」

真理「えーっと。刑務作業、服役中、です」

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