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才能屋  作者: ハル
2章 才能屋との巡り会い
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夕方の席

別れ際、白井が言った。


「宿題は、今日でなくて構いません」


「……はい」


「それと、今度の土曜日に、ご一緒していただきたい場所があります。食事です。12時に、最寄りの駅の改札で」


「……食事、ですか」


「はい。お時間があれば」


「……考えておきます」


それ以上は、何も言えなかった。

一礼して、逃げるように部屋を出る。


ビルを出ると、胸の奥の温かさは、もう薄れていた。


——話を聞いてもらっただけだ。

  契約は、1件も取れていない。何も変わっていない。


駅までの道で、そう思った。

あの部屋にいた時間が、急に遠くなる。

親切な人だった。ただ、それだけのことだ。


夕方、会社に戻った。

フロアに入った瞬間、田嶋課長と目が合う。


「で、契約は」


「……取れませんでした」


「何だと」


声が、フロア中に響いた。

キーボードを打つ音が、ひとつ、またひとつと止まる。


「今日必ず取ると言ったのは、お前だな」


「……はい」


「言ったことも守れない奴に、外は任せられん」


返す言葉が、なかった。


そのとき、田嶋課長の机の上で、スマホが震えた。

画面に目を落とし、一瞬、顔がこわばる。

すぐに伏せて、何事もなかったように、こちらを向いた。


——今の顔は、何だったんだろう。

  考える前に、次の声が飛んできた。


「今後、外回りは、俺が同行するときだけだ。一人では出さん」


「……はい」


「吉田」


呼ばれて、吉田が顔を上げた。


「高峰が折り返しを待ってる先があったな。全部、お前に引き継げ」


「了解です」


吉田は、軽く答えてから、カケルを見た。


「高峰、気にすんなよ。誰だって、こういう日はあるって」


明るい声だった。

フロアの視線が、また集まった気がした。


「席に戻って、電話をかけろ。今日の分が終わるまで、帰るな」

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