同じ場所、同じ扉
木曜の昼過ぎ。
「外回りに行ってきます」と告げると、田嶋課長は、画面から目を上げた。
「また外回りか」
先週は、行き先を聞かれなかった。
同じように席を立っただけだ。報告も、まだ上げていない。
「どこに行くんだ」
「……新規の、見込み先です」
「どこの会社だ。見込みはあるのか」
「まだ、わかりません。今日は、ご挨拶だけで」
「挨拶だけ?」
田嶋課長は、値踏みするような目でカケルを見た。
朝礼のような怒号ではない。低い声が、かえって重かった。
「0件の奴が、挨拶回りか。サボってるんじゃないだろうな」
「違います」
声が、思ったより硬くなった。
「外回りは、数字が出てこそだ。結果を持って帰ってこい」
「……はい」
——疑われている。
胸の奥が、すっと冷えた。
けれど、疑われても仕方がない、とも思った。
本当の行き先を、口にできないのだから。
うそをついたような気がした。
いや、本当は、数字につながるかどうかなんて、分からなかった。
電車を乗り継ぎ、住宅街を歩く。
不安だった。
角を曲がったら、そこにはただの空き地があるのではないか。
そんなことを、本気で考えていた。
けれど、グレーの壁の小さなビルは、先週と同じ場所に建っていた。
窓ガラスのほこりも、先週のままだ。
入口の表札は、光の加減で、見えたり見えなかったりする。
——ある。
それだけで、膝の力が少し抜けた。
インターホンを押すと、足音が近づいてきて、静かに扉が開いた。
「お待ちしておりました、高峰さま」
白いシャツに、黒いベスト。
先週と、まったく同じ姿だった。
廊下には、ほかの部屋の扉がいくつか並んでいた。
どの扉の向こうからも、物音ひとつしない。




