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才能屋  作者: ハル
2章 才能屋との巡り会い
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「才能を、お探しですか?」

水曜の朝、アポリストを開くと、その行は昨日と同じ場所にあった。


消えていなかったことに、少しだけ安心している自分がいた。


リストにある以上、これは仕事の電話だ。

そう自分に言い聞かせないと、指が動かなかった。


それでも、マウスをクリックする。

表示された番号を、電話機に打ち込む。

受話器を手に持つと、指先がわずかに汗ばんでいた。


ワンコール。

ツーコール。

スリーコール——


「……はい、才能屋です。才能を、お探しですか?」


一瞬、息が詰まった。


通話の向こうから聞こえてきたのは、機械のように整った、それでいて人肌のように柔らかい声だった。

感情は見えないのに、不思議と冷たさがなかった。


「……あの、こちら、C-GATEの高峰と申しますが……あの、御社のことを……」


「おつなぎします。どうぞ、そのままお待ちください」


遮られるようにして、保留音が流れる。


クラシックのようで、どこか現代的な旋律。

知らない曲なのに、懐かしい気がした。


ほどなくして、別の声が現れた。


「はじめまして。白井と申します。

ご連絡、ありがとうございます。

高峰さま、"何か"に違和感を覚えていらっしゃる頃ではありませんか?」


心臓が一度、大きく跳ねた。


「えっ……なんで、それを……」


営業トークの型だ、とカケルは思った。

「お悩みはありませんか」と切り出して、相手に「自分のことだ」と思わせる。

自分も、何度も使ってきた手だった。


「"才能屋"とは、そうした"問い"を持つ方の前にだけ、現れる組織です。

この電話は、偶然ではありません」


声の主は、あくまで淡々としていた。

売り込む熱が、どこにもない。


でもその言葉は、まるでこちらの内面を、すでに見透かしているかのようだった。


「もしご希望でしたら、一度お話しする機会を設けさせていただけますか?

15分ほどで構いません」


断る言葉なら、いくつも浮かんだ。

「結構です」「間に合ってるんで」。毎日、自分が言われている言葉だ。


それを自分が口にするのは、気が引けた。

いや、本当は、断りたくなかった。


「……はい」


「それでは、明日、木曜の15時にお待ちしております。

場所は……」


住所を告げられる。

メモを取りながら、なぜか手が震えていた。


通話が終わった。


一体、何が起きたのか、よく分からなかった。


でも、ただ一つ確かなことがある。

何かが動き始めた。

いつもの退屈な日常の中に、かすかだけれど異物のような"風"が吹き込んだ感覚がした。


Excelのリストを閉じて、天井を見上げる。


「……才能屋、ね」


誰にも聞こえないように、小さくつぶやいた。


その言葉の響きが、やけにしっくりきた。

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