第7話 遭遇
早速、俺は眠る事にした。
親友の岸本 龍次郎の顔を思い浮かべる。
平衡感覚が少しある。
これは、親友の夢世界へ入り込めた………のか?
岸本の部屋の中だった。
相変わらず散らかった、マンションの一室。
居ない。
岸本は、夢の中で殺されたのか?
いや、殺される程の恨みはかってない筈。
アイツの友達は、俺と河原の2人くらいだ。
部屋の中は缶ビールが残されたまま。
キッチンには皿が積み重なっていた。
ハエは湧いていない。臭いはしない。
これだけ散らかっていたら、少しは臭いがするはずだが、一切臭わないし、ハエも集らない。
ここは夢だ。
マンションの外側を歩いてみる。
本人の夢なら、この近くに岸本がいるはず。
なのに、
居ない………分からない。
マンションから出て歩道に辿りいた。
数メートルだけ歩いてみる。
道路には一台たりとも車は走っていない。
真昼なのにだ。
もちろん岸本は居なかった。
「うわああああ!」
と、マンションの方から声が聞こえた。
岸本の住んでいるマンション。
玄関あたりか。
男性の裏返った、恐怖に満ちた叫び声。
「………」
銃を右手に生成し、握り締める。
岸本か?
アイツは俺の親友だ。
小学生の頃から、ずっと友達だ。
河原よりも長い間、
友達でいる。
俺の足はマンションの玄関へ向かっていた。
玄関外には、岸本がパジャマ姿で裸足で立ち尽くしていた。
その視線の先には、駐車場がある。
ちぎれた様な肉体が駐車場に散らばって、黒い液体でまみれていた。
「ぐへへへへ……」
駐車場の中央に、小太りの男が立っていた。
坊主頭。
汗で光る頭皮。
安っぽい祭り用の法被を羽織っている。
片手には紙カップ。
中にはポップコーンが山ほど入っていた。
男はそれを一粒ずつ口に放り込みながら、
目の前に散らばった肉片をまるで映画でも観ているかのように眺めていた。
口元はだらしなく歪み、
油で光る唇の隙間から黄色い歯が覗く。
「ぐへへへ……いいねぇ……」
笑うたびに腹が揺れ、
ポップコーンがカップの縁からこぼれ落ちる。
その目だけが異様だった。
細く吊り上がり、
まるで獲物を見つけた獣のように濁っている。
「助けてくれ!!!」
岸本は俺の存在に気付き、叫んだ。
「ふふーん、コイツを殺しに来たの〜ん?ぐへへへへ!!!」
「何者だ!!!殺し屋か?」
「オイラは有名な狂人だぞぐへへ………平均世界ではなぐへへ」
「おい、お前は何が目的だ」
俺は銃口を構える。
「オイラのコト知らないんだぐへへ………じゃあ新参者か?若い芽は摘む性分なんだよ。ぐへへ………」
「何を言っている!!ふざけてるのか。」
男はポケットから板を持ち出し、そのまま口に咥えた。ボリボリと音がし、男は飲み込む。
ポケットにしまい、大きなゲップをした。
ぐへへといいながらも、男は俺に迫り来る。
その小太りだとは思えないほどのスピードだった。
男の指が、俺の頬を引っ掻いた。
痛みはない。
だが頬にべタつく感触が残る。
手で拭うと、茶色い液体が指に付いた。
......チョコ?
「なんだ。その能力は!?」
だが、立ち止まる余地は無かった。
男はもう一度の顔を引っ掻く、彼は俺にこのチョコのようなものを塗りたくって窒息死させるつもりではないか?
そう仮定するならば、すべきことは逃げること。
近距離型であれば、逃げるのが得策。
逃げながら後ろを見る。
走りながらも、疲れたのだろうか、彼の追いかける速度は次第に遅くなった。
そして、急に立ち止まった。
「ぐへへ……グヘヘグヘヘぐへへへへ………」
「何がおかしい!!」
「引っかかったな!本命はコッチだよーん笑」
男は駐車場の方へ物凄いスピードで戻りだした。
体力は、残っていたようだ。
そういうことか。
理解した。
俺を追いかけて戦うのはブラフだった。
追いかけるのではなく、逃げさせて追い払うためだったのだ。
追い払うことで、岸本を殺すことを再開できるからだ。
どうする?
何か策があるはずだ。
夢世界だ。工夫さえすれば。
銃を撃ってみる。
だが、男は関係なく走り続ける。
体が液体化している場合、銃弾は肉体を破壊できないのか?理解できないが、とにかく銃は使えない。
そうだ。
俺にも出来るかもしれないことがある。
前、夢で殺されかけたとき、あの迷彩柄の男が腕を硬化できていた。
それが夢世界のルールであれば、俺にも出来るかもしれない。
走りながら、右腕に力を入れる。
すると、腕が破裂し、黒い液体が流れる。
筋肉と、白い骨が見える。
黒い液体は白い骨と筋肉を覆うようにモヤになった。
そして黒い液体は固まり、次第に俺の右腕は黒くなった。
爪は尖り、腕全体が硬化した。
「ぐへへ………それでも追いつけないでしょぐへへ……」
「どうかな」
彼の足は速いとはいえ、俺の方が足は速かった。
「えっ!?」
「これでも、元殺し屋なんだよ」
彼の振り向きざま、左肩から右足までに爪で引っ掻いた。
男は走る足を止め、転んだ。
そして、液体となって歩道に溶けた。
「………ぐへへ」
「どうした?命乞いなら聞いてやるぞ」
「………馬鹿だなぁ、想定内だよ」
「………なんだ、これは!!??」
液体が重力に反するように宙に浮き、ある1点を中心に集まる。そして、人の形となり、元の姿に戻った。
「これがオイラの能力だよぐへへ………」
俺は両手に銃を生成し、同時に2発撃った。
それを5回ほど、連続で撃つ。
「どうだ………流石に効いただろう」
「ぐへへ………ありがとう」
男は死ぬことはなかった。倒れることもなかった。
痛むどころか、むしろ満面の笑みを浮かべている。
体全体が銀色に鈍く光った。
いやーーー体全体が金属へ変化した。
「嘘だろ………何が起きている?」
「食べたものの性質を受け継ぐんだよ………ぐへへ」
男は、板チョコをもう一度食べる。
といい、かじる。
「………まさか。」
「オイラは最強なんだ。鉄のような硬さに、液体のような柔軟さ。しかもね、板チョコ………」
右腕の先が変形し、剣の形となった。
パキパキという音がし、剣が折れるように腕から外れた。
地面に落ちる。
右腕の欠けた部分は、液体のようにうごめき再生する。
男は落ちた剣を拾った。
「なんだその能力………気持ちわりぃ!!」
「理解したかい?降参するべきはどっちかい?……ぐへへ」




