第6話 夢
病院の廊下は、夜でも白く明るかった。
蛍光灯の光が床に反射し、やけに静かだ。
受付で名前を告げると、すぐに医師が出てきた。白衣の男は疲れた顔でカルテを閉じ、俺を見た。
「あなたがご友人の……」
「はい」
短く答えると、医者は一度だけうなずいた。
「現在、意識は戻っていません。交通事故による強い衝撃で、脳にかなりのダメージを受けている可能性があります」
言葉が、ゆっくりと胸に落ちてくる。
「……可能性、ですか」
「詳しい検査はこれからです。ただ、状態はかなり厳しい」
医者は少し言葉を選び、続けた。
「脳死に近い状態である可能性も、否定はできません」
その瞬間、胸の奥がぎりっと軋んだ。
ふざけるな。
まだ生きているはずだ。
あいつが、こんなところで終わるわけがない。
俺は一つ、どうしても聞きたいことを口にした。
「……夢は」
医者が眉をひそめる。
「夢、ですか?」
「昏睡状態でも……夢を見ることはあるんですか」
一瞬、医者は不思議そうな顔をした。
だが、すぐに真面目な表情に戻る。
「正確には分かっていません」
カルテを軽く指で叩きながら、続けた。
「昏睡状態の患者が、後に“夢のような体験”を語るケースはあります。ただし、医学的に夢かどうかは判断できません」
そして少しだけ肩をすくめる。
「現時点ではまだ分かりません。ただ——」
医者は静かに言った。
「夢を見ている可能性も、否定はできません」
それを聞いた瞬間、俺は踵を返していた。
「え?」
医者の声が後ろから聞こえる。
だが止まらない。
走る。
廊下を。
階段を。
病院の自動ドアを。
外の夜風が顔に当たる。
夢を見ているかもしれない。
ならーー
急がなければならない。
俺は家へ向かって走り出した。
夢を見るために。




