第1話 寝るだけで五万円
「パートでいいです。」
「君、ホントに言ってる?」
思ってたのと違った。
コンビニの裏の倉庫。
俺の目の前には店長が座って履歴書に目を通していた。
「ずっと引きこもってたの?」
俺はただ「はい」
と、答えた。
「それに、腰も痛いんだよね?体力もないし、学歴もないんだよね?正直ね、君みたいな条件は求めてない。」
「………はい」
「単刀直入にこの場で言わせてもらうね。」
「はい。なんでしょうか」
「不採用」
「因みに、なんで職歴ないの?犯罪でもやってた訳?」
「………」
「え、」
「いえ、ただの引きこもりです」
「ホント?ま、いいけど頑張ってね。」
夜の空気は心做しか不味い気がした。
自分に労働は向いてないのか………?
俺は、拳をグッと握りしめた。
―――
アパートの一室のドアを開ける。
目線の先には、散らかった書類の山。
その隙間に、押し込まれるように敷布団が敷かれている。
玄関で靴を脱ぎ、立ち止まって投函されていた書類に目を向ける。
「督促状か。」
手に持つ封筒には、目立つように最終督促と書いてあった。
「そういえば」と言えるものではないが、半年も家賃を滞納していた。
どうにか滞納期間を伸ばして貰えないか、ダメ元で家主に電話をかけて見る。
『いや、これ以上は待てませんよ』
「そうですよね……」
そりゃそうだ、家賃を払ってないのは俺だ。
言い返す余地など無い。
『とりあえず、3日以内に5万円入れてください』
釘を刺すように言われた。
さすがに家主も、お金を払って貰わないと困るんだなとか他人事のように思いながら何も考えず「はい。必ず」と即答してしまった。
無理だ。
俺は無職だし、3箇所くらいバイト応募したが、全部採用なし。今から稼ぐなんてことは到底無理筋だ。
これもまたダメ元でスマホで調べてみる。
高時給_バイト
一日5万円_仕事
数万円_仕事
「うーん」
どれも単発バイトだとしても万単位は無かった。
また、調べても高額バイトは闇バイトだから止めろというサイトばかりだ。
3日以内に5万円用意しなくちゃならない。
何せ俺は今の所持金が5000円なんだ。
貧困だよ貧困。
「高時給_仕事」
ひたすらスクロールしてみる。
途中で俺は指を止めた。
寝るだけで5万円。
そんな文字が画面に表示された。
サイトを開いてみる。
「暗い日曜日」
というサイトだった。
「怪しいな。人体実験じゃないのか?」
サイトの中央にはデカデカと「暗い日曜」と文字がある。
但し書きのように小さく
「資格なしでも即日稼げる。依頼交渉等はサイト内のリンクからお願いします。スキームにつ……」
と書いてある。
「………何だこれ。」
依頼交渉用のリンクを踏むと、顔写真がズラっと並んでいた。性別、名前、年齢、など個人情報が書かれている。
2、3回スクロールしても下まで行かず、軽く見積っても20人くらいの顔写真がある。
なぜか分からないが、直感が働いた。
このリンク先は普通のネットじゃない。これは人には言えない前提のサイトだ。
詐欺で5万円貰えるっていう嘘では無い。
詐欺の匂いはしない。
少なくとも、ただの広告ではなさそうだった。
俺は適当に1人の男性をクリックした。
ーーー
サイトには、夢に侵入する方法が書かれていた。
まず、眠りに落ちる直前の意識を保つこと。
その状態で夢に入ると、どこかに階段のようなものが現れるらしい。
その階段を上っていくと、やがて一つの扉に辿り着く。
扉を開く前に、侵入したい相手の顔や名前を強く思い浮かべる。
そして扉を開く。
すると、その先が目的の人物の夢になっている――らしい。
但し書きにはこう書かれていた。
「対象のイメージが不十分な場合、別の夢に接続される可能性があります」
俺はスマホの画面を見つめたまま、小さく呟いた。
「何だこれ。」
ーーー
相当調べてたのだろう。気づけば11時59分になっていた。
「……やってみる価値はある」
俺はスマホを置き、布団に横になった。
寝るだけで五万円。
そんな仕事が、本当にあるなら――。




