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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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告白

 グレインフォールへ戻ってみれば、魔獣の姿は思っていたよりまばらだった。

 街道をうろつく群れはまだ残っていたが、それも順次討伐されているようで、そのために冒険者たちがグレインフォール周辺を散策している。

 それでも魔獣が皆無になったわけじゃない。だから警戒をする必要はあったけど、余裕を持って街へ戻ることができたのは確かだ。


 ――なんとか帰って来た。


 街の門が見えた瞬間、思わずため息が出る。

 出撃拠点として整備されていた木の壁や柵はすでに撤去されている。

 少し門を開けて出入りするくらいの余裕があるということだろう。


「おおっ! クラウス殿の御戻りだ!」


 そんな歓声とともに、門の中へと入る。

 色々と話をすることになるか? と思いきや、すぐさまギルドに行けと言われる。

 スタンピード対策の作戦室になっているのはギルドだからな。まずは報告ってことだろう。


 ここからの出番は主にクラウスで、俺たちは簡易報告だけで済んだ。スタンピードそのものは解決に向かっていると判断されて、それなら緊急性が薄いということらしい。

 まあ、国家転覆の計画は現在進行形で起こっているのだろうが……それはクラウスの領分であって、冒険者が首を突っ込むことではない。

 ということで、休憩として一日与えられたが、その日は皆何もすることなく、泥のように眠った。

 

 そして翌日。ここからが本格的な報告だ。

 ギルドでは森での出来事を根掘り葉掘り聞かれることになる。森に入ってからどうだったとか、バーゲストと呼ばれた魔獣についてだとか、あとは魔人を自称する男だったりだとかだ。

 魔人との戦いの経緯については、後でクラウスにも渡す必要があって、皆で書面にまとめた。

 

 俺の使った精神操作や心を繋げる力について書くことはできないし、敵の力を過小評価されても困る。

 かといって嘘もつかない範囲で理屈をでっちあげるのは少々手間だが、ここだけは妥協できなかった。朝から皆で話し合って、なんとか時間までに仕上げた。

 内容は魔人の戦闘スタイルと、防護膜についてが主だ。特に防護膜は攻撃を続ければ突破は可能――という形で、嘘はついていない。ただしマインドブロウなしで仕留められるかは微妙なところだが……それは仕方ない。


 ギルドでの話し合いは長く続き、終わったころには夕日が視界に入る。

 あまりにもクタクタだけど、これで解放されて一息付けた。

 だけど、それで終わりじゃない。むしろここからが本番だ。


 三羽雀亭へ戻ってきて、食事をとって皆で部屋に入る。今日ばかりはトビーも一緒だ。

 今から俺という人間についての――告白をしなければならない。


 森の中で心を繋いだ、あの瞬間に、仲間たちは俺の内側に触れている。

 何をどこまで感じ取ったかは分からない。でも、俺と言う存在については、『何かがある』とは全員が気づいている。

 このまま曖昧にして先へ進むのは、もう無理だった。


 夕日が沈み、ランプの穏やかな光が部屋を照らす中――俺は話を切り出した。


「私は……いや、違うな。俺についての真実を、聞いてほしい」


 皆が、静かにこっちを見た。

 

「俺はリーネ・リンデベルクじゃない。その中身はまた別の人間だ。こんなこと言われても困るとは思うけど……真実だと思って聞いてほしい」


 この喉から出る声は高くて、澄んでいて、どこまでも女の子の声だ。でも、その中身はまるで違う。

 今から――俺と言う人間について、全部をさらけ出す。

 思い出せる限り、できるだけ順を追って話しだした。


 日本という国にいたこと。

 元は男だったこと。

 なのに気づけばリーネになっていたこと。

 それは魂交換という秘術が原因らしいこと。

 魂交換について全てを知っているのは本物のリーネだけであり、俺は詳細を知らないこと。

 だからもう、リーネとして生きるしかないと決めたこと。


 さすがに異世界だなんて言葉は使わなかった。そんな概念がこの世界にあるとも思えないからだ。

 でも、それでも十分に意味不明な話だろうな。

 普通に考えて、こんなこと言って信じてくれる人間なんているわけない。


 ――そして、精神操作のことも隠さずに話す。


「俺は自分や他人の心に干渉できる魔法を使えるんだ。やったことはないけど、好きなように操ることも……おそらくできる」

「……」

「本物のリーネがどこまでできたかは知らない。でも、その力のせいで心を壊した。禁忌の力だからってな」


 部屋の空気が重くなるのが分かる。

 

 リゼの表情は変わらないが、「操る」と声に出したときに一瞬目を見開いたのを見た。

 ハルトが腕を組み直し、エステルの指が、自分の膝の上で小さく動いている。

 ナギは訳が分からないと言ったような、半信半疑。トビーは妙に納得したような、そんな顔だ。

 

 皆が皆それぞれの感想を抱いているようだが、それがどうなってしまうのか……でも、ここで止めるわけにはいかない。


「禁忌ではあるけど、正しく使えばすごく強い武器になる。皆に勇気を出させるとか、あの魔人と戦った時みたいに、心を繋げたり……ああいうのは、その応用だ」


 そこで一度、沈黙が落ちた。

 長い沈黙……誰もが言葉を出しかねているようだった。

 そんな中で、最初に口を開いたのはリゼだった。


「――通りで、あれだけ厳しい訓練にも折れずについて来られるはずです」

「屋敷にいた頃の話だな? 当然、自分を操作していたよ。リゼのしごきはかなりきついからね」


 俺は苦笑いしながらそう返した。

 リゼの声に責める色がなかったからというのもある。むしろ、納得したという響きだ。


「まあ、それだけじゃなくて、できるだけ精神操作に依存しないように心がけてはいたけどな。魔力が切れた瞬間に腑抜けになるなんて、副作用のほうが強すぎる」

「……そんな力があれば、頼り切りになっても不思議ではない。しかし、リーネがそれを自覚して制御していたなら立派です」


 リゼに褒められる。

 だが、今はそういう観点からの話をするべきじゃない。


「それで、他に聞きたいことがあるなら話すよ。好きに聞いてくれ」


 そう言うと、皆から色々と質問をされる。

 なんか気遣いような、そんな感じがする。こちらが言い辛いというようなことを察しているのか?

 それでも問いが止まることはない。できるだけ、真摯に応えていく。


 全員が一通り質問を終わらせ、再度の沈黙。

 次に何を言えばいいのか……そんな空気。

 それを打ち破ったのはハルトだった。


「――でも、あの魔人とかいう奴に勝てたんなら、いいんじゃね?」

「言いたいことはわかるけど、兄さんは気楽すぎるのよ」


 楽観的なハルトに対して、エステルが口を挟む。


「私たちだって操られてるのかもしれないのよ?」

「なるべくそういうことはしない方針だよ」


 そう返すが、エステルの疑いのまなざしは当然その程度で解けることがない。

 ここは丁寧に返しても無駄だろう。だから、俺はぶっちゃけた。


「もし俺が本気でエステルを操ってるなら、エステルはとっくに俺の女だよ。お遊びとはいえ俺に口説かれたでしょ?」

「……っ、それは、確かにそうだけどさぁ……」


 エステルの頬がわずかに赤くなる。デートした時のことを思い出しているのかもな。

 それに、難しい顔は崩さないが、それ以上質問もないということは、しぶしぶながら納得したようだ。

 今度はトビーが手を挙げる。


「じゃあさ、オレを引き入れるのにおっぱい揉ませたのは、精神操作を使いたくなかったから?」

「そういうこと」

「なるほどなぁ……中身が男なら、女じゃできないこともできるってことか」


 妙に感心して納得しているようだが、これでも女という意識はあるんだが?

 ……まあいい。その程度でスルーしてくれるなら、話が早くて助かると思っておこう。

 さらにはおっぱいを揉む発言のせいで、女性陣の視線が痛い。アンタそんなことまでしているの? って感じだ。


 でも、それによって重苦しかった空気が少し緩んだのが分かる。

 だからなのか、さらなる本音のぶつけ合いがリゼからも来た。


「リーネと二人きりだった時、妙に気分の昂りがあったのは、その力では?」

「……そこも認めるよ」


 ここは問われたら痛いところだが、逆に余裕を持って返す。

 隠し通すと決めたならともかく、ここまで話しておいて今さらこの一つだけ嘘をつく意味がない。


「精神操作は自分に害を与えてくる奴には積極的に使うつもりでいた。だからリゼには使った」

「……害? 私がですか?」

「どう考えても俺を狙っていたからね。グレインフォールに来てから、最初は一緒に寝ていただろ? その時に妙に俺の身体を触って来たじゃないか。その程度で悪人判定は言い過ぎだけど、性的なことに限定するなら少しくらいならいいかなって。あとはリゼとなら歓迎だったてのもある。そこで、理性を薄めるくらいの感じで掛けてたら――襲われた」


 皆の視線が、今度はリゼに集まる。

 リゼは一瞬だけ目を閉じた。

 だがそれも一瞬だけ。すぐに開き直ったように、背筋を伸ばして言った。


「リーネのようなひたむきに頑張る少女を手籠めにしたいと思って、何がいけないのですか?」

「……マジ?」

「引くわよ、それは……」

「……ちょっと怖い」

「リゼもお堅いふりして、煩悩の塊だったんだな」


 皆のそんな感想を受けても、リゼは涼しい顔をしている。

 俺が言えることじゃないが、開き直った人間は強いな……。

 だけど、空気が明らかに軽くなった。なら、ここいらで本題に入るのもいいだろう。


「で、一番大切なことが残っているわけだけど」


 そう言うと、皆が俺を見る。

 ここが……一番怖い。魔人の前に立った時よりも、ある意味では怖い。

 あの時は死ぬかもしれないと思ったけど、今は失うかもしれないと思っているからだ。


「このまま俺たちは一緒にやっていくか? 俺の力が怖いなら、パーティーを解消しても構わない。ただ、その場合は……黙っていてくれると嬉しい」


 勇気のいる言葉だった。

 でも、もう聞くしかない。聞かなければ、ずっとこのまま嘘の上に立っていることになる。

 この問いに最初に答えたのは、またリゼだった。


「本気で隠蔽したいのなら、私たちを操作すればいい」

「……」

「あの魔人にしたように、負の感情を叩きつけて心を弱らせ、それから支配すれば済む話です。ですが、そうしないで、こうして話をしている。少なくとも、私たちを人形のように操ってはいない」

 

 そこで、リゼはふっと微笑んだ。

 

「私はこのままリーネとともにいます。むしろ遠慮がなくなりました。これからも、その身体を存分に楽しませてください」

「……その程度ならお安い御用だよ。まだ遠慮していることがあるんだろ? 全部受け入れるさ」


 リゼが煩悩の塊で助かったぜ……。

 何をされるか分かったもんじゃないけど、身体を壊されることはないだろう……多分。


「中身が男だってんなら、むしろもっと付き合いやすいぜ。今後もよろしくな!」

「うん。よろしくな」


 トビーが拳をこっちへ突き出してくる。

 迷わず、こっちも拳を合わせた。

 

「俺もだな」


 そう言ったのはハルトだった。


「もう俺は『鍛鉄の剣鉈』以外には考えられないよ。だから一緒にやっていこうぜ。精神操作だって、良いことに使えばいいだけさ」

「そう言ってくれて助かる。俺もハルトがいない『鍛鉄の剣鉈』は考えられない」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」

 

 トビーとしたように、ハルトとも拳を突き合わせる。

 こうして男のノリで振る舞えるのは、この告白に意味があった証だ。

 次はエステルが口を開く。


「パーティーを離れたくないってのは、兄さんと一緒の意見ね。それに心が男なら、私を口説くのも理解できるわ」

「エステルは可愛いからな。好みの女の子を落としたいって思うのは、男の本能じゃないか?」

「……ふーん? ま、それもいいかな。もし本気で私を口説き落とせるなら、落としてみなさい。それはそれで楽しそうだからね」


 挑発するみたいに片目を瞑るエステル。

 そんな軽いノリで許してくるのは、俺にとっては言葉にできないほどに、有難いことだった。

 最後にナギが言う。


「……私は最近加入したばかりだから、何とも言えない。でも、このまま一緒にやっていきたいよ。リーネさん……私のこと、励ましてくれたから」


 その声は静かだったけど、確かな感情を感じられた。

 ナギも俺を認めてくれている。それは俺と言う存在を肯定していてくれるようで、何とも言えない嬉しさがこみ上げてくる。


 ――皆の意思の、確認は済んだ。


 たぶん俺が、本当に好き勝手に心をいじり回していたなら、こんな答えは返ってこなかっただろう。

 最後まで人形みたいに操り続けるしかなかったはずだ。

 いや、そもそも魔人を相手に戦うことができたか? ……おそらく無理だ。心を繋ぐことができたのは、確かな信頼があったからだ。


 胸の奥がじんわり熱くなる。鼻の奥がつんとする。泣きそうだ……。

 でも、この涙は決して恥じゃない。

 嬉しい時に出る涙は、むしろ積極的に受け入れるべきだ。


 俺は皆を見渡して、笑った。

 リーネの顔だけど、でも――俺の笑い方で。


「皆! これからも、よろしくな!」

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