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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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森の中へ

 森へ入ると決まっても、すぐに出発とはならなかった。

 準備に時間がかかることもあるし、もしかしたら魔獣の勢いがこのまま鈍るかもしれない、という薄い期待もあったからだ。

 だが、その期待はあっさり潰える。森から出てくる魔獣はむしろ増え、ついにはグレイマウルまでグレインフォールの周囲をうろつき始めた。


 こうなると、間引きの効率は露骨に落ちる。グリムパップだけならまだいいが、そこへブルタスクとグレイマウルまで混じれば、守りながら数を減らすなんて不可能に近い。

 だからこそ、森の中で元凶を探る案は消えなかった。


 二日をかけて整えたのは、長期探索のための準備だ。食料、水、道具を増やし、木を登ってその上で休む訓練までやる。

 特にトビーの役割は重い。荷を背負うだけじゃなく、木に杭を打ち、即席の足場や手すりを作る役まで担うことになった。

 荷役士のくせに、半分工兵みたいなことまでやらされている。


 陣形も探索用に組み直された。

 先頭はクラウス。左右に俺とハルト。殿がリゼ。ナギは斥候。エステルとトビーを守り切るための陣形に作り替えられた。

 リゼが殿に回ることで低下する攻撃力はクラウスが補う。実質的に俺達はクラウスという最強戦力のサポート役にすぎない。


 そうして準備を済ませて、今は外壁に作られた簡易拠点で待機している。

 魔獣をおびき出す陽動作戦が行われて、誘引された薄くなった魔獣の中を突っ切るためだ。

 そんな出撃を待つ中――城壁の上から声が降ってきた。


「魔獣の数が減っています! 森へ向かうなら今です!」

 

 それを聞いたクラウスが、立ち上がる。


「……出発するぞ。だらだら動いて、陽動をかけている者たちの負担を重くしたくはない」


 今から死地になるかもしれない森の中に向かうにしては、短いセリフだ。

 けれど、それだけで十分――冒険者に、長ったらしい訓示は不要ってもんさ。

 俺たちも荷を負い、武器を確かめ、後に続く。


「行くぞ」


 その一言で、簡易拠点から森へ向けて歩き出した。

 街の外縁にいる魔獣は、やっぱりグリムパップが多い。ブルタスクが少し混じる程度で、グレイマウルは見当たらない。

 城門の側で陽動をかけてくれているだけあって、魔獣の姿もまばら。今の俺たちなら、油断さえしなければ問題なく捌ける相手だ。


 ハルトが槍で牽制し、飛び込んできたグリムパップの肩口へ俺が剣を入れ、体勢を崩したところをリゼが横から断つ。

 ナギは遊撃として自由に動き回り、動きの悪い個体へと短剣を差し込んでいく。

 エステルの支援術が切れ目なく身体を軽くし、トビーは荷を揺らしながらも足を止めない。


 クラウスに至っては、無人の荒野を歩むが如く、この街に来た時とやっていることはそう変わらない。

 普段は魔獣の出ない平地とはいえ、ここまでは、いつもの延長と言えた。

 だが、森へ踏み込んだ途端、それが変わる。


「……静かだな」


 ハルトが小声で言った。

 本当に、その通りだ。拍子抜けするくらいに静かで……不気味なくらい。というか、不気味と断言してもいい。

 外にはあれだけ魔獣が溢れていたのに、森の中では気配が薄い。葉が擦れる音と、自分たちの足音ばかりが、妙にはっきり耳へ届く。


「ついに在庫切れかな」


 冗談半分で言うと、クラウスが前を向いたまま言葉を返す。


「気を抜く理由にはならん。だが、可能性そのものは否定できん」

「あれだけ出てきてたんだし、尽きることもあるってことですか?」

「魔獣も無尽蔵ではない。生き物であることに変わりはないからな」


 そりゃそうだ。

 しかし……だからと言って安心する気にはなれなかった。あまりに静かすぎるから、どうしても嫌な予感が頭に浮かぶ。

 これがストラテジーゲームであるならいいさ。森の中の戦力を全て使ってしまって守りがいない――というようなことも考えられるからな。

 でも、ここは現実だ。そんなことが起きるはずはないし、もし本当に起きているのなら何かが魔獣を操っていないと辻褄が合わなくなる。


「……嫌な感じ」


 エステルがぽつりと漏らす。


「同感だな」

「……うん」


 ハルトとナギも小さく頷いた。

 そんな中でトビーだけは楽観的だった。


「魔獣がいないなら、それに越したことはないだろ。初日はそこまで本気で進むつもりもないんだし」

「……その肝の据わり方、少し分けてほしいくらいだね」

「リーネ姉ちゃんは戦いになれば肝っ玉座っているだろ? その気持ちを思い出せよ」


 そりゃ、精神操作を使っているから勇気を出せるだけだ。

 いつ戦いになるかもしれないのに、こんなところで無駄な魔力なんて使ってられっか!

 だから素の俺のままなわけだが、トビーにはそれが不思議に映るらしいな。


「私語は慎め……まだ魔獣が出ないと決まったわけではない」

 

 クラウスが場を締めるように言った。


「歩みが早いのはどんな理由があろうとも利であるのは確か。このまま深部の手前まで行ければ十分すぎる」


 それでまた無言になり、俺たちは森の中を進んでいく。

 結局、魔獣と遭遇しないまま、目的地付近にたどり着いてしまう。


「あと少しで深部になりますが、どうしますか?」


 そう聞くと、クラウスは一本の大木を見上げた。


「……この木はどうだ?」

「良いかもしれません。トビー、どう?」

「おうよ。これなら楽に作れるぜ」


 待ってましたと言わんばかりに、トビーが荷を降ろし、道具を取り出した。

 最初は太い鉄杭を大槌で幹へ打ち込み、足場になる段を作る。高くなると大槌は邪魔になるから、今度は手持ちのハンマーに持ち替えて上へ伸ばす。

 横へ突き出した杭が梯子みたいに並んでいき、枝が広がった場所まで道が繋がった。


 そこまでいけば皆でトビーに材料をひたすら渡していく。

 板を上げ、縄を通し、枝と枝の間に床となる部分を作り、最低限の囲いを作る――そうしてできた木の上の簡易シェルターは、狭いが六人は収まれる程度の広さになる。

 さらに少しだけ外へ張り出した荷物置き場も作り、トビーは荷物を背負い木を登り、荷物をそこ置いた。


「もう登ってきていいぞ!」

「分かった。じゃあエステルから先に上って。その後はナギとハルトと私。最後にリゼとクラウス兄様だね」


 こういう時の指示出しは自然と俺の役割となる。

 言った順に皆が登り、最後にクラウスが上がってきた時には、もう本当に寿司詰めだった。落下防止の柵がなければ、冗談抜きで誰か落ちる。

 端へ座るクラウスが、周囲を見て言う。


「木漏れ日と腹具合からして、まだ昼を少し過ぎた程度か……だが、夜を迎えるための訓練の時間と思えば悪くはない」

「休むのが訓練ってのも……厳しいわね……」

「……ずっとこれは疲れる」


 エステルとナギがげんなりする。

 その気持ちは分かるぜ。足は伸ばせても、横になって眠れる広さじゃないからな。

 とはいえ――問題はそれだけじゃない。


「睡眠はともかく、排泄もここからするんだからね」

「……言わないでよ。せっかく今まで忘れてたのに」


 エステルが顔をしかめたその時、リゼが妙に得意げに胸を張った。


「だからこそ、こういう時のために男女の区別を薄くしておく必要があったのです。排泄を見せるのは辛いかもしれませんが、裸を見せ合った経験のさらに先の段階だと思い、なんとか我慢してください」

「裸を見せ合う? お前たち……いったい何をした?」


 クラウスの低く重い声が飛ぶ。

 それにリゼは平然と答えた。


「ナギはまだですが、一緒にお風呂に入りました。異性の身体に対して、我々は多少の耐性があることを保証します」

「……そうか」


 その言葉を受けて、クラウスの視線が、すっとハルトとトビーへ向く。


「リーネの……リンデベルク家の娘の裸を見たのか?」

「いや、その、えーと……」

「オレはリーネ姉ちゃんのおっぱいを揉んだことだってあるぜ!」


 ハルトはしどろもどろだが、トビーはなぜか堂々としていた。

 それどころかおっぱい触らせた話をするなよ……ああ、ほら! クラウスが俺を見ているじゃないか!


「お前は何をさせているんだ?」

「トビーは使える荷役士でしょ? だから体を使ってでも引っ張ってこようと思ってね」

「それで体を触れさせたのか?」

「はい。それが何か?」


 だが今さら取り繕っても無駄だ。こうなったら堂々とするのがベスト!


「お前、嫁の貰い手がいなくなるぞ……」


 嫌な方面から口撃が来たな……。

 だが、ここで引いてたまるか!


「いざとなったらハルトかトビーに貰ってもらうよ。クラウス兄様から見ても、なかなか将来有望じゃないの?」

「……ああ言えばこう言う奴だ」

「リーネと結婚かぁ……判断が難しいな」

「リーネ姉ちゃんとなら楽しそうだけどな?」

「リーネが姉なんて嫌よ! 友達としてはいいけど、身内としては適当すぎるもの!」


 エステルまで乗ってきた。しかも、俺ってそういう目で見られているの? 少しだけだが、傷つくなぁ……。

 そんなことを思いつつも、木の上の狭い足場が、妙に賑やかになることを自覚した。

 そこでふと気になり、話に参加していないナギを見ると、何も言わないまま、その空気を静かに楽しんでいるようだった。

 

 ――劣悪な野営になるはずなのに、パーティーの空気は不思議と悪くない。


「……そろそろ黙れ」


 余りにうるさくしすぎたのか、クラウスが釘を刺してくる。


「今は休む訓練も兼ねていると言ったはずだ」


 そう言われたら黙るしかない。その言葉によって一気に場が静かになる。

 となれば意識するのはこの環境だ。身動きは取りづらく。落ちないように気をつけなきゃならない。地面の上の野宿よりもずっと疲れるだろう。

 それでも、仲間と身を寄せ合っているこの感じは、悪くなかった。


 ……ただ。この森の静けさだけは、どうしても好きになれない。

 まるで、何かが息を潜めてこちらを待っているように思えるから――。

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