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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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間引きと簡易拠点

 クラウスがグレインフォールへ来て、二日が経過した。

 事態は、思っていたよりずっと早く動いていく――冒険者ギルドで決まったのは、クラウスを軸にした魔獣の間引き作戦というものだ。

 城壁からの観測では、森から出てくる魔獣の数は少しずつ減り始めているらしい。

 

 ――今なら押し返せるかもしれない。

 だからこそ、壁の外へ降りるという選択肢が現れる。


 やることは単純。危険性の少ないグリムパップが特に多い地点へ城壁伝いに降り、森から出てくる数を上回る勢いで狩りながら、城壁の外に橋頭保を作る作戦だ。

 城門から打って出ないのは、運の悪いことにグレイマウルが多数徘徊しているから。

 

 流石のクラウスもグレイマウルを複数相手にするのは分が悪く、だからこそ無理やり壁外に橋頭保を作る作戦というわけだ。

 長槍を使った戦列で押し留められればいいが、もし崩れた場合には内側に回られて一気に食い破られるかもしれない。

 そんなリスクとの兼ね合いとなっている。


 橋頭保を拠点化して、間引きの規模を広げるのが第二段階。魔獣の数が減ったところで大規模な臨時隊商を組む。

 そこからは冒険者の大勢を動員しての街道護衛だ。街が干上がる前に、なんとしてでも物資を調達する。

 

 ――その第一歩がこの間引き任務だった。


 最初の一手を担うのが、クラウスということになる。

 壁の外へ降りて、無傷で魔獣を狩り続けられる存在なんて、他にはいない。

 ぶっちゃけ、完全にクラウス頼みの作戦となってるが……冒険者の力が生きてくる局面がある。


 橋頭保を作るためには、そこに拠点を作り出さねばならない。

 物資を運搬して、工兵による陣地構築が行われるわけだが、彼らを守る存在が必要不可欠。

 それを兵士だけで行うには、主兵装が槍というのがネックになってくる。クラウスが作り出す空間の狭さに、槍を使っての即時展開は不可能。


 となれば、そこで冒険者の力が必要になる。基本的に森の中で武器を振るうための武装だから、俺たちの武器は兵装と違い基本は短め。

 だからこそ中位冒険者パーティーと、それに準ずる実力を持つ冒険者が動員されていた。

 ――その中に、俺たち『鍛鉄の剣鉈』も入っていた。


「……中位扱い、かぁ」


 城壁へ向かう途中で、思わずそうこぼした。

 グレイマウルを単独で仕留めたことが、決定打になったらしい。結成から一年も経っていない。個々の冒険者歴だって似たようなものだ。

 そんな連中が中位扱いなんて、前代未聞だとボルクは言っていた。


 とはいえ、評価された一番の理由はリゼだ。

 元王宮騎士で、実力は折り紙つき。リゼが在籍しているからこそ、『鍛鉄の剣鉈』は評価されている……というのは間違いないが、それだけでもなかった。

 俺たちはリゼにおんぶ抱っこじゃなくて、リゼを攻撃役として上手く使えているという評価があるからだ。

 この間のグレイマウル討伐において、その戦いぶりはレオンたちからも報告されているらしく、そこで評価が上がったというわけらしい。


 それが名声となり大抜擢! 冒険者としての立身出世の第一歩であると言えるけど、同じように動員された中位冒険者を見れば、そんな自信は打ち砕かれる。

 城壁の上には、すでに選抜された冒険者たちが集まっていた。数は五組――そのまとめ役を任されたのは、『黒鋼の杭』のガレスという大剣使いだ。

 四角い顎をした、いかにも場慣れした男で、立っているだけで声が通りそうな空気を持っている。

 

 直接話したことはないけどギルドでは冒険者の代表みたいな男で、リゼが言うには騎士に迫るほどの強さらしい。

 騎士と伯仲する実力で中位なのかよ! なんだよ中位って、幅があり過ぎるだろ!

 ……なんてことを考えれば、中位冒険者になったことを素直に喜べない。彼らに比べれば、俺たちはひよっこ同然だからだ。


 とはいえ、安心材料もある。それはすぐ横には、レオンたち『街道の守護剣』がいるからだ。

 基礎や応用という意味ではまだまだ上で届かない存在だが、決して手の届かない存在じゃない。

 それに、一番仲良くしている冒険者パーティーで、一番の先輩だしな。こういう人たちが隣にいるのは心強い。


 ――ということを城壁についた後も考えていたら、どうやら作戦が始まるようだ。


「冒険者諸君に言っておくことがある。――無理はするな。兵士が展開できるだけの空間を作り出せればそれでいい。生き残ることを優先しろ」


 クラウスの言葉に、この場にいる全員が頷いた。


「――では、先に行く。お前たちが下りられる足場を俺がこじ開けてやる」

 

 そう言ってクラウスが縄梯子を使い、城壁の下へと降り始めた。

 縄梯子に足を掛けて、一歩ずつ降りるクラウスが視界から消えそうになる、その一瞬――俺と、目が合った。

 期待しているのか。試しているのか。どちらともつかない目だった。


「大丈夫、成功するさ。なにせ俺たちは王国騎士様のお墨付きだぜ!」

 

 不安が顔に出たのかもしれない。背中を、ばん、と叩かれた。

 それはハルトだった。

 俺が暗い時は明るく振る舞うムードメーカーの役割をしてくれるが、言っていることは決して嘘じゃない。


「こんな時に身内贔屓なんてせんだろう」


 今度は横にいたレオンが笑いながら言う。

 クラウスの推挙があったから、俺たちはこの場に呼ばれた。

 ボルクからは、この依頼を受けるにあたってそう聞かされていたのだ。


「自分の兄の判断を信じて、あとは精いっぱいやればいい」


 ――そうだよな。できると思われているから、この場にいるんだ。


 ……深く深呼吸して、心を落ち着かせる。

 そうだ。今さら迷っても仕方ない。選ばれたなら、やるしかない。

 意を決し、城壁から降りる機会を伺うために身を乗り出して地上を見れば、そこでは想像の通りのことが起きている。


 ――『夢想剣界』。

 クラウスへ攻撃をしかけようとするグリムパップが何もできずに切り裂かれ、転がっていた。

 死骸が周囲へ散り、血が地面を染める。そこへまた魔獣が群がり――また死ぬ。


「今だ! 降りるぞ!」


 ガレスの号令が飛ぶ。

 三本の縄梯子へ、選抜された冒険者たちが一斉に向かう。

 城壁の上からは兵士たちの矢が降り、温存されていた魔術師たちの火球が眼下で炸裂する。

 ここ一番の勝負だ。街中にいた時とは空気が違う。兵士も冒険者も、今この一手に賭けている。


 最後に降りるのが俺たち『鍛鉄の剣鉈』だった。

 縄梯子へ足をかけ、焦らずに確実に降りていく。こういう時こそが精神操作の使い道だ。俺だけでなく、周囲にばら撒くように心を落ち着ける魔力を放つ。

 そうして地面に降り立てば、血と泥と死骸が入り混じっていた。鼻の奥へ生臭さが一気に刺さる。


 気持ち悪さを頭から払いのけるのと同時に、エステルの支援術が体に浸透してくるのが分かった。


「っ! あそこを守るよ!」


 冒険者たちによって作れた戦列が徐々に広がり、そこに隙間がある。あそこを埋めなければ!

 俺たちは、すでに作られつつある戦列の間へ滑り込んだ。戦列となれば、いつもの陣形は使えない。

 俺の隣にハルトとリゼが、そしてナギがさらに隙間を埋める。その後ろからはエステルが支援術を掛けている。


 こうなると、あとは飛び掛かってくるグリムパップをひたすら迎撃していくのみ。

 視界には少数のブルタスクがこちらに近づいてくる姿も見えるが、そちらは壁上の兵たちが矢と魔法を射かけていく。

 それで時間を稼ぎ、さらに接近してくる奴はクラウスがオフェンスとして動き回り切り倒していくのが見える。


 じりじりと歩みを進めて、冒険者が作り出す戦列に隙間が出来始める。

 それと同時に、背後からは縄梯子を降りてくる人の気配――兵士が下りて来たので間違いない。


「広さが足りない! 前に出ろ!」


 背後からそんな指示が飛ぶ。まだ足りないか! でも、あと少し!

 そう思いつつ、グリムパップを捌きながら前進すれば、さらに戦列の隙間が広がっていく。

 だが――その隙間はすぐに埋まる。


「よくやった冒険者共! ここからは俺達の仕事だ!」


 長槍を持った兵士たちが隙間を埋めるようにして入って来た。

 こうなれば俺たち冒険者の役目は終了に近づく――徐々に後ろからやって来る兵士達と入れ替わるように後退する。

 

 その瞬間、後ろで鈍い音が響き始めた。

 振り返れば、トビーを含む荷役士たちが、城壁から基礎となる石材を落としている。

 さらに、陣地構築をする工兵たちが、縄梯子を降りてきた。荷役士も雑に落とすことのできない工材を背負って一緒に縄梯子を降りてくる。

 

「次だ! 工兵を手伝え! 支援術師は槍兵たちを援護しろ!」


 冒険者のまとめ役――ガレスの指示に従い、次は陣地構築のための力仕事だ。

 指示に従う小間使いだが、戦うだけが冒険者じゃない。普段から雑務には慣れている。

 陣地の基礎である石材の設置を手伝い、次は防護柵と逆茂木だ。


「お前たちは逆茂木を頼む!」

「はい!」


 工兵の指示に従い、丸太を木槌を使い地面に打ち込んでいく。

 そして手斧で先端を荒くカットして、細くする。

 魔獣が怖がれば十分だから、多少丸くても完成として、すぐに次の逆茂木へ――。

 

 そこからは持久戦だった。

 支援術のない中で身体を動かすのはきついが、それでも必死になって杭を打ち込んでいく。

 トビーが荷役士として、工材を運び込むのが視界に映った。一瞬だけ目が合えば、お互いにこくりと頷きあう。


 ――どれだけ時間が経ったのかは、結局よく分からない。

 長かった気もするし、振り返れば一瞬だった気もする。

 ただ確かなのは、その頑張りが報われたことだ。


「中へ! 一人ずつ入れ!」


 ガレスの声が響く。

 簡易拠点は形になっていた。魔獣が越えられない柵が設置され、その一部には扉が取り付けられている。

 冒険者が設置していた逆茂木は、数としてはどう見ても不十分。だが、そもそも陣地の拡張前提の工事だから、ある程度ガバガバのほうが明日の仕事の邪魔をしない。

 

 俺たちは統制を崩さないように、一人ずつ扉を潜っていく。

 次は兵士たちが長槍の受け渡しをしつつ、拠点の中へ。

 戦列の数を減らせるくらいには、魔獣の数が減っているということか。


 そして、兵士による壁が消えれば、魔獣を減らし続ける男の姿が目に入ってきた。

 クラウスが今この瞬間も魔獣を狩り続けている。


 ――威力だけでなく、燃費もいい。そうじゃないとアレは無理だ。本当に、恐るべき奥義を編み出したんだな。


 そんなことを考えていると、クラウスもここが潮時と見たのか後退してくる。

 最後に扉を潜り、息を多少乱しながら簡易陣地に入って来た。

 これで――作戦の第一段階は終了だ。

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