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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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街道護衛依頼の終了とグレインフォールの状況

 グレンツを発ってからの帰路は、拍子抜けするくらい平穏だった。


 盗賊のねぐらを潰した以上、そう何度も同じ手口で街道を荒らせるはずがない。

 実際、その後の道中で怪しい影を見ることも、荷馬車を止められることもなかった。

 難所らしい難所も、今となってはただの通過点だ。


 もっとも、護衛の態勢そのものは少し変わっていた。

 『街道の守護剣』のレオンたちは、ロブの商人仲間が率いる別の隊商の護衛に回っている。

 こちらは盗賊を退けたばかりで戦力も十分、なら別口の危ないところを助けてやってくれ――そうロブが頼み込んだらしい。


「こっちはお前らがいれば十分だ。なら、困ってる方に腕利きを回すべきだろう」


 そう言って肩をすくめるロブは、いかにも商人らしい顔をしていた。

 損得勘定だけじゃない。貸し借りと繋がりを計算に入れた上で、ああいう判断をしているのだろう。

 実際、レオンたちも渋い顔一つせずに受けていた。


 商人からの信用を勝ち取るには、多少の無理をしてやることが、街道護衛を長く続けるコツであるらしい。

 さすがは、街道護衛を生業にする冒険者パーティーだ。


 だから、帰りの護衛は俺たち『鍛鉄の剣鉈』が中心だ。

 と言っても、それだけでなくナギもロブの隊商と同行している。

 もともと彼女はグレインフォールの冒険者だ。ギルドへパーティーメンバーが死亡したという報告をしなければならない。

 

 遺品整理もあるというしな……大変そうだが、それもまた冒険者の仕事でもあるってことだろう。

 そんなナギとは途中からは俺達のパーティーメンバーのように行動している。

 一緒に盗賊討伐をした仲でもあるし、祝宴も上げた。物と心の整理がついたらでいいから、私達のパーティーに入らないか?


 そういう提案ができる程度には打ち解けている、ナギもまんざらでもない態度だから、本当にそうなるかもしれない。

 だからこそ何も起きることのない退屈と言ってもいい復路においても、ある種新鮮な気持ちで歩き続けることができている。

 まあ、護衛の仕事をしているのだから、気を抜くほど馬鹿ではない。ちゃんと真剣に仕事はしている。


 ただ……グレインフォールに近づくにつれて、心はどんどん移ろい変わっていく。

 王都に行き、数週間の旅をしたことで、グレインフォールとは何なのか? というような問いがふと頭をかすめる時がある。

 自問自答の回答をするなら――俺たちの拠点となる街であり、長期契約をする三羽雀亭は俺たちの家であり、ギルドは仕事をするための受付だ。


 そこまで考えて、自分でも驚くことだけど、グレインフォールを故郷のような何かだと思い始めているのかもしれない。

 まだ一月も経っていないはずなのに、帰ることができて、凄く嬉しく感じるんだ。

 そして実際に、グレインフォールの街門が見えた時――その感覚はさらに強くなる。


「……帰ってきたな」


 思わず、そんな言葉が口から零れる。

 石壁に囲まれた街。見慣れた門番。荷馬車の列に混ざる人の声。

 どこかの店から流れてくる焼いた肉の匂いまで、妙に懐かしく感じた。


「随分と感傷的になっていますね。何か心境に変化でも?」


 隣を歩くリゼが、少しだけ不思議そうに言う。


「ここが自分たちの拠点だって、実感できたから……かな」

「初めての長旅でしたからね。そういう気持ちになるのも理解はできます」

「リゼもそんな経験があるの?」

「ええ。騎士団の遠征訓練を終えて駐屯地に帰って来た時は、涙が出そうでした」


 ……それは、自衛隊とか、そういう軍隊の辛い訓練を終えて感動するとか、そういう類では?

 何かが違うと思ったけど、無粋なツッコミを入れるべきじゃない。


「疲れたけど、私は帰ってきたって感傷はないかな。だって、グレインフォールも故郷の村と比べたら都会みたいなもんだし」

「だよな。あるのは達成感くらいだぜ。なにせレオンさんたちと同じように、街道護衛依頼を達成できたんだからさ」


 エステルとハルトはそんな感想らしい。


「私は……グレインフォールを出たばっかりだったから……」


 ナギは依頼の途中でパーティーが壊滅してしまった。

 となれば、ただ帰って来ただけか。

 しかも……仲間を失い一人で帰って来るという、なんと言ってやればいいのか分からない帰還となっている。


「……感じ方は人それぞれってことで。そろそろ門だよ」

 

 雑談を止めて、手続きを終わらせて門をくぐる。

 隊商が街の中を進み、そのままロブの荷の引き渡し先まで。

 そこで最後の確認が終わる頃には、日はだいぶ傾いていた。


「よし、これで街道護衛依頼は正式に終了だ」


 ロブが荷台を軽く叩きながら、そう言った。

 差し出されたのは、依頼達成を証明する書類だ。商会印も入っているし、不備もない。

 

「ご苦労だったな。帰りは何もなくて退屈だったろうが、その退屈ってのがありがたいと、今回は骨身にしみた」

「臨時報酬があったので私達の懐は温かいけど、同意します。あまり気持ちのいい出来事じゃありませんでしたから」


 俺がそう返すと、ロブはゆっくりと頷いた。


「冒険者が戦うのは、できれば魔獣だけの方がいいってもんだ。人間同士の戦いをさせるのは酷だからな……。いや、それは俺達の領分じゃないか。ほら、持っていけ。ギルドに出す書類だ」

 

 街道護衛。王都往復。盗賊襲撃。討伐協力。

 思えば、ずいぶんと密度の濃い依頼だった。

 これで一件落着――後は書類をギルドに提出しなければならない。


「じゃあ、私たちはこのままギルドに報告へ行きます」

「おう。レオンたちが使えないときは、またお前たちに頼むかもしれん。そのときはよろしくな」


 ロブと別れ、俺たちはその足でギルドへ向かった。

 だが、建物に入った瞬間、違和感があった。


 なんだこれは? 空気が……重い?

 酒場の喧騒はある。冒険者の怒鳴り声も、依頼票の前で揉める声も聞こえる。

 なのに、いつものだらけた熱気とは質が違った。全体に余裕がなく、皆どこか急かされるように動いている。


 受付前には人だかり。汚れた装備のまま報告している連中も多い。

 血の臭いまで混じっていて、どう見ても平常運転じゃない。


「……何かあったの?」


 長い順番を待って、受付の元へ。

 そこでボルクに書類を差し出しながら聞くと、露骨に顰め面を深くした。

 書類に目を通し、受領の印を押しながら、低い声で答える。


「おう。あったとも」

「その顔だと、ろくでもない方だね」

「ろくでもねぇ。最近な、何故だか知らんが、魔獣の出が急に増えやがった」


 魔獣? 街道護衛に出る前は、全然出ないって話だったじゃないか。


「増えたって、どのくらい?」

「通常時の倍ってところだ。この状況を見ればわかるだろう? 今いる連中も、ほとんどがその帰りか、その準備だ」


 疲れ切った顔、泥と血にまみれた革鎧、担ぎ込まれたばかりの素材袋。

 どいつもこいつも、休む暇なく動いていた証拠か。


「今のグレインフォールの冒険者は大忙しってわけだね」

「そういうこった。前例がまるでねぇ話じゃねぇ。季節の変わり目だの、縄張り争いだので、一時的に出方が偏ることもある。だが、今回は数が妙だ」


 ボルクはそこで一度口を閉じ、面倒そうに鼻を鳴らした。


「楽観視はできねぇな」


 その一言に、空気の悪さが全部詰まっていた。

 街道護衛を終えて帰ってきたら、今度は地元の森が魔獣で溢れていると来た。

 さっきまでの感傷がぶっ飛んで、緊張感が湧いてくる。


「リーネ姉ちゃん!」


 そこで、聞き覚えのある声が飛んできた。

 振り向けば、受付のほうへ駆け寄ってくる小柄な影――トビーだ。


「帰ったのか! いつ戻るんだろって思ってたんだよ!」

「ただいま、トビー。元気そうだね」

「元気じゃなきゃやってられねぇっての! 今どこもかしこも人手不足で、荷役士が引っ張りだこなんだからよ!」


 それだけなら商売繁盛。

 しかし、再会の喜びとは裏腹に、トビーの顔には何処か暗さが残っている。


「そんなに忙しいの?」

「忙しいなんてもんじゃねぇよ。朝から晩になるまで背負いっぱなしだ。討伐に同行して、運んで、解体場に持ち込んで、また次だ」


 トビーは両手を広げて、大げさなくらいにまくし立てた。


「稼げるのはいいぜ? そりゃあ、財布が重くなるのは最高だ。けどな、それって死体を放置できないってことなんだ」

「魔獣の死臭は魔獣を呼ぶ……だったかな?」

「それがやっかいなんだ! 穴掘って埋める暇がないほどに魔獣が森の中をうろついている。となれば荷役士が運ぶしかない! それに最近は、出没する魔獣までおかしいんだ。グレイマウルだって浅いところで出るんだぞ!?」


 最後はほとんど叫びだった。

 トビーが大げさに言っているというより、本当にそういう危険を見てきた顔をしている。

 荷役士は戦闘の中心じゃないが、そのぶん現場の後始末を山ほど見るからな……。


「……トビーの言う通りだ」


 横から口を挟むように、ボルクが重く頷いた。


「今は討伐そのものも問題だが、その後始末も追いついてねぇ。素材の買い取りだって、本来ならとっくにダブついてる」

「でも、トビーが稼げるってことは、買い取り額はそれほど落としていないってことだよね?」

「落とせるかよ。今そんなことしたら、討伐依頼を受ける冒険者が減るだけだ。だからギルドが無理やり買値を維持してる。平時の商売じゃねぇ。緊急対応だ」


 言い切る声に、受付職員としての苦労が滲んでいた。

 買い取り額を維持するってことは、要するにどこかが損をかぶるってことだ。

 それでも討伐を止められない程度には、状況が切羽詰まっている。


「リーネ」


 ボルクが、真正面から俺を見る。


「『鍛鉄の剣鉈』にも、また魔獣討伐をやってもらいてぇ。街道護衛帰りで疲れてるのは分かる。だが、今のグレインフォールじゃ、腕の立つ連中には一人でも多く動いてもらわなきゃならねぇ」


 その横で、トビーがぶんぶん頷いている。


「行くならオレも付き合うぜ! 冒険者としては、一番付き合いが長いのがリーネ姉ちゃんたちだからな!」

「そうだね。荷役士が付くなら私達もトビーがいいよ。というわけで、休みも最低限で駆り出されそうだけど、皆は行ける?」


 パーティーリーダーは俺だけど、皆に意見を聞く必要がある。


「俺は行けるぜ。一日休めば十分だ」

「帰りは支援魔法をちょくちょく使ってたからね。皆の疲労も最低限じゃない?」


 ハルトとエステルは問題なし。


「色々と整理が終わったら、またギルドに顔を出す。もしよければ私も連れて行って」


 ナギも俺達に同行するつもりのようだ。腕の良い斥候がいるのは頼りになる。


「……できれば三日は休養と稽古に時間を割きたいですが、緊急ということなら仕方ありません」


 一番重要なリゼの許可が下りた。

 帰って来たらまずは稽古だと言っていたリゼも、その意見を翻さざるを得ないってことだろう。


「決まりだね……帰ってきて早々、大変なことになってるな」


 自然とそんな言葉が漏れた。

 懐かしい街に戻ってきたと思ったら、待っていたのは休息じゃなく、次の火種だ。

 街道護衛依頼は終わった。

 

 ――けれど、俺たちの仕事は、どうやらまだ終わってくれないらしい。

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