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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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王都観光

「まずは外せない場所からですね。大通りを抜けて、王都の心臓部まで行きましょう」


 リゼの一言で、俺たちは金麦亭を出て大通りへ向かった。

 昨日、東門から入ってきたあの通りだ。すでに店は開いていて、通りの両側には出店が並び、呼び込みの声が絶えない。


「まだ朝だってのに、ずいぶんとまあ、うるさいな」


 ハルトの感想には俺も同意だ。

 グレインフォールの街路市だって賑やかだけど、あれは昼近くになってからだ。

 ここは一日中フルスロットルって感じだな。


「もっと、うるさくなりますよ」


 リゼがさらりと言う。


「人混みが苦手だと、王都に来るのを嫌う人もいるくらいです。ハルトもその気があるようですが、冒険者として大成を目指すなら、慣れなくてはいけませんね」

「そうだな……肝に銘じるよ」


 そんな他愛ない会話をしているうちに、王都の大広場へ出た。そこは、まさに都会の証拠とでも言うべき場所だった。

 石畳の広場はやたらと広く、兵を整列させても、まだ余るんじゃないかというくらいの空間がある。

 その広さを碁盤目状に区切るように、様々な露店が並んでいた。


「大広場では様々なものを買うことができます。王国中の物品が集まる、交易の中心地ですからね」


 リゼが淡々と解説する。


「凄いって言葉しか浮かんでこないね……」


 エステルがぐるりと周囲を見渡して呟いた。

 布、香辛料、干し肉、珍しそうな果物、見たことのない形の道具――。

 どの露店も、これでもかとばかりに品物を並べている。客の声と商人の声が、熱気と一緒に渦を巻いていた。


「売り物に自信があるなら、ここで出店したいってのも頷ける。俺たちの村にも行商人が色々買い付けに来てたけど、それをこういうところで売るってわけだな」

「実家で織ってた生地とかでしょ? 確かに、そういう物を売ってる店もあるわね」


 ハルトとエステルが、どこか懐かしそうに言い合う。

 家内制手工業ってやつだな。農村で産出する織物や工芸品なら、こういう場で売ればかなりの値になりそうだ。


「この市は、そのような品の売買が大半ですね。大店が扱うような商品は、また別の経路です。私たちが護衛してきた隊商などは、まさにそれですよ」


 リゼの説明に、ハルトが「なるほどなぁ」と納得したように頷いた。

 冒険者としては知らなくても困らない知識かもしれないけど、社会の仕組みという意味では、知っていて損はない。


「それにしても、リーネはさっきから無言だな。こういうのを見て一番はしゃぐかと思ったけど」

「私? えーと……そうだね――」


 正直なところ、この景色には見覚えがある。

 人混みのうるささは、日本の観光地で嫌というほど見たし、交易路のバザールみたいな映像も動画で散々見てきた。

 だから、驚くというより――はいはい、こういうのね。といった感じだ。


 インパクトという意味では、王都に入るときの城壁のほうが強かった。あれはさすがに「おお……」となったしな。


「グレインフォールを、もっと広くして密度上げただけ。そう考えたら、別に普通かなって」

「そうか? ……でも、言われてみれば、そうなのか? でもなぁ……」

「理屈は分かるけどね。でも、普通はそういう感想にはならないんじゃない?」


 二人から、なんだこいつ? みたいな眼差しを向けられる。

 そういう反応になるのも分かる……が、なんだかな。

 中身が日本人のおっさんですとは言えない以上、どうしようもない。


「リーネは変わり者です。私のように騎士団で揉まれたわけでもないのに男に肌を見せて平然としていますし、さらにはムラついたから女を買うなんて平気で言い出します。そんな言動よりは、理解しやすいでしょう?」

「それを言われたらお終いだな」

「そうね。リーネはおかしい子だもの」


 仲間からの評価がひどい。いや、否定できないけど。


「皆で私をいじめるのはやめてよ。これでも女の子なんだよ? 少しは傷つくよ」

「嘘ね。顔が全然そんなふうじゃない」

「即答ってのは酷いんじゃない? 事実だけど」


 エステルも大分、遠慮がなくなってきた。

 まあ、それだけ馴染んだってことにしておこう。


「では、そろそろ次に行きますか。市は毎日開いています。気になる人は、明日にでもまた来ればいいでしょう」


 ということで、次の目的地へ移動だ。

 向かったのは、昨日、隊商護衛で訪れたあの商人街だった。

 歩きながら、リゼがさりげない調子で解説を挟んでいく。


「この通りが商人通りです。商館と倉庫が多く、税の窓口もこの辺りにあります」

「ここは店が並ぶって感じじゃないな。大口の取引をする場所って印象だけど?」


 問いかけると、リゼがこくりと頷いた。


「ええ。ここは王都に店を構える商人たちの窓口であり、地方の物品を扱う大口の商人は、まずここで荷下ろしをします」


 見渡せば、石造りや木骨造の大きな建物が多い。荷を積み下ろしする広場があり、厩も併設されている。

 なるほど、商取引と運送、保管が一か所にまとまっているわけだ。ロジスティクスの拠点、ってやつだな。


 商人街を抜けてさらに進むと、通りの幅が一段階広がった。

 馬車の本数は減ったものの、歩いている人間の身なりが目に見えて良くなっていく。

 絹混じりの服、細工のこまかい飾り、磨かれたブーツなどだ。


「ここから先が、王都の表通りですね」


 リゼが少しだけ声を落とす。


「この先には、王城へと続く道と、王城前広場、大神殿、騎士団の詰め所などが集まっています」


 やがて視界が開け、大きな広場に出た。

 さっきの市が開かれていた広場とは違い、こちらは静謐な空気に満たされている。

 人はそこそこ歩いているのに、声が妙に抑えられているような、不思議な落ち着きがあった。


 左手に目をやれば、白い石造りの巨大な建物が見える。

 まだ距離はあるのに、その存在感は嫌でも目に入ってきた。


「わぁ……」


 エステルが、自然と感嘆の声を漏らす。


「あれが大神殿です。赴く信徒の数は随一、寄せられる祈りの質も桁が違います」

「祈りの質? 祈りに質なんてあるの?」


 エステルの素朴な疑問に、リゼは一拍も置かずに答えた。


「寄進の額ですよ」


 身も蓋もない回答だった。


「……なるほどね」


 エステルが苦笑混じりに納得する。

 聖職者の卵みたいな立場だったはずなのに、案外現実主義だな。


「神官や聖職者を維持するには金が要ります。王都は、それが集まりやすい場所ということです」

「村の僧侶様も愚痴ってたわ。王都の僧侶は金儲けに走り過ぎだって」


 エステルを育てたという僧侶も、かなり現実が見えているタイプだったらしい。

 なんとも世知辛い話だけど、まあ、どこの世界も似たようなものだ。


「現実というのは、どこもそんなものですよ。では、次に行きましょう」


 大神殿の前を通り過ぎ、次に出たのは石塀に囲まれた広い敷地の前だった。

 門扉の上には、交差した剣の紋章が掲げられている。


「王都騎士団の詰め所です。ここから正規兵が、王都と近郊の治安を維持しています」

「ここが兄様たちの仕事場?」

「はい。ユリウス殿は第一騎士団、クラウス殿は第二騎士団の所属です。あくまでも詰め所ですから、毎日ここで待機しているわけではありませんが」


 日記の記述と、両親やクララの話でしか知らない、リーネの兄たち。

 その二人が出入りしている場所が、目の前にある――そう意識すると、胸の奥が少しざわついた。


「お会いしたいですか? 親族であるなら手続きは簡素です。運が良ければ、明日にも会えるでしょう」


 うーん……どうしようか。

 中身は違うとはいえ、俺は今、リーネだ。貴族の娘として、王都に来て兄の元へ顔を出す――それは筋の通った行動だろう。


「一通り王都観光が終わったら、付き添いお願い。妹として顔を見せるって意思を示すのが筋ってものだからさ」

「分かりました。後で一緒に行きましょう」


 この会話に反応したのはハルトだった。


「リーネの兄さんってのは気になるな。名の知れた人なのか?」


 興味津々なハルトに、リゼが頷いた。


「二刀魔剣のユリウスと、不可視魔剣のクラウス――と言えば、かなり有名ですよ。騎士団の中でも上位の実力者です」


 二刀魔剣と不可視魔剣――通り名付きかよ。

 それだけ騎士団の中でも目立つ存在ってことなんだろう。


「何それ! かっけぇ……」


 ハルトが食いついた。

 中二病っぽい通り名だもんな……気持ちは分かるぜ。


「こちらは、このくらいでいいでしょう。王城に入るわけにはいきませんし、他を回りましょう」


 表通りを離れ、象徴的な場所をぐるりと一巡する形で王都を回る。

 そうしているうちに、太陽はだいぶ高く昇っていた。

 リゼが足を止め、俺たちのほうを振り返る。


「……ひとまず、王都らしい場所はこのくらいでいいでしょう」


 視線が、一人一人をゆっくりとなぞった。


「ここからは解散にしましょう。夕食までに宿に戻れば十分です。王都は広いですからね。行きたい場所があるなら、自由に歩いて行ってください。リーネは一緒に騎士団の詰め所に行きましょう」


 ということで、ここで一旦解散だ。

 俺が自由行動に移れるのは、詰所で面会手続きをしてからになる。

 兄との面会か――どうなるかな?

 

 実質的に初対面だ。ボロがでないようにしないとな。

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