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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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打ち上げ

 レオンが皆を引き連れ、大通りから一本それた通りに入る。

 そこは喧騒が半歩だけ薄まった、宿と酒場だらけの通りだった。

 行き交うのは荷物を降ろし終えた商人や、同業者である冒険者たちだ。


「ここだ」


 レオンが立ち止まった建物は、二階建ての大きな宿だった。

 白く塗られた壁に、分厚い梁。軒先には木の看板が下がっていて、麦のレリーフが刻まれている。


「金麦亭よ。飯も酒も美味いし、居心地もいい。私たちの行きつけ」


 マレナが少し誇らしげに言った。

 入ってみないと分からないが、外見の雰囲気は上等な部類だ。


 扉を押して中に入ると、匂いが一気に押し寄せてきた。

 スパイスの利いた肉の匂い、焼いたパンの匂い、それから、ほんの少し鼻を刺す酒の匂い。

 広めの食堂には、すでに何組かの客が陣取っていて、先に酒盛りを始めている連中もいる。


「いらっしゃい――おう、レオンじゃないか」


 カウンターの向こうから、髭面の大男が声を掛けてくる。

 店主のようだが、肩幅がやけに広い。

 商売人というより、元冒険者か何かと言われたほうがまだ信じられそうな体つきだ。


「三泊で八人だ。部屋は空いてるか?」

「空いてるぜ。四人で二部屋と、二人で四部屋のどっちにする?」

「二部屋でいい。仕事で来てるもんでね」

「あいよ。ほら、鍵だ」


 髭の男が笑い、壁に掛けられた鍵束から二本を外す。

 それをレオンに渡して、またカウンターのほうに戻っていった。


「見たところ、すぐにでも飯か、それとも酒か? 記帳は後でいい。こっちは作り始めちまうが、いいか?」

「まずは酒だ。だらだらやりつつ、頃合いを見て飯も出してくれ」

「おう。空いてる席に座ってろ」

「おうよ。とりあえず皆で食堂の隅を陣取ろうぜ。あとで混んでくるからな」


 『街道の守護剣』の四人と、俺たち『鍛鉄の剣鉈』の四人で、大きめのテーブルを一つ占領する。

 椅子を引いて腰を落ち着けると、すぐさま宿の主人――さっきの髭男がやってきた。


「飲み物はどうする?」

「俺たちはいつもの。リーネたちはどうする?」

「私もエールでいいよ。皆は?」


 俺はこういうとき、とりあえずビール派だ。だからエールでいい。


「私はワインをお願いします」

「俺もエールでいいや。できるなら果実を使ったやつ」

「私はシードルで」


 俺がエール、リゼがワイン。ハルトも同じエールだが、果実香のあるタイプ。エステルはシードル。

 見事に好みが分かれたな。まあ、酒なんてそんなものだ。


「注文は以上だな? 少し待ってろ」


 髭面のオヤジはそう言って戻り、程なくして、八人分のジョッキを乗せた大きなトレイを器用に片手で担いでやってきた。


「あとはつまみを適当に持ってくる」


 そうして全員の前にジョッキが並ぶ。泡がこぼれそうなほど、なみなみと注がれていた。


「では――往路は何事もなく王都に来られたことを祝って、乾杯!」

「乾杯!」


 レオンが音頭をとり、皆でジョッキを打ち合わせた。

 それを一気に呷れば、エールの香りが胸いっぱいに広がり、心地よい苦味と甘さが喉に残る。


 ……いいエールじゃないか。

 酒がいいなら、飯も期待できるってものだな。


「今日は『街道の守護剣』が奢る。お前たちは存分にやってくれ」


 俺と同じように一気に酒を胃に流し込んだレオンが、そんなことを言った。


「いいの? 女が大半とはいえ、私たち結構、食べたり飲んだりするほうだよ?」

「気にすんな。目を掛けていた後輩がいっぱしの冒険者になった祝いってものさ。ハルト、エステル。いい仲間に巡り会えたようだな」


 レオンの視線がハルトとエステルに向く。それはマレナとフィン、ミレイも同じだ。

 彼らにとっては、面倒を見ていた新人が、冒険者として独り立ちしたということなんだろう。


「レオンさん……はい! 最高の仲間です!」

「リーネたちと引き合わせていただいて、本当に感謝しています」


 二人も喜びを露わにして、感謝をレオンたちに向けていた。

 でも、感謝するべきなのは俺たちも同じだ。


「ハルトたちと出会えたことで、今こうしていられる。私たちも『街道の守護剣』のみんなには感謝しているよ。だよね、リゼ?」

「はい。得難い仲間を得たと思っています。二人とも素直で、伸びしろもある。いい子たちですよ」


 そんなふうにリゼがさらっと褒めるものだから、兄妹は気恥ずかしさで縮こまってしまった。

 でも、まあ、気持ちは分かる。

 騎士として一線で戦っていたことのあるリゼに真正面から褒められるなんて、俺でもむず痒くなるだろうからな。


「そりゃあ、良かった。だが、これは俺たちにも理があるんだぜ?」


 レオンがニヤリと笑う。


「自分たちだけでは荷が重い依頼があっても、できる奴らに声を掛ければ、そういった依頼もこなせるってもんさ」

「なるほど! 下心ありってわけだ! なら、今日は存分に楽しませてもらうよ。その代わり、『街道の守護剣』から話があれば、そちらを優先すればいいよね?」

「理解が早くて助かる。借りの貸し合いこそが、冒険者を長く続けるコツさ。大きなパーティを作るより、複数の信頼できるパーティで力の貸し借りをするほうが、断然いいからな」


 そう言ってレオンは、残りのエールを一気に呷った。

 それと同時に、皿を持ったオヤジがやってくる。


「ほらよ、まずはつまみだ。どれも酒に合うぞ」


 オヤジが大皿一つテーブルに置いた。

 肉の燻製とナッツ類、それから揚げ野菜が並んでいる。

 食べてみれば、どれも程よく塩が効いていて旨い。こりゃあ、酒も進む。


「やっぱここのつまみは美味いな」


 レオンもつまみをパクパクと食べながら、その塩気をエールで洗い流しているようだった。

 だが、何かを思いついたのか、つまみに伸ばす手が止まる。


「余興として賭けでもして遊ばないか? パーティ対抗戦の飲み比べだ。『街道の守護剣』からは勿論俺。『鍛鉄の剣鉈』はどうだ? リーネは俺と同じエールだから、今なら公平だな」


 酒とつまみを一通り胃に入れたところで、レオンがそんな提案をしてきた。

 ここが祝いの席であるなら――乗ってやろうじゃないか。

 返事を返す替わりに、残っていたエールを一気に飲み干す。


 この身体はアルコール耐性が高いことは、今までの生活で分かっている。

 分のいい賭けなら、当然勝負するべきだよな。


「ふぅ……じゃあ、勝負しようか。明日はどうせ休みだ。仮に潰れてもどうってことない」

「ほう? ならば、パーティリーダー同士の酒飲み合戦としゃれこもう。オヤジ! もう一杯ずつ頼む!」


 そう言ってレオンがオヤジに声を掛ければ、オヤジも面白そうに乗ってくる。


「面白そうなことしてるじゃねえか。いいだろう。その賭け、俺も乗った! おいテメーら! どっちに賭ける!?」


 そんな掛け声が宿の食堂に響き渡り、これまたやんちゃな騒ぎに発展した。

 別の卓に座っていた連中まで、どちらが勝つかで口々に予想を始めている。

 それどころかオヤジが胴元になって、掛け金を集め始めた。


 マレナとミレイ、そしてリゼは、やれやれと言いたげな表情で俺とレオンを見つめている。

 フィンとハルトは面白がり、エステルは何とも言えない怪訝顔だ。


 そんな呆れた視線になるのも分かる。しかし、こういうバカ騒ぎをやっておくことは無意味じゃない。

 冒険者としてやっていくためには、酒の席での付き合いも、貸し借りの一部だからな。

 でも、一番の理由は――こういうノリを、俺が嫌いじゃないということだ。


 大学とサラリーマン時代に培った、酒飲みとしての意地――見せてやろうじゃないか!



 

 翌朝。頭が重く痛みもある。完全に二日酔いだ。

 しかし、動くことはできる。飯も水も胃に突っ込んで、小便も出しまくったおかげだろう。


「リーネ……あんたって、凄いわね」


 若干の気持ち悪さの中で服を着替えていると、エステルがそんなことを言ってくる。


「酒には強い自信があったからね。でも、レオンさんは気の毒だったかな……」


 レオンは確かに酒が強かった。

 しかしそれは、あくまでも中の上といったレベルだ。

 確実に上に入る俺と比べるのは、酷というものだった。


「結局、全部吐いていたからね……」


 金麦亭の料理は絶品だった。舌鼓を打つという表現がぴったりだ。

 でもレオンは、それを堪能しきる前に酒とゲロの海に沈んでしまった……実にもったいない。


「あんな弱り切ったレオンさんを見たのは初めてだよ。俺の師匠を打ち負かすなんて、リーネもなかなかやるな」


 茶化すように言ってくるのはハルトだ。

 槍使いの師匠として、ハルトはレオンを尊敬しているという。

 いつか槍の試合で一本取りたいとも言っていたが――ある意味、俺が先に一本取ったわけだ。


「酒で負かしても嬉しくはないさ。でも、ハルトも挑めるものなら挑んで来てもいいよ? 私に勝てたら、一発ヤる権利をやろう!」

「勝てない勝負は嫌いじゃないけど、勝てない上に後で地獄を見る勝負は嫌いなんだ。それに負けたらリーネに何を毟られるか分かったもんじゃない」

「慎重だね。でも、その慎重さが冒険者の身を助けるものさ」


 なんて馬鹿話になろうとしていた時、リゼから静止が入る。


「それまでにしてください。今日は王都を見て回るのでしょう? そろそろ出発しますよ」


 俺が潰れなかったことで、予定通り王都観光をすることになった。

 案内役はリゼ。王宮勤めであった知見を存分に生かしてもらおうという算段だ。


「分かってるって。準備はできたよ。さあ、行こうか」


 王都には目的がある。でも、だからといって、目的もなしにぶらつく時間を全て否定する必要もない。

 明日も空いている。時間という意味では、まだ余裕があるからな。

 今日は王都観光だけをする――そう割り切るのも、悪くない選択だろう。

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