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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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野営地にて

 三羽雀亭の二階の一室を長期契約して、そこはすっかり『鍛鉄の剣鉈』の拠点へと変わった。

 引っ越しに片がつき、依頼内容の確認のためにギルドへ向かう。

 ボルクから聞かされた目的地は――レーベン村。グレインフォールから南東へ、徒歩で二日の地点にあるらしい。


「……馬があれば、一日で着くんだけどね」

「仕方ありません。馬は返してしまいましたからね」


 グレインフォールに来るときは馬に乗っていたが、あれはリンデベルク家の資産だ。

 とっくに家臣が回収している。リゼの馬も同じだ。冒険者稼業で街に張りつくなら面倒を見きれない。結局、徒歩で行くしかない。

 旅装の紐を締め直しながら、俺は小さくため息をついた。


「野営ってのがね……途中に宿場町もないし」

「四人もいるんだから、野営も余裕だよ。面倒なのは準備が増えるってだけだ」


 そう言って笑ったのはハルトだ。エステルも不満はなさそうで、むしろ少し楽しげに地図を覗き込んでいる。

 

「レーベン村か……懐かしいな。俺たちの村とも交流があって、物資の融通とかちょくちょくやってた」

「私は教会の行事の手伝いだね。僧侶の人たちなら顔見知りが多いよ。村の空気も知ってる」


 目的地のことを知る案内役がいるなら、道中も多少は気が楽だ。

 そう思えば徒歩の旅も悪くない――ということにしておこう。



 

 グレインフォールを出て数時間。

 その街道は、途中から道と呼んでいいのか怪しくなる。轍はところどころで途切れて、草に覆われた細い土の帯が林の際を縫っているだけだ。

 荷を分散して背負った俺たちは、ただ黙々と歩いた。


 日が傾くにつれ木々の影が伸び、空気の温度が一段下がる。

 昼と夕方の中間とも言える時間帯――リゼが足を止めた。


「ここで野営としましょう」

「まだ日は高いけど?」

「疲労していては戦えません。どうせレーベン村で休憩するのです。急ぎ過ぎるのは逆に損ですよ」


 理屈としては真っ当だ。

 村に着いた途端から討伐――なんてことなるわけがなかった。

 ハルトとエステルに視線を投げると、二人とも頷いた。


「この辺なら水場もあるはず。たぶん、少し外れたところに浅い沢があるよ」

「多少遅れても明日の夕方前には着くはずだ」


 エステルとハルトもそう言うんだ。ここで野営だな。

 

「じゃあ、準備しようか。どうすればいい?」

「天幕は私とリゼとハルトで設営します。薪拾いはエステルにお願いします」

「分かった」

「任せて!」


 野営経験が豊富というリゼが音頭を取り、作業を進める。

 三人で協力して天幕を張り、エステルが薪を集めて火を起こして、鍋を設置する。

 火打石の火花がぱちりと散って、火が起きて、エステルが料理を始めた。


 鍋には干し肉と乾燥野菜を放り込んでいた。

 味付けは塩だけなのに、妙にいい匂いが空腹を誘う。


「……なんでこんなに美味そうに見えるんだろうね」

「結構歩いたからね。お腹が減ってればなんでも美味しく見えるものよ」


 エステルが笑いながら鍋をかき混ぜる。頬が火に照らされてほんのり赤い。

 正直、俺の好みど真ん中だ。胸は小さいが、それはそれで良し。

 なんて――余計なことを考え始めると収拾がつかなくなる。今は飯に集中だな。


 スープを器に注いで、パンを割って、黙々と胃に流し込む。

 味は素朴だが、やけに美味い。空腹が一番のスパイスとは月並みだが真理だな。

 片付けまで終われば、あとは寝るだけ――と言いたいところだが、全員で寝入るわけにはいかない。夜番がある。


「夜番は二人一組。二刻ずつ交代で回します」


 焚火の光の中で、リゼが淡々と段取りを切る。

 

「当然、リーネとリゼ、俺とエステルの組だよな?」

「却下です」


 ハルトの提案は即座に切り捨てられた。

 

「パーティーとして行動するのです。野営はこれから増える。ハルトには、エステル以外の異性と寝ることにも慣れてもらいます。リーネも同様です」

「私はどうってことないよ。ハルトと同じ組でもいい」

「い、いや……それはちょっと」


 ハルトが露骨に引く。

 避けられている――って雰囲気じゃないけど、いきなり俺みたいな顔もスタイルもいい女と一緒に寝ろと言われても躊躇するのは当たり前か。

 俺達の反応を見ながら、リゼは少しだけ考える素振りをして結論を出した。


「最初からリーネは刺激が強いでしょう。今日は私がハルトと寝ます」

「刺激が強すぎるって何!?」

「リーネですから」


 リゼは真顔でそんなことを言った。

 刺激という単語についてリゼを問い詰めたいが、とりあえず今は黙る。

 ハルトは俺とリゼを見比べた後に、顔を赤くして指で自分の頬を掻いた。


「だ、大丈夫なのかよ……」

「大丈夫です。私はあなたに色目を使いませんし、あなたも私に手を出す度胸はないでしょう」

「ひでぇ言い切りだな!? 否定はしないけど!」


 リゼはやたらと男女の線を消そうとする。

 騎士団の扱きでそうなったらしいが、本人は平然としていることに闇を感じる……。

 とはいえ、ハルトが慣れるまでリゼは適任だろう。基本塩対応だからな。


「それで決まりかな。組はリゼとハルト、私とエステル。最初の夜番は私とエステルでいい?」

「それでよろしいかと」

「わ、分かった……」

「はーい」


 決まったからには即行動だ。

 リゼとハルトは天幕へ入り、寝る準備に取り掛かった。俺とエステルは焚火のそばに残る。

 天幕の布が擦れる音がして、すぐに静かになった。ハルトの奴……今頃カチコチだろうな。


 夜番をしていると、火のはぜる音が夜の静けさに小さく響く。

 すでに雑談らしい雑談は一通り終わっていた。

 言葉のない静かで穏やかな時間が続く。

 

 ふとエステルの横顔を見る。焚火に照らされたエステルの頬線は柔らかく、睫毛の影がくっきり落ちている。

 結わえた髪のうなじから、白い首筋へ。外套越しでも細い肩が分かる。

 寒さのせいか、彼女は指先を軽く擦り合わせていた。


 ……やっぱり、かわいいよな。


「ねえ、エステル」

「なに?」


 焚火を見たまま、軽く声をかける。


「エステルってかわいいよね。村じゃ、男が放っておかなかったんじゃないの?」


 エステルの肩がぴくりと揺れて、頬に薄く赤みが差す。

 視線は火に向けたままだが、耳まで赤くなるのが分かった。


「え、えっと……村では、確かに声をかけてくる人はいたけど」

「だろうね」

「でも街ではそんなことないよ。そういう風に見られてる感じ、あんまりしないし」

「意外。ギルドとかで声を掛けられたりしてないの?」


 エステルは少し考えてから、ぽつりと言う。


「たぶん、レオンさんたちの教え子だからじゃないかな?」

「ああ……面倒見てる子に変な虫がついたら困る、ってやつか」

「うん。多分ね」


 なるほど。

 なら、パーティーを組んだ俺なら口説いても問題ない。

 ……この場では、そう考えておこう。


「でもさ」


 小枝をくべながら、何気ない調子で続ける。


「女冒険者としてやっていくなら、男をあしらう技術もいるよ」

「それは分かるけど、具体的にはどうするの?」

「絡まれたら断る。軽口には軽口で返す。練習しておくと、面倒が減るはず」

「……練習って、どうやって?」


 食いついた――よし。


「私が男役をやる」

「え?」

「男をあしらう練習。ほら、夜番の暇つぶしも兼ねてね」


 しばし沈黙。やがてエステルは、小さく息を吐いて頷いた。


「……いいよ。リーネがどこまで男っぽくできるのかは疑問だけど」

「それは、やってのお楽しみ」


 少しだけ身体を寄せる。

 焚火の熱と夜気の冷たさが混ざり、吐く息が白い。声を落として囁く。


「やっぱり、エステルはかわいいね。どう? このまま宿にでも行かない? 楽しい夜にしようよ」


 エステルは一瞬きょとんとして――次の瞬間、ぶっと吹き出した。


「なにそれ!? そんな人いるの?」

「さあ? いるんじゃない? 口説き方なんて人それぞれだし」

「でも……ちょっと面白い」

「じゃあ次。もう少し有りそうなやつで」


 今度はわざと下卑た調子に寄せる。

 声を太くして、肩をいからせる真似までしてやる。


「おう、ねーちゃん。新人か? ならこのリーネ様に酌をしろよ。ほら、早く」


 エステルはきょとんとしたあと、真面目に考え込んだ。


「あー、そういう人はいそうだね」

「で、どう返す?」

「……お断りします。だって、やる価値があるか分からないから」

「そりゃそうだけど、強要されるのをどう返すかって話だよ」

「えー……それなら、こうかな――」


 そこから先は軽口の応酬になった。

 俺はかわいいという単語を惜しみなく混ぜ、エステルは困ったように笑いながらも、時々ほんの少しだけ嬉しそうに目を細める。

 どうやら褒められることに慣れていないようだ。村では声を掛けてくる奴はいても、ここまでナンパな奴はいなかったらしい。


 ――でも、これで方針は決まった。


 

 二人きりの時に冗談交じりで容姿を褒めまくり、スキンシップも少しずつ織り交ぜる。

 精神操作を使えば簡単だが、それはあまりに外道過ぎるしゲームとして考えても面白くない。

 エステル口説き落としゲーム――これは面白くなってきたぜ。


「――リーネ。交代の時間です」


 背後から声がして、振り向くとリゼが立っていた。

 どうやら交代の時間のようだ。


「そっか。じゃあ交代だね」

「うん。分かった。リーネ……ちょっと楽しかったよ」


 口説き落としゲームは置いといて、仲間との間に楽しい空気を作れたのは純粋に良いことだ。

 立ち上がり、外套を整える。そしてエステルと一緒にハルトとリゼの組と入れ替わりに天幕へと入って行く。

 その時のエステルの横顔は――少しだけ赤みを帯びているように見えた。

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