パーティー結成
思った以上に時間が経っていた。
お試しでパーティーを組むという予定は頭の中から消え失せ、考えられる連携を何度も試してみたからだ。
パズルのピースがハマるという表現はまさにこの事。ハルトとエステルも、たぶん同じ感想を持っていたと思う。
トビーの限界まで獲物を狩って森の外に出れば、太陽は正午を過ぎていた。
討伐依頼を終わらせたら食事を取りながら今後のことを話し合おう。
そんな予定だったのに、これでは昼食ではなく夕食になってしまいそうだと皆で苦笑する。
俺たちは、現在街へと帰還中――この中で特に目立つのは、やはりトビーだった。
背中にはブルタスクが一頭。背嚢の両サイドには十匹を超えるグリムパップがくくりつけられている。
最低限の血抜きだけはしてあるが、重さは相当なはずだ。
だが、当然のようにトビーはそれを背負い、余裕で歩いている。
初めて一緒に討伐依頼を受けた時よりも、今のほうが余裕がありそうだ。
トビーも成長しているのかもな。
「これは……とんでもないな」
「ほんとよね……」
ハルトが感嘆の声を上げる。
エステルも同意し、呆れ半分、感心半分といったところだ。
「最初は私も驚いたけど、もう見慣れたものだよ。グレイマウルだって背負えるくらいだからね」
「まだまだ、こんなもんじゃないよ。もっと背負えるようになってみせるさ!」
俺の言葉に対して、自信満々にトビーは答えた。
いくら力があってもトビーの身体は小さい。その点で考えれば、体が成長したらどれだけのものになるだろうか?
将来性という意味では、一番の有望株はトビーなのかもしれない。
そんなことを考えつつ、街への道のりを進む。
事前の予想と裏腹に、かなりの黒字だろう。
酒には懲りたから今回はパスするにしても、飯屋のグレードを上げてもいいはずだ。
門を通り、ギルドに向かう。
併設された解体場で獲物を引き渡し、素材の買い取りや討伐証の受け渡しを終わらせた。
その足でギルドホールに入ると、受付へ行く前にトビーと別れる。
「じゃ、またな。次に討伐に出るときは声をかけてよ。空けておくからさ」
ギルドの二階にトビーの部屋があるが、そこに直行していった。
受付に用はないらしく、さっさと休みたいのだろう。
打ち上げに誘ってはみたが、それも断られた。
――戦っていない自分が、その輪の中に入っていく資格はない。
と、言うことらしい。
トビーのおかげで稼げているのだから、そんなことは気にしなくていいのにと思うが、本人はそのあたりの線引きをかなり気にしているようだった。
無理に誘う気にもならず、そのまま受付に向かう。
そこにはいつもと変わらず、ボルクが帳簿を眺めているところだった。
四人で近づくとすぐに気づいて、帳簿から視線を外しこちらを見る。
「おう、帰ったか。で、成果はどうだ?」
「トビーが背負えるまで狩ったよ。お試しで森に入った割には上々の成果だね」
そう言いながら、ボルクに討伐証代わりの木札を渡した。
ボルクは木札を受け取り、報奨金を取り出してカウンターの上に置く。
「ほらよ。山分けで良いんだな? こちらで分けておいた」
「ありがとう。ならこっちが私達で、こっちがハルトたちの取り分」
自分の取り分の銀貨二枚を回収してカウンターから離れる。
そうするとハルトが神妙な顔つきでカウンターに近づき、彼らの取り分の銀貨二枚をじっと見つめていた。
どうやら、いつも以上の金額を得られたと驚いているらしい。
「さっきの素材の売却といい、これが一日で……しかも山分けしてこれかぁ」
エステルもハルトの隣に並び、静かに同意した。
「凄いね、この金額……。それに、あんまり危険もなかったし」
二人の驚きも理解できる。素材の売却と合わせれば、半月は余裕で暮らせる。
俺も最初にトビーを連れて討伐依頼をこなした時に驚いたからな。
森の中の解体も最低限で済むし、戦うことにリソースを割けるって利点は、冒険者にとって計り知れない。
「ほう? その言い方だと、パーティーを組んだときの相性が良かったってことだな。ギルドとしてもお前たちを組ませたい意図があったが、こちらの予想以上だったように見える」
ボルクがそう言うと、兄妹は同意する。
「攻撃のほとんどを任せきりにしてしまったから、なんとも歯がゆい思いですが……ブルタスクをああも簡単に仕留められることは驚きでした」
「いつもは兄に全力で魔法を掛けて、それでなんとかやっていました。でも、今日は苦戦するってことが、まるでなかったです」
言葉を額面通りに受け取れば、ずいぶんとこちらを評価してくれていることになる。
が、それはこちらも同じ。戦いやすさが段違いだったからな。
「それに関してはお互い様。リゼと二人だけでもなんとかなっていたけど、かなり神経質な戦いを強いられていたからね」
「リーネの言う通りです。あなたたちに助けられたのは私たちも同じ。卑下する必要はありません」
俺とリゼがそう言えば、ハルトとエステルは感激したような顔になる。
……これは、悪くない反応だよな。
「それじゃボルクさん。私たちはこれで」
「おう。次に会う時は四人でパーティー登録してくれたら嬉しいぜ。回せる仕事の幅が増えてギルドも楽になるからな」
ボルクと別れの挨拶をして、ギルドを出る。
あとはお互いの宿に戻り、それから打ち上げだ。
「遅めの昼食だけど、夕食も兼ねてしまえばいいと思ってる。それでいいかな?」
「はい! では俺とエステルはいったん宿に戻って着替えてきます」
食事を取る場所は『街道の守護剣』と飲みにいった、あの酒場にした。
飯も美味く、冒険者の祝いの席として定番らしいから俺達にはちょうどいい。
「じゃあ、いったん解散。現地で集合しようか」
ということで一時解散。
今日の戦いの総括もそこですればいい。
こういうのって、あれだな――冒険者やってるって感じがする。
酒と料理の匂いが食欲を誘う。
まずは乾杯ということで、木製のコップを打ち鳴らした。
「乾杯! じゃあ、まずは腹を満たそうか。今後についてはそれからだ」
テーブルには、既に簡単な料理が並んでいる。
パンと煮込み料理と、焼いた肉。肉については魔獣肉ではなく、ちゃんとした牧場のものでかなり値が張る。
だからこそ冒険者の打ち上げとするにはもってこいだった。
ハルトとエステルは普段は魔獣肉を食べているようで、ちゃんとした肉の味に感動している。
無言でスプーンを動かし、手で肉を持ってかぶり付いていた。
身の上話を少ししたけど、彼らは農村出身らしいからな。マナーの類についてはご愛敬だろう。
まあ――俺とリゼも、貴族らしい礼節なんてこの場では投げ捨てて、思う存分に飯を味わっているわけだが。
「ハルトとエステルは、どう感じた?」
食事が終わり、ゆったりとした空気になったところを見計らいそう尋ねる。
「……正直、びっくりしました。剣士が二人いると、前衛ってこんなに楽になるんだなって。分かっていたつもりですが、想像以上です」
ハルトはそう答えた。
パーティープレイについてはグレイマウル狩りで十分に分かっている。
最低限四人のパーティーが推奨される意味――その実感は俺にもある。
「そうだね。私としてもやりやすかったよ」
「リーネに同意します。と、言うよりも……私は騎士団に所属していたので、その重要性を最初から分かっていましたが」
やはり、冒険者として討伐依頼をメインにするなら四人以上は欲しい。
冒険者パーティというユニット単位で考えれば、単純な能力や実力ではなく役割が重要だからだ。
新人であるハルトやエステルでも、その役割は十分にこなすことができる。
「さて、それでどうする? ハルトたちとパーティーを組みたいってのが私とリゼの間で出した結論。今日みたいに、今後も戦いたいからね」
こういうことはストレートに言うのがいい。
俺の誘いに、ハルトとエステルが視線を合わせる。
そして、こちらを向いて二人は同時に頷いた。
「お願いします。パーティーを組んでください」
ハルトのその言い方はあまりにも真面目で、少しかしこまりすぎていた。
これでは、対等な立場で話し合ったという感じではなく、彼らを自分の配下に置くみたいじゃないか。
そんな関係を望んでいるわけじゃない。となれば――。
「なら、そんな言葉使いは不要だよ」
同じパーティーを組むってのに、丁寧過ぎる言葉使いなんて必要ないはずだ。
「私たちの出自に関係なく自然に話してよ。貴族だとか平民だとか、戦ってる時には関係ないから。これから仲間になるんでしょ? 遠慮は無用さ」
そう言ってやれば、ハルトが一瞬だけ目を瞬かせ、それから小さく息を吐く。
「――分かった」
それは、ある種覚悟を決めたような表情だった。
「よろしく頼む、リーネ。そしてリゼ」
「うん。よろしく」
「ええ、よろしくお願いいたします」
言い切ったあとに、ハルトの表情は軽やかに緩む。
どうやら少し緊張していたらしいけど、俺とリゼの言葉を聞いて安心したようだ。
「こちらこそ、よろしくね」
次にエステルが笑顔でそう言った。
――挨拶としては、これで終わりだ。
これで、俺たちはパーティーとなった。
まあ、正式に認められるのはギルドに登録してからだけどな。




